追悼-プリンスと4本の映画 vol.1 大ヒット作~カルト作品編
こんにちは、イラストレーターのラジカル鈴木です。去る2016年4月21日(現地時間)突然、亡くなり世界に衝撃を与えたプリンス。ポール・マッカートニーに“クリエイティブの巨人”と言わしめた天才。僕も最も影響を受けた人であり、こうして好きなことを生業としているのは、全て彼のお陰。誰よりも沢山のことを教わりました。旺盛に作品を発表し続けていた彼が、もう居ないのはいまだに信じられず、アタマとハートがヌケガラで未整理ですが、絵や文章で彼の偉業の一端を振り返りたいと思います。
「彼には先見の明があった」とは同い年の盟友マドンナの弁。プリンスは常にその時代の先を見ていました。80年代初頭は、MTVの放送が始まったりして音楽+ビジュアル時代の幕開けでした。そこに強烈なインパクトで登場しメガ大スターへとなったプリンスは、メディアとして映画にも注目、のちには執着もしていました。大ヒット、カルト的人気作品、大コケと、劇場用映画は4本ありますが、僕に言わせると各々まるで違うので甲乙付けがたく、どれも同じくらい思い入れがあります。初見のドキドキを思い出しつつ、その魅力をご紹介しましょう。(文・イラスト:ラジカル鈴木)
『プリンス/パープル・レイン』1984年
自暴自棄のエリック・クラプトンも救われた「再生」の物語
プリンスが一躍全米&世界的な知名度になった代表作で、アルバム、ツアー、どれも爆発的に成功しました。プリンスと言えばこの頃の姿を思い浮かべるヒトが多いでしょう。デビュー4年少々、数枚のヒットアルバムがあるだけの彼の映画製作は、かなりの冒険だったそうです。低予算、出演者は素人ばかり、引き受けてくれる監督もなかなか決まらず、主演の女の子は離脱(バニティ6のバニティ)、映画会社からはあまり期待されていなかった。しかし、見事にサクセス、プリンスのポテンシャルが大爆発!!!
彼はこの映画のために100曲を書き、選び抜いた曲を採用、サントラに収録。いまや珠玉の名曲ばかり。歌い踊る迫力のシーン!! タイトル曲「パープル・レイン」のボーカルはライブレコーディングだってことは、あまり知られてないですよね? だからあんなに臨場感&情感があるんです。
ラジオから流れ出る彼の曲は聴いていましたが、僕の出身地・春日部(埼玉県“かすかべ”市は『クレヨンしんちゃん』でちょっと有名)にかつてあった“春日部文化劇場”で、高校3年生のとき、たまたま『フットルース』(1984)と2本立てでスクリーンで観て、すっかりハートをわしづかみに!!! 『フットルース』の記憶はどこかへ完全にフットんでしまいました(笑)。それまで発売されたアルバムは全部買い、もっと観て聴きたくなって、当時まだ日本ではプリンスのソフトはレコード以外は皆無だったので1985年の“パープル・レイン・ツアー”のライブビデオを輸入で取り寄せ、完全にノックアウト!!! あとブートレグ屋に通ったり、怪しげな通販でライブ音源や未発表曲も聴き漁る。それから早や32年~ 一体いくら使ってきたのやら~今日に至ります。
お話は分かりやすい。よく“サクセスストーリー”と紹介されていますが、“再生”の物語と言ったほうが良いと思いますね。バンド(ザ・レボリューション)を率い、ライブハウスでライバル(ザ・タイム)と切磋琢磨するプリンス演じる“ザ・キッド”。しかしバンド内ではいつも仲たがい、家に帰れば両親のケンカが絶えず、恋人をライバルのリーダー、モリス・デイに取られ、ステージの契約も切られそうになり、さらに追い討ちをかけるようにミュージシャンの父親の自殺未遂。絶望のフチに追いやられ、死もチラつく……しかしどん底から、再び音楽に一筋の希望を見い出していくのが、感動のクライマックス。かのエリック・クラプトンも自暴自棄の時にたまたまこの映画を観て、この主人公同様、救われたんだそうです。
最初のキャスティングで逃げちゃったバニティの代わりに抜てきされた、なんともエロっぽいヒロイン“アポロニア”は『ゴッドファーザー』(1972)のマイケル・コルレオーネがシシリーで結婚する娘の名から拝借(余談ですけどプリンスは、『ゴッドファーザー』のセリフをサンプリングしたり、大ファンだったと推測できます。また「ビートに抱かれて」シングルB面の「17デイズ」という曲名は『タクシー・ドライバー』(1976)の中のセリフからだったり、映画好きね)、オッパイペロリンするシーンまで『ゴッドファーザー』そっくり(笑)。
実際のプリンスの父親ジョン・L・ネルソンはジャズピアニストであり、幼い彼が音楽の道に進む影響を最大に与えた存在。プリンスの地元ミネアポリスの美しい自然がふんだんに収められているのも見どころ。僕は2002年に訪れたのですが、ホントにだだっ広くて緑が豊かで、北アメリカの超~ド田舎。地元にこだわり一生地元に愛を捧げた彼。ルーツが良く解るプリンス入門編として、まずお薦め!
『プリンス/アンダー・ザ・チェリー・ムーン』1986年
ラジー賞を総ナメした味わい深いカルト作品
プリンスが日本に来る!!!! と狂喜乱舞した1986年秋。初来日公演を観たのが僕の自慢。ファン歴年季入ってます。チケットは春日部ロビンソンのチケットぴあで買いました。初めて生で体験したプリンスは圧巻の一言、地響きと共に横浜スタジアムが巨大なダンスフロアに!!! 後年、この時のことを安斎肇さん(イラストレーター、アートディレクター、ソラミミスト)に話したら「僕らは最前列、スピーカーの側に居たよ」と聞いて、お見それしました! ゲートに入場するとき、公開が急きょ決まったのか、映画『プリンス/アンダー・ザ・チェリー・ムーン』の1色刷りの突貫チラシをもらいました。新宿で単館公開で、間もなく“名画座ミラノ”へ観に行きました。
プリンスの活動は「僕は常に新しい地を征服したいんだ・本人談」という考えに貫かれています。次のターゲットをヨーロッパやその他日本等に向けていたのでしょうか。「パープル・レイン」の熱狂の渦の中で、自分を見失わなかったのが彼の真の凄さだと思います。アルバム同様に映画も、同じものの焼き直しのようなことはしなかったプリンス。
髪を短くし撫でつけ、モノトーンの衣装に身を包みガラリとイメチェン。扮したジゴロのクリストファー・トレーシーが弾くピアノソロでゆっくりと幕を開ける。モノクロの画面、名匠ミヒャエル・バウハウス撮影のフレンチ・リビエラの美しい風景。年代不明で、けだるく生温かい空気が全編に流れている。撮影開始当初、担当していた女流監督を意見の違いから降ろして自らメガホンを取り、監督第一作に。脚本ももちろん何から何までプリンス。
特に僕が好きなのは前半、コメディーを演じているのがなんつってもキュートで、お調子者の相棒(ザ・タイムの)ジェローム・ベントンとの掛け合いがまるで漫才。ワンシーン、ワンシーン、笑えます。後半は強引にメロドラマになっちゃうけど、いっそ全編軽妙なコメディーだったらもっと評価も高くなったんじゃないかな? なんて思ったり。
主演女優はのちに『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)等で有名になった英国のクリスティン・スコット・トーマス、初主演作。つまり劇中キャラと同じバージンだった? このヒト、プリンスとの相性はあんまり良くない、大柄(プリンスよリ身長が10cm高い)でガッチリとした骨格、声は低く太い。彼にはもっと小柄でコケティッシュな魅力の女性が似合う、楽曲提供した(ザ・バングルス)のスザンナ・ホフスのような。
音楽シーンは、ピアノの上でクネクネと踊る「ガール・アンド・ボーイズ」とエンディングの「マウンテンズ」のプロモ映像のみ。やっぱり、歌い踊ってこそ光り輝くプリンス、殆どの楽曲が、あの大ヒット曲「KISS」でさえ劇中BGMでしかなかったのが、興行成績が振るわなかった一因かなとは思う。でも、クリストファーが死ぬラストに流れる「サムタイム・イット・スノウ・イン・エイプリル」、彼が本当に逝ってしまったいま、あまりにも心に染みます……。
完成披露のワールドプレミアは、全米から“プリンスとデートできる”くじが当たった、女の子の住んでいる、ワイオミング州・シエラ山の田舎町というこれまた意表をつく場所で行われ、そのときの彼のはしゃぐ姿がTV特番に残っています。この後に展開した「パレード・ツアー」の曲をイキイキと演奏するステージは、むっちゃ楽しい。この話にはオチがあって、そのデートした女の子が後日「ほんとはプリンスなんてあんまり好きじゃないのよ、私ヴァン・ヘイレンの大ファン」と暴露しちゃった(笑)。
カラー撮影したのをモノクロに落としたらしく、カラーのスチール写真もあって、色彩版も観てみたいなあ。独自のセンスに溢れたこのチャレンジングな作品は、第7回ゴールデン・ラズベリー賞の作品、監督、主演男優、主演女優、主題歌賞を総ナメしてしまいました。ま、悪いこっちゃないと思いますよ、箸にも棒にもかからないよりは。満載なツッコミどころも含めて楽もう!! 少しでもプリンスの魔法にかかっている、またかかり始めたアナタなら、タマラナイ一本だと思います!!!
次回は後2本について、みっちり 書かせていただきます。~ C U Soon!!!
ラジカル鈴木 イラストレーター。プリンスファン歴32年。
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