『MARS~ただ、君を愛してる~』藤ヶ谷太輔インタビュー
1990年代に絶大な人気を博した惣領冬実による少女漫画「MARS」が映画化された。お互いに心に傷を抱えた樫野零と麻生キラの運命の出会いと恋を描いた連続ドラマの半年後が描かれるストーリーは、二人の良き理解者に見えた桐島牧生の零への純粋すぎるがゆえに残酷になってしまう愛が描かれる。零を演じたのは、本作が2本目の映画主演となる藤ヶ谷太輔。ドラマからの変化や、作品の魅力、そして牧生を演じた窪田正孝から受けた刺激などについて語った。
Q:樫野零はどんなキャラクターですか?
自然体で誰に対しても見返りを求めず、一瞬一瞬を生きている姿が男としてカッコイイなと思いました。他人に対して心を閉ざし、女性関係にはだらしがないのに、学園の人気者で、男からも嫌われないポジションが奇跡的(笑)。多分、憎めないキャラなんですよね。だから、もしも僕が零のクラスメイトだとしたら、すごく仲が良かっただろうなと勝手に思っています。チャラチャラしている零に、友だちとして「お前、しっかりしろよ」とか言っていたと思う。零の憎めない部分は、純粋さをしっかり演じれば出せるんじゃないかなと意識しました。
Q:高校生を演じることに、戸惑いはありましたか?
戸惑いもありましたし、28歳の自分じゃ高校生に見えないだろうなという不安もありました。でも、実際に役に向き合ってみると、自分がリアルな高校生だったらこの役を演じるのは100パーセント無理だったと思うし、今の自分じゃないと太刀打ちできない役だと思います。お話をいただいたときに「高校生の恋愛モノ」と単純に考えた自分が情けないです(笑)。
Q:ドラマの半年後が描かれています。零の変化をどう演じましたか?
零はキラと出会って、暴力性を爆発させることがなくなって、穏やかになりました。零の変化を許せない牧生が、なんとかして零を怒らせようとする。そこで、キラを守るために葛藤するようになったのが、零の一番の変化だと思います。
Q:その複雑な感情はどう作りましたか?
一緒にお芝居する方たちのおかげで、シーンごとに素直にその感情になれました。楽しいシーンは楽しかったし、悲しいシーンはただただ悲しかった。例えば、キラが苦しんでいる姿を見るのは、演じながら本当にしんどかったですし。ただ、出来上がった作品を見ると、その感情が表現しきれていたのかなぁと反省ばかりです。
Q:零とキラのラブシーンや零と牧生が戦うシーンなど、緊張感のあるシーンが印象的です。
ドラマでは、いわゆる「胸キュン」と言われるシーンが多かったので、スタッフさんが「いいねえ!」「キュンキュンしちゃうね!」といって、恋愛のフワフワ感を現場全体で盛り上げてくれました。映画はシリアスなシーンや、ヘビーな感情表現が増えたので、撮影現場の空気も自然とピリッとしていたように思います。
Q:ダブルデートでバーベキューをするシーンは、楽しかったのでは?
自分としては、撮影中に焼いた肉をみんなと昼飯に食べられたらいいなあなんて思っていたんですけど、香盤表(撮影スケジュール表)を見たら「やべえ、そんな余裕はないな」と気付きました(笑)。バタバタしましたけど、楽しいシーンは気持ち的には楽しいです。バーベキューをした公園で、バッタリ再会した元カノの名前を間違えるという零の抜けた一面も表現できて良かったです(笑)。
Q:牧生を演じた窪田正孝さんとの共演はいかがでしたか?
マサ(窪田)とは、ドラマ「美咲ナンバーワン!!」(2011年)で共演したのをきっかけに仲良くなって、普段から遊ぶようにもなりました。今回久々に向き合ってお芝居をしてみて、「ああ、マサはいろいろな経験をしているな」と感じました。スタンバイ中は昔と変わらないマサがいて、本番になった瞬間にガラリと変わって牧生になる。「どんな経験を積んできたんだろう?」とうらやましくなりました。嫉妬しちゃうというか(笑)。
Q:とくに印象に残っている共演シーンはありますか?
全編を通してです。あと、牧生という役を演じる機会があることがうらやましかった。だから「もしも自分が牧生を演じるならどうやるだろう?」とか考えていましたね(笑)。ああいう純粋さが間違った方向に暴走してしまう役を、自分だったらどこまでやるのが正解なのかなって。自分にそういう嫉妬心や欲があることにびっくりしました。
Q:窪田さんとのやり取りに変化はありましたか?
ありました。昔だったら、他愛もない話をして待ち時間を過ごしていましたけど、今回はお互いの仕事や作品のこと、チーム作りについて話をしました。お互いに仕事に対する意識がだいぶ変わったのかなと思います。
Q:出来上がった映画を観て、率直にどう思われましたか?
良い意味で、あっという間に時間が過ぎていく作品だと思いました。零とキラの恋愛ストーリーと、ミステリアスな味付けと、牧生が引き起こすヘビーな展開が混ざり合うことで、ただの恋愛映画じゃなくなっているというか……。観終わったときに、改めて「甘い恋愛なんて、くだらない」「恋愛は、純粋で残酷だ」という、映画のキャッチコピーが自分のなかにスッと沁みこんでくる感覚がありました。リアルな高校生や、男性の方が見たらどう思うのかが気になります。
Q:観る人の恋愛観が浮き彫りになるテーマですよね。
いろいろな女性といくら関係を持っても変わらなかった零が、キラとの出会いによって変わっていく。こういう風に人との出会いによって、自分が変わっていくことって実際にある。この映画を観た人は多分「自分はこんな人と出会いたい」「こんな恋愛をしてみたい」って自分に置き換えて考えるんじゃないでしょうか。
Q:藤ヶ谷さん自身はどう思いましたか?
誰かを本気で好きになるってことは、幸せだけじゃなく、ダメージも大きくなるんだなということを改めて感じました。なかなか大変ですけど、こんな風に人を愛せたらいいなと思います。
アイドルの定義もだいぶ変わり、役柄の幅もだいぶ広がってきた。それでもやはり、藤ヶ谷太輔に与えられた宿命は「主人公」、特に「ヒーロー」「王子様」「カリスマ」を演じることだろう。ダブル主演した窪田正孝への嫉妬を口にしても、少しも嫌味がなく「芝居がうまくなりたい」「こんな役をやれるようになりたい」という向上心に結びつけられるあたり、藤ヶ谷太輔は「ど真ん中」が似合うスターだと改めて確信した。(取材・文:須永貴子)
映画『MARS~ただ、君を愛してる~』は6月18日より全国公開
©劇場版「MARS~ただ、君を愛してる~」