『デッドプール』ライアン・レイノルズ 単独インタビュー
マーベルコミックの人気キャラクター、デッドプールを主人公にすえた『X-MEN』シリーズのスピンオフ『デッドプール』(6月1日公開)は、末期ガン治療のために受けた人体実験によって、どんなケガも治すことができるミュータントとなった元特殊部隊員の戦いを描くアクションコメディーだ。2億ドル(約210億円)近くともいわれるハリウッド産スーパーヒーロー映画と比べ、本作の制作費は約5,800万ドル(約63億8,000万円)というハリウッドのヒーロー映画としては低予算。にもかかわらず世界中で予想外の大ヒットを記録し、全世界興行収入は7億6,000万ドル(約836億円)を突破。『X-MEN』シリーズとして歴代最高、さらにR指定作品としても『マトリックス・リローデッド』(2003)の記録を抜いて歴代1位のヒット作となった。(数字はBox Office Mojo調べ・1ドル110円計算)
主演は2009年の『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』でもデッドプールを演じたライアン・レイノルズ。長年この企画に関わり、デッドプールを知り尽くしているレイノルズなしに本作の成功はありえなかっただろう。そんな彼が、これまでのキャリアで一番のハマリ役にして代表作となった本作の魅力や成功の秘密を語った。(取材・文:細谷佳史)
■初登場は大失敗!
Q:『デッドプール』の成功についてどのように感じていますか?
『デッドプール』は僕にとって、11年間に渡る、情熱を傾けたプロジェクトなんだ。それが作られるのを見るだけで奇跡みたいなものだったし、さらに成功するなんて、本当に信じられないことだよ。
Q:『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』で演じたデッドプールと今回の彼はかなり違いますね。
その映画は、11年の間に起きた失敗の一つだよ。僕は、ウルヴァリンというキャラクターの大ファンだけど、あの映画におけるデッドプールの描き方は、僕がやりたいものでも望むものでもなかった。実はそれ以前に、デッドプールの単独映画をやることになりそうだったんだけど、スタジオもみんなおじけづいてしまった。それで、「まず『ウルヴァリン』でこの役を紹介し、その後、彼だけの映画をやろう」となったんだ。
でも映画はそれほど評判が良くなかった。他の『ウルヴァリン』シリーズは良かったと思うけどね。それでその後、『デッドプール』の映画をやるのが難しくなってしまった。でも今回の作品は、僕が大好きで、作りたかった『デッドプール』だ。予算の都合上、最も本物だと思えるデッドプールを描くために妥協をしないといけないこともあったけど、何より、子供たちに観やすくするために水で薄めるようなことをしなくてよかったよ! ファンのみんなが、このやり方に感謝しているのを感じるからね。
■ヒーロー映画に飽きた人に!
Q:あなた自身は、この映画のどんな点が観客を魅了したと考えていますか?
そこには、3つの重要な要素があると思ってる。まず素晴らしいアクションだね。他の映画に比べて洗練され過ぎていなくて、直感的でリアルなんだ。それと、とてもエモーショナルな作品だということも大事。だけど、映画を観た直後、観客はそういったことにすぐには気づかない。なぜなら、最高におかしいユーモアたっぷりの映画だからさ! この3つの要素(アクション、感情、ユーモア)が機能することで、正しい『デッドプール』が出来上がっているんだ。デッドプールを、観客が感情移入できる状況に置き、なぜ彼が追い詰められているかを観客が理解するようにすれば、彼はもっと自由になって、おかしいことをできるようになる。そうすればうまくいくんだ。映画としてハートを維持出来るしね。そういったことが観客に伝わったんだと思う。
それと今、ハリウッドでは実に多くのスーパーヒーロー映画が作られていて、(観客の)飽きがピークに達してきている。でも『デッドプール』はその手のジャンル映画やスーパーヒーローに比べて、少し変わった見方で作られていて新鮮だ。だから公開タイミングも、とてもラッキーだったね。
■デッドプールとの出会いは運命!
Q:いつ頃から『デッドプール』のファンになったのですか?
2004年からだよ。『デッドプール』の権利を持っているスタジオの重役……そのころはニューライン・シネマだったな。重役たちが僕に、「デッドプールは知っているかい?」って聞いてきたんだ。そこで「知らない」と答えると、「知っておくべきだよ! 君がデッドプールなんだから!」と言ってコミックを送ってきた。そしたらコミックの中に、「マスクの下はどうなっているの?」って誰かに聞かれたデッドプールが、「俺はライアン・レイノルズとシャー・ペイ(犬の一種)を混ぜたように見える」って答える場面があったんだよ!
Q:まさに運命的な出会いですね。
「ワーオ、奇妙だな。だから連中は僕のことを考えていたのか」と思ったのを覚えているよ。そして、コミックを読み続けていくうちに、彼に完全に感情移入してしまった。僕と、このキャラクターはとても似た感性を持っている。僕も彼のように、ポップカルチャーが大好きで、ポップカルチャーをネタにしたジョークが大好きだからね。とても魅了され、彼のことが大好きになった。タダでもこの役をやりたいと思ったんだ。
■ルール無用のデップー演技!
Q:劇中には、あなたが考えたアドリブもかなり入っているようですね?
デッドプールにはルールがない。どんなことを言っても、どんなこともできる。ファンのみんなが気に入っているセリフで、X-MENの豪邸を訪れたデッドプールが、(屋敷にコロッサスとネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッドの二人しか居ないのを見て)、「スタジオは、もう一本『X-MEN』映画をやる金がないみたいだ」と話す場面があるけど、それは、僕がふざけて撮ったテイクの一つだったんだ。僕らはそれを映画の中に入れ込んで、どうなるか見てみようって感じで、テストスクリーニングをやったら、観客にとてもウケた。それでそのまま、セリフを残すことにしたんだ。そういったことがやれる環境が、僕らにはあったんだよ。
Q:では、監督経験のないティム・ミラーがこの作品に抜擢された理由はなんだったのでしょう?
『ウルヴァリン』の後で僕らは脚本を書くチャンスを得て、それから多分、20人ぐらいの監督たちと会った。でも、ティム(・ミラー)に会った途端、彼こそこの映画の監督だとわかったんだ。彼は、それまで映画を監督したことはなかったけど、「この人はこの作品を理解している」と感じた。僕が監督に求めていたのはそれだけさ。なぜなら、どんなに素晴らしい監督でも、作品の世界観や題材を理解し、それに通じる感性を持っていなければ、絶対にそれをちゃんと描くことはできないと思うからさ。
何でそれがわかるかというと、前にそういった経験があったからだ。他のコミックを基にした映画でね。「これはうまくいっていない。この作品をうまく生かせるためのものがない」と感じたことがね。でもティムは、デッドプールのことをちゃんとわかっていた。だから、(彼のバックグランドが)VFXアーティストだってこともどうでもよかったんだ。でも結果的に、スタジオを説得するのにそのことが役立った。彼と一緒に作った『デッドプール』のテストフッテージがインターネットに流出して、(それを見たファンが熱狂し)その結果、この映画を作れることになったんだからね!
テントポール(超大作)映画並みの潤沢な予算をあきらめ、メジャースタジオ製作の映画では珍しく、創造面での自由を獲得したレイノルズと監督のミラー。そんな二人は、「スーパーヒーロー物はファミリー映画」という常識を打ち破り、原作ファンが望む、これまでにない型破りのスーパーヒーロー像を作り上げることに成功した。ハリウッドではすでにマンネリ化しつつあるヒーロー映画に、大きな風穴を開けた『デッドプール』。すでに来年公開予定の続編が早くも待ちきれない。