ウーマンラッシュアワー村本大輔、『怒り』の感想にいまだかつてない苦戦!
映画たて・よこ・ななめ見!
ジブリで宮崎駿監督の出待ちをしちゃうほど映画好きの村本大輔と、映画に関しては素人同然の中川パラダイスが、あらゆる角度からブッ飛んだ視点で映画トーク。今回は、『悪人』の原作者・吉田修一&李相日監督のゴールデンコンビによるオールスター映画『怒り』をななめ見! 八王子で起きた未解決の夫婦殺人事件を軸に、東京・千葉・沖縄にそれぞれ登場する前歴不詳の3人の男と、彼らに殺人の疑惑を持つ人々の愛憎を描いた衝撃的な一作に、村本&中川が動揺しまくり!(取材・文:シネマトゥデイ編集部 石井百合子)
村本、映画のコメントにいまだかつてない苦戦
村本:これはヤバかったな。連載の文字数が3,000、4,000ぐらいとしたら全部「あー」って叫び続けるぐらいの衝撃やで。観ながら何てコメントしようかずっと考えててんけど、よう表現できん自分への怒りが沸いてくるというか。何を言っても軽々しくなりそうで怖いというか。
中川:『怒り』っていうタイトルからして、最初は何か怖い映画なんかなと思ってて。冒頭、夫婦が殺されているところから始まるやん? なんやけど、途中から「愛」にあふれた映画やなって。
村本:愛と怒りは、一緒ってことなんかな。全員純粋やったな。でも、なんか人間の見たくない部分を無理やり見せられた感じというか。特にこの大都会におったら、皆同じようなファッションをして、周りに好かれるような言葉を言って、「幸せでないと」って顔をしながら、いい人間であろうと、素敵な人間であろうとして生きてる。そんな人たちを丸裸にしたような感じというか。俺には自分の嫌いなところも好きなところもあるけど、嫌なところを見せつけられているようで、何回も「うっ……」ってなった。
中川:例えば東京の妻夫木聡さん&綾野剛さん演じるゲイのカップルのエピソードなんかは、最初は優馬(妻夫木)が直人(綾野)に信用できんって言うてても、どんどん好きになっていって。千葉でも愛子(宮崎あおい)と、ワケありの田代(松山ケンイチ)、お互いに問題を抱えた者同士が惹かれ合っていく話。沖縄では辰哉(佐久本宝)が傷ついた泉(広瀬すず)のために何ができるんかっていう話で、3つの愛が描かれているんかなって。
村本:渡辺謙さん(演じる父親)は、娘の恋人を疑ってて、「こいつやばそう」「でも、娘は好きと言ってる」って父親として、ものすごい葛藤するわけよね。俺も同じような経験があって、23歳ぐらいのときに付き合っていた彼女がバイト先の店長にストーカーされていたことがあって、俺は「親に言おう。警察に行こう」って言うたんやけど、彼女は「もういい」って。そこで、俺は「ホンマにそんなことあったんか?」って疑ってしまって。真相がどうやったんかってことよりも、彼女を疑った自分への怒りみたいなものがずっと残っとるのよ。やからこの映画で描かれてるのは、「自分自身への怒り」なんかもしれん。
ウワサの妻夫木&綾野カップルに反応真っ二つ
中川:そういえばネットのニュースで、綾野さんと妻夫木さんがゲイを演じるために一緒に生活をしてたって見たんやけど。僕、基本的にはゲイの映画にはそこまで入り込めへんところがあるんやけど、この映画に関してはラブシーンも濃厚やけど、「ゲイ」ってことよりも「純粋さ」が勝って感情移入できたというか。
村本:えー、俺は「うっ」ってなったで。正直、男のケツは見たくないわ。ゲイの人って、この映画でも描かれとったけど、人間誰しもマイノリティーな部分があるのにそれが「性」というだけで、隠さないといけない風潮がある。例えば自分のコンプレックス、社会から認められない寂しさが綾野さん(直人)のように人への優しさになるのか、「何でだ」っていう怒りになるんか、怒りが復讐になるのか、人を許す愛になるのか、どこかに分岐点がある。それは時には殺人にもつながるわけで、ものすごいエネルギーに満ちた映画やなって思った。でも、誰しも真剣に生きてたら、こんな事山ほどあるやん? やから、「怒り」を反対に読むと「理解」やけど、決して特別な人たちを描いた映画じゃないってことを理解することが大事やと思う。
中川、「完全にだまされた」結末に大満足
中川:そういえば犯人が誰なんか全然わからんかった。完全にだまされたわ。ギリギリまでわからへんっていうのはやっぱり面白い。サスペンスとしてもよくできてると思った。
村本:結末を観てからもう一度観なあかん映画やと思う。多分、犯人は自分の感情の高ぶりと付き合い切れへんかったからあきらめて、「あちら側」に逃げた人なんやろうなって思うわ。現場に残された「怒」の文字は自分に対する怒りを示していて、過去にしてきたことを悔いてきているんちゃうんかなと。
中川:犯人をわかってみると、また違った見え方になりそうやな。
村本:例えば俺のツイッターに、毎日のように「死ね、死ね、死ね、死ね」みたいなことをずっと書いてくる人がいて。それが異常な頻度で、もう言わなあかんと思ってプロフィールに書いてあった勤め先に電話してクレーム言ったら、それが障害を持っている人やったと。そのときに何かハッとして「もういいです」って電話切ったんやけど。人間っていうのは利己的な生き物で、それは絶対変わらない。やったらそれを気にせず生きていかないといけない、いい事ばっかり見てね。野原の石とかゴミを見るよりも花を見てた方が人生ポジティブで楽しいやん。でもどうしても汚れとかも見えてくるわけで……。
村本の結論「大事な賛否のある映画」
中川:女優さんも俳優さんもうまいと思うんやけど、全員ピッタリはまってて。僕は特に高畑充希さんがよかったわ。短い出番やのにものすごいインパクトがあって。絶対、忘れへんもん。大抵、一人ぐらいはミスキャストって言われる人がおるもんやけど、まったくおらんくて。面白い話を面白く見せるのって、やっぱりキャストにかかってるやん。それがそろってるから何の違和感もなくストーリーに専念できたし、ホントにいい映画やったなと思う。
村本:僕は沖縄の辰哉役の子(佐久本)やな。この子が一番悲しくて。めちゃくちゃ弱い子で、俺と似てて。泉(広瀬)とデートしとったら、彼女が尊敬する年上の人(森山未來)がきて、モヤモヤしてちょっと「何やねん」みたいな雰囲気になる。そして悲劇が彼女を襲う。その後、いわば恋敵のように思ってたはずのお兄さんに憧れて頼るようになるんやけど、その相談も素直に話せない。この多感な男子の気持ちがわかる男子はたくさんおるんちゃうかな。謙さんにしても池脇千鶴(明日香)さんから「ホントは自分の娘が幸せになれると思っていないんでしょ」って鋭い言葉をバシバシ言われとるけど、男っていうのはちっぽけで弱いものやなと……。妻夫木さん&綾野さんカップルは、綾野さんがいわば女やと思うんやけど「おまえのこと信じてないから」って言う妻夫木さんに「そう言うっていうことは、信じているってことでしょ」って言う。そんなところからも、男が弱くて女が強いってことなんかと。
中川:女性が強いっていうのは確かにそうやな。
村本:この映画を観た人100人が100人、「素敵な映画だな」っていうわけじゃなく、不快に思う人も絶対おると思う。ため息か、涙やな。裏を返せば、刺さるというわけで。やから良いコメントをしようと思って、「これは観るべきです」なんて俺はよう言わんわ。自分に合うか合わないか、決めるのはその人やけど、ただ、すっごい作品において、大事な賛否両論がある映画やなと。なんか「怒り」が「理解」なんて言ったのも恥ずかしくなってきたわ……。うまいこと言おうとするたびに恥ずかしくなるっていうか。
今月の激オシ映画はコレ!
『横道世之介』『さよなら渓谷』などの原作者・吉田修一のミステリー小説を、『悪人』でタッグを組んだ李相日監督が映画化。現場に「怒」という血文字が残った未解決殺人事件から1年後の千葉、東京、沖縄を舞台に三つのストーリーが紡がれる群像劇で、前歴不詳の3人の男と出会った人々がその正体をめぐり、疑念と信頼のはざまで揺れる様子を描く。出演には渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、宮崎あおい、妻夫木聡ら日本映画界を代表する豪華キャストが集結。
(C) 2016映画「怒り」製作委員会