心霊史に残る実話『死霊館 エンフィールド事件』の撮影現場に潜入!
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低予算のホラー映画ながら世界興行収入は3億ドル(約330億円)と予想を超える大ヒットとなった『死霊館』。多くの映画ファンをうならせた傑作の続編を、あのジェームズ・ワン監督が再びメガホンをとって撮影中だと聞き、撮影現場を訪ねた。新作は、アミティヴィル事件を基にした前作から6年後、イギリスで起こった有名なエンフィールド事件を題材にしている。主役はもちろん、パトリック・ウィルソン&ヴェラ・ファーミガが演じる実在の心霊研究家ウォーレン夫妻(エド&ロレイン)。この二人が、“史上最長期間続いたポルターガイスト現象”として心霊史に残るエンフィールド事件に挑むというのが新作の物語だ。(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル110円計算)(取材・文:細谷佳史)
LAにロンドンの郊外を再現!
出だしで多少アメリカのシーンは出てくるものの、基本的にイギリスを舞台にしている本作。しかし、撮影はほとんどロサンゼルスのワーナー・ブラザースのスタジオで行われていた。そのスタジオの一つに足を踏み入れて驚いた。そこには物語の中心となるホジソン家だけでなく、周囲の街並みも見事に再現されていて、いきなりロンドン郊外に瞬間移動したような気分になったからだ。
イギリスの物語をロスで撮影することにした理由は、家の中の撮影が多いため、どこへ行ったとしても結局スタジオで撮影することになると予想された以外にもあったと、プロデューサーのピーター・サフランは語る。
「監督のワンにとってやりやすい環境を目指したことが大きかった。ジェームズは自分たちのクルーをできるだけキープしたいと思っていた。(ロンドンでの撮影だったら)その何人かを失うことになっていた。僕たちのプロダクションデザイナー、ジュリー・バーゴフを連れていけたかどうかはわからない。彼女は本当に見事な仕事をした。そういったことは、僕らが望む映画のクオリティーにするためにとても重要だったんだ」
イギリスのセット以外では、ウォーレン家のセットも部分的に組まれていて、何と前作でアナベル人形が保管されていたあの収蔵部屋のセットも! 残念ながらアナベル人形はそこにはなかったが、部屋の中には多くのアンティークコレクションが所狭しと並べてあり、日本の侍の鎧も飾られていた。
「1作目の後、人々はあの収蔵部屋に魅了されていた。なぜならそこは、ウォーレンたちが関わった全ての事件のアーカイブとなっていたからだよ。(映画では)その大部分は僕らが作り出して、そこに置いたものだ。今回は1作目を撮影したウィルミントン(ノースカロライナ州)では撮影しなかったから、ロスにそれを再現してもう一度作ることにしたんだ。そうすれば、将来やる映画でもそれを使えるしね。その部屋にアナベルがいたという事実とそのスピンオフ映画が成功したことで、そこにある他の物で似たような運命を辿る物があるかもしれない、という可能性が出てきたんだ」
今後、収蔵部屋からアナベルに続いてスターが生まれるかも、というサフランの話には、思わずほほ笑んでしまった。
ジェームズ・ワンがホラー映画に戻ってきた理由
ジェームズ・ワン監督はクライマックスシーンの撮影に集中していて今回話を聞くことはできなかったが、ワン自身も、続編でエンフィールド事件を手掛けることに興奮していたとサフランは言う。
「僕らは、(前作の)ペロン家とは何かとても違うものを必要としていた。あれは曲型的なアメリカのニューハンプシャーの物語だったから、舞台をロンドンにすることでとても違う環境がもたらされたんだ。ジェームズは、アメリカの外で、リアルなドラマに支えられたものすごく怖い映画を作るというアイデアをとても気に入っていた。だから題材選びは簡単だったよ。とてもよく知られたストーリーで、ペロン家のストーリーを受け継ぐ価値のあるものだと感じたしね」
前作『死霊館』の成功が、ホラー演出家としてのワンの非凡な才能によるものなのは明らかだ。しかし、『ワイルド・スピード SKY MISSION』の製作中、ポール・ウォーカーさんの突然の死によって撮影が予想以上に長引いたこともあり、ワンは当初、続編を監督することにあまり興味を示さなかったという。ファンとしてはワンあっての『死霊館』なので今回、彼が監督としてカムバックしてくれたことはうれしいニュースだが、ワンが心変わりした背景には何があったのだろうか?
「『インシディアス』『インシディアス 第2章』『死霊館』とスーパーナチュラルスリラーを3本立て続けにやって、ジェームズは“怖がらせるアイデアの入ったタンク”を使い切ってしまったんだ。彼は、そのジャンルで言いたいことを全てやってしまった。でも、『ワイルド・スピード』を2年かけて作っている間、彼はそういった場所から離れて人を怖がらせることをしていなかったから、ホラーのアイデアが彼の中で大きくなっていき、それを吐き出す必要が出てきた。僕はそういったことがその理由の一つだと思う」
サフランは「彼との仕事の全てが楽しい」とワンのことを褒めちぎった。
「ジェームズには、怖いことに関してとても限られた人しか気づかない、見えない、ものすごい第六感がある。彼はあるシークエンスを見たら、それをさらに怖いシークエンスに変えることができる。最初のものでも僕らにとっては十分怖いんだけど、彼はそれをスタート地点にして、さらに三つか四つ怖さの度合い高めていくんだ」
ちなみに、今回は撮影前に、アメリカでは珍しいお祓いをしたという。
「なぜなら最初の映画では、実に多くの奇妙なことが起きたんだ。多分、古い町のウィルミントンで撮影していたからということもあったと思うけど、僕らはお祓いをしていなかったんだ。だからこの映画ではお祓いをした。見ての通り、今のところ比較的静かだよ」
悪霊とのバトルで血がにじんだパトリック・ウィルソン
悪霊との激しい戦いのシーンを撮影中だったパトリック・ウィルソンは、体にハーネスを付けて、顔に血がにじんだメイクのままで登場。新作は、役者にとって、肉体的にさらにハードな内容になっているようだ。
「僕らは全ての部分で作品をさらに上のレベルへと押し上げた。肉体的にも、感情的にもね。ジェームズが見事なのは、決して同じ場所にじっとしていないところ。だから僕と彼はウマが合うんだ。なぜなら、僕らは二人とも、自分を上のレベルに押し上げるのが好きだからだよ」
1作目が大成功して続編を作ることになったことを、パトリック自身はどう見ているのだろう?
「前作が何億ドルも稼いだことについては驚きだった。でも僕は、『この作品はこれだけのお金を稼ぐぞ』といったことは考えない。ホラーファンたちを納得させることができた時、その映画がうまくいったとわかるんだ。そして、いわゆるホラーオタクじゃない女性たちが僕のところにやって来て、『ホラー映画は好きじゃないけど、『死霊館』は大好きだった』と言うのを聞いた時、自分たちが違う種類の観客をつかむことができたと感じる。それはエキサイティングだ。僕にとってそれは、その作品が、一つのジャンルに収まらない、『シャイニング』や『ポルターガイスト』のようなクラシックな映画になったということなんだ。1作目ではそれをやったと思うし、この作品でも同じことができると期待している」
また新作では、エドとロレインの夫婦の絆はさらに強くなっているとパトリックは語る。
「(二人の間に)もっと大きな軋轢があるんだ。『何が正しいか?』といったことでね。前作ではそういったことは娘のジュディに注がれていた。この作品ではもう少しそういったことが強く、深くなっている。幸運にも、ヴェラと僕にはとてもしっかりした関係、親密さ、相性のよさがあり、二人ともそういったことを掘り下げたいと感じているんだ」
サフランによると、今年89歳になったロレイン・ウォーレン本人も、ヴェラ・ファーミガのキャスティングに非常に満足しているという。
「ロレインは、(映画の中の)エドとロレインのやりとりを何よりも気に入っている。二人の間にある楽しい関係がそこに入っている点をね。彼女は、この映画でやっと自分たちのしていることがちゃんと描かれたと感じているんだ」
ホラー映画ではよく、観客をどれだけ怖がらせるかというショック・バリューが問われる。そしてその結果、ハリウッドは、物語よりも刺激的な映像を中心にしたホラーに走りがちだ。しかし『死霊館』は、キャラクターたちに怖いものを感じさせる前に、多くの時間を割いて、まずはキャラクターを作り上げるという往年のホラー映画の作り方に回帰し、単なるジャンル映画以上のものを観客にもたらした。プロデューサーのサフランは、新作のテーマは「家族だ」と明かす。ウォーレン家とホジソン家という二つの家族が互いを助け合うといい、前作以上に感情に訴えるホラー映画が期待できそうだ。
映画『死霊館 エンフィールド事件』は7月9日より全国公開
【今月のHOTライター】
■細谷佳史(フィルムメーカー)
プロデュース作にジョー・ダンテらと組んだ『デス・ルーム』など。『悪の教典 -序章-』『宇宙兄弟』ではUS(アメリカ側)プロデューサーを務める。
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