6月の5つ星映画5作品はこれだ!【第85回:今月の5つ星】
今月の5つ星
今月は、型破りなアメコミヒーロー、デップーさんや、巨匠ウディ・アレン監督のブラックコメディーのほか、良質な邦画3作品をピックアップ! 次男が無差別殺人を起こした家族の姿を追った三浦友和主演の話題作をはじめ、ベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映された黒沢清監督の新作スリラー、アンチ・ヒーローにふんした綾野剛の主演作……。これが6月の5つ星映画5作品だ!
100点満点!“イイ奴”デッドプールを最高の形で映画化!
『デッドプール』
ウルヴァリンなみの回復能力と強さを誇り、過激な下ネタを交えたジョークを連発、第四の壁(フィクションと現実の境界)を越えてファンにまで語りかけてくる破天荒アメコミヒーローが実写映画化。キャスト名の代わりに「CGキャラクター」「不機嫌な十代」など、ハリウッド映画のお決まりを並べたオープニングタイトルからおふざけ感たっぷり! デッドプールを演じるライアン・レイノルズも、ヒーローにされる人体実験前に「コスチュームは緑にすんなよ!」「CGで描くのもナシだかんな!」とかつて主演した、興行的に失敗したヒーロー映画『グリーン・ランタン』をイジりまくり、「最もセクシーな男」に選ばれたPeople誌を差し込むなど自虐ネタにも果敢に挑戦し、作品にかける気合が伝わってくる。一般のヒーローと違って殺しを楽しむ余裕も持ち合わせているデップーなだけに、スタイリッシュな笑いと血みどろ描写が同居したアクションも最高の仕上がり。しかし、それ以上に感動的なのは、デッドプールが、人殺しを何とも思わない狂人なだけでなく、大切な彼女を守るために頑張るイイ奴として、人間味たっぷりに描かれているところ! 彼が守るヒロインを演じたモリーナ・バッカリンのエロかわいさも最高で、まさに100点満点のアメコミヒーロー映画が誕生した。デッドプールの世界観を壊さないように細心の注意が払われた字幕も秀逸なので、デップーを知らない日本人もしっかり楽しめるハズ!(編集部・入倉功一)
映画『デッドプール』は6月1日より公開中
ウディ・アレンの色あせないクリエイティビティーに脱帽
まず目を奪われたのは、ホアキン・フェニックスふんする主人公(大学の哲学科の教授)のぽっこりとしたおなか。「見事に出てる~」と心でつぶやいたのもつかの間、美しい生徒(エマ・ストーン)や同僚(パーカー・ポージー)からモテまくる彼。酒が手放せず悲観的な生き方をしているのになぜ? 母性本能くすぐっちゃった? とツッコミを入れたくなるキャラクターも魅力の一つだろう。ウディ・アレン監督と初めてタッグを組んで生み出したホアキンの演技力にあらためて舌を巻く。そして、死や殺人といったダークなテーマが隣り合わせなのに軽妙なストーリー。本当はドキッとするほど怖いシリアスな場面でも、不似合いのアップテンポのジャズに乗せて滑稽さに変えてしまう演出はアレン監督ならでは。毎年コンスタントに作品を発表し続ける80歳のアレン監督の色あせないクリエイティビティーやバイタリティーが遺憾なく発揮されており、驚きとともに豊かな楽しさをもたらしてくれる。(編集部・小松芙未)
映画『教授のおかしな妄想殺人』は6月11日より公開
キャラの個性を象徴した「食べる描写」がウマい!
『葛城事件』
前作『その夜の侍』で話題を呼んだ赤堀雅秋監督が次に手掛けたのは、自身が旗揚げする劇団THE SHAMPOO HATでチケットが入手困難になるほど人気を集めた舞台「葛城事件」の映画化。監督がこだわったのは、無差別殺人を起こす息子・稔を舞台版で描いたようなモンスターにするのではなく、どんな家庭にも現れる可能性を秘めた青年として描くことだったという。その狙いも功を奏し、一見他人事に思える事件も、実際に起こりうる狂気であると思い知らされ、人間の本質に根ざす残忍さや滑稽さに、心を鋭く揺さぶられる。キャラクターを「食」で特徴づけている点が面白く、随所に食べるシーンが登場し、家族の行く末を暗示させているようだった。稔を演じた若葉竜也をはじめ、長男役の新井浩文(舞台版では稔を演じた)、母親役の南果歩というキャスティングも抜群。何より、三浦友和の救いようのないダメ親父っぷりには拍手を送りたい。(編集部・山本優実)
映画『葛城事件』は6月18日より公開
『悪魔のいけにえ』を思わせる“秘密の部屋”が怖過ぎる
前作『岸辺の旅』で第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門・監督賞受賞の快挙を成し遂げた黒沢清監督の新作は、怪奇&ホラー映画を愛好し撮り続けてきた黒沢監督の面目躍如といった感のスリラー映画。前川裕のミステリー小説に基づく本作は、主人公の犯罪心理学者・高倉(西島秀俊)が、6年前に起きた未解決の一家失踪事件の捜査協力を始めたのと同じくして、隣人の西野(香川照之)と知り合い、西野と事件の数奇な符合に気付いていく……という原作の大筋は踏襲しながらも、事件の真相も含め大幅に改変されていて驚く。中でも目を引くのが、高倉の妻・康子(竹内結子)のキャラクター。原作では主人公の右腕となるいわば探偵のような役回りだが、映画では西野にとりこまれ、高倉を危険な領域に導くキーパーソンに。その結果、平穏だったはずの日常が不気味な隣人に侵食されていく恐怖を生々しく体験できるつくりとなっている。西野をめぐる「疑似家族」「監禁」「殺人」といったキーワードは「尼崎事件」を彷彿させ、彼の自宅にある“秘密の部屋”は『悪魔のいけにえ』の殺人一家の拷問部屋を思わせるまがまがしさ。殺人の方法や遺体処理などのディテールに工夫が凝らされており、ホラー映画ファンにうってつけの一作となっている。(編集部・石井百合子)
映画『クリーピー 偽りの隣人』は6月18日より公開
綾野剛の新たな代表作が誕生!
衝撃作『凶悪』の白石和彌監督が、日本警察史上最大の不祥事を映画化……聞いただけでワクワクするような組み合わせが形となった本作。なんといっても、先輩刑事から教わった危険なイロハを駆使して規格外の捜査を進めていくことでパッとしない新人からエースにまで上り詰める主人公・諸星を演じた綾野剛の怪演に引き込まれる。諸星が女や薬に溺れる姿も衝撃的だが、何よりも恐怖をあおるのはどんなにヤバいことに手を染めようと自身を正義の味方だと信じて暴走し続ける彼の狂気で、そんな彼の姿に本当の正義とは何なのかと考えずにはいられない。彼を支えるスパイたちが迎える結末も諸星の異常さを引き立たせており、想像もつかなかったスパイ役の中村獅童、YOUNG DAIS、植野行雄の化学反応にはビックリ。そんな俳優陣の名演を引き出した演出はもちろん、重いテーマと笑いの絶妙なバランス感覚で逮捕までの26年間をスピード全開で魅せ、痛快な一作に仕上げた白石監督の手腕が光る。『そこのみにて光輝く』などと並び、俳優・綾野剛の名刺代わりになる新たな一作が誕生した。(編集部・吉田唯)
映画『日本で一番悪い奴ら』は6月25日より公開