『SCOOP!』福山雅治 単独インタビュー
50歳を前に、いろいろなことを俯瞰して見るいい機会になった
取材・文:相田冬二 写真:金井尭子
ワイルドすぎるルックスに、下ネタもアリの奔放なやさぐれキャラ。福山雅治が映画『SCOOP!』で体現するのは、そんな芸能スキャンダル専門のフリーカメラマンだ。クリーンで知性を感じさせる役どころが多かった彼にとって、これは新境地。「楽しかった」という最新主演作を通して見えてきたものとは?
振り幅広くやってきたつもりだけど……
Q:パーマヘアに無精ヒゲ。革ジャンにアロハシャツ。『SCOOP!』の都城静は、これまでの福山さんのイメージを大胆に覆すビジュアルで驚きました。福山さん自身観客をびっくりさせたいとか、これまでのイメージをズラしたいなど、そういう気持ちがあったのでしょうか?
新しいことをやっていきたいとは、常に思っています。ただ、今回この役を演じて感想をいただいて感じたのは、自分が思っている以上に、「福山雅治はこうだ」というイメージが強くあるのかなということ。もっといろいろなことをやらないと、どんどん歳をとるなという焦りも出てきました。
Q:この映画のご自身を見て、新しい可能性が生まれましたか?
静は、演じていて楽しかったです。非常に自由度の高いキャラクターだと思うんです。セリフ一つとっても、動き一つとっても、いろいろと挑戦できる役でしたし、そういう現場だったので。スクープカメラマンって、存在は知っていても、誰もまともに会ったことはない。だから想像で作っていい、ある種ファンタジー的存在だと思うんです。スクープカメラマンがこんなに派手なシャツを着ているかな? とは思うんですけど(笑)。(スクープを撮らなきゃいけないのに)目立つだろって(笑)。でも、それも含めての映画的ファンタジーの在り方だと思います。今回は大根(仁)さんが同世代、同学年ということもあり、わりと台本にないセリフも言ってみたりしました。普段、そんなにやらないんですけどね。もともと、監督自身もユーモアのある方でしたし、リリー(・フランキー)さんも自由にやられていたので。
Q:以前、リリーさんにお話を聞いたとき「福山さんご自身はユーモアがある人だけど、映画やドラマではその部分はあまりフィーチャーされていない。本作は珍しく福山さんのユーモアが発揮されている映画だ」とおっしゃっていました。
さっきの話で言えば、イメージというものには我関せずやってきたつもりなんですけど、イメージはいろいろなことを左右し、影響するんだなと。50歳を前に、いろいろなことを俯瞰(ふかん)して見るいい機会にもなったなと思います。
Q:作り手のほうも「福山さんはこういう役、受けないんじゃないか?」と思っていたのかもしれないですね。
そうかもしれないですね。今回がきっかけで変わっていくのであれば、本当にうれしいことです。次にどんなオファーをしてくださるのか、楽しみに待っていますんで、よろしくお願いします。この場を借りて(笑)。
Q:大きな前例になりましたよね。これはやっていい、という。
業界関係者の皆さま。まずは、ご提案ください(笑)。
役が自分自身をあぶり出す
Q:もし、自分発信でできるとしたら?
(『SCOOP!』のチラシなどには)「汚れ役」と書いてありますけど、静は犯罪を犯しているわけでもないですし、そんなに悪いことをしている人でもないので、じゃあもっと汚れた役はないのかな、とも思います。汚れていない役もやりながら(笑)、両方やっていきたいですね。
Q:極悪人もアリなんですか?
アリだと思います。悪人役はあまりやったことがないので、自分のタイプがどっちなのか、わからないんです。やってみたら、自分でも意識してないくらい本質的にダーティーな部分が出てくるのかもしれないし(笑)。
Q:やってみないとわからないことってありますよね。
お芝居に関しては、やってみてわかることが多いです。普段は自分の内面を人に話すタイプではないので、役を通じて今まで気づかなかったことが初めてわかったり。もしも犯罪者を演じたら、隠れていた心理が急にあぶり出されてくるかもしれない。そういう発見が、演じる楽しみの一つです。
Q:自分を知るきっかけの一つでもあるということですね。
そうですね。悪人やって、悪人になりきれなかったら、僕はたぶんいい人なんでしょうね(笑)。ただ芝居ができていない、ということかもしれないですけど(笑)。
真似から演技をスタートした
Q:最後に、福山さんがミュージシャンであるということは、お芝居に何か影響していますか?
僕は「純俳優」ではないんです。でも、「だからこそ」という自由度は持っていたいと思います。これ、デビュー当時から変わってないことなんです。芝居経験もなくデビューしちゃったもんですから、そのときに「どうすればいいのか?」ということを誰も教えてくれなかったので、とりあえず人のやっていることを真似しようと思いました。共演した方の演技の好きなところや、役者さんの演技でいいなと思ったところを、自分なりにやってみる。そのアプローチは、実は今も一緒で。先輩だけではなく若い役者さんの「ココがいいな」と思ったことも、ちょっと真似してみる。そういう気持ちでいられるのは、自分が音楽という別のフィールドを持っているからかもしれないですね。演技の型がないというか。
Q:年下の人に対してもそう思えるのって、カッコイイですね。
そうですか? いや、そこは全然気にしないですよ。「たとえ真似をしても、ただの真似にはならない」というのが僕の持論なんです。かつてザ・ビートルズが、結成した当時ドイツで営業まわりをしていた時代に、彼らはエルヴィス・プレスリーに憧れていた。アメリカのロックンロールをカバーして、パブで歌っていた。でも、どれだけやってもまったくプレスリーにならない。では、何になったのか。「やればやるほど、俺たちはビートルズになっていったんだ」とリンゴ・スターはインタビューで語っていました。その記事を読んで、真似をしていいんだと思いました。結局、真似して「それ」になっちゃう人は、物真似が上手な人。真似してもそうならない人は結果、オリジナルになる人と僕は解釈して。いろいろな人の演技を盗んだり、模倣したりすることに、躊躇がないんです。
自分の内面は、演じることで見えてくる。演技の核心を衝いたこの発言が、福山雅治という人のストイシズムを表している。そして、先輩であれ後輩であれ、よい部分は真似したいと率直に語るオーガニックなポジティビティー。それはきっと「盗む」のではなく、「身にまとうこと」。次回作は巨匠ジョン・ウー監督作品。これまで以上に、俳優業にも意欲的な彼は、自身の原点から決して目をそらさないのだ。
(C) 2016映画「SCOOP!」製作委員会
映画『SCOOP!』は10月1日より全国東宝系にて公開