『泣き虫ピエロの結婚式』志田未来&竜星涼 単独インタビュー
あきらめないのが女の強さ、我慢するのが男の美学
取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美
第4回「日本感動大賞」の大賞に選ばれた望月美由紀の実話を、志田未来・竜星涼のダブル主演で映画化した『泣き虫ピエロの結婚式』。人々を笑顔にしたい見習いピエロの佳奈美(志田)が出会った、笑顔を忘れてしまった透析患者の陽介(竜星)。二人は恋に落ち、結婚の約束を交わすのだが、陽介の余命はもうわずかだった……。限りある時間の中で、お互いを精いっぱい思い合う恋人たちを熱演した志田と竜星が、撮影時のエピソードを語り合った。
志田未来にはハッタリが通用しない!?
Q:今回の共演が3度目となるお二人ですが、恋人役だと最初に聞いたときはどのように感じましたか?
志田未来(以下、志田):相手が竜星くんだと聞いて安心しました。撮影期間が10日間と短くて、その中で作り上げていかなければならないことがたくさんあったのですが、何度も共演している竜星くんなので、正直うれしかったです。
竜星涼(以下、竜星):未来ちゃんは、僕がデビューした年の作品からご一緒しているので、何でもさらけ出せる相手なんですけど、恥ずかしい気持ちもあったんです。僕のデビューからのストーリーを、ずっと見られている感じがして(笑)。だから、ここで僕が変にカッコつけていたらそれこそ恥ずかしいので、未来ちゃんとも作品とも、フラットに真摯(しんし)に向き合っていきたいと思いました。未来ちゃんにはハッタリが通用しないでしょうから。
志田:竜星くんはうまいことを言うので、本当にそう思っているのかわからないですよ(笑)。
竜星:思っていますよ(笑)。
Q:志田さんは、ボールを使ったジャグリングの練習を相当されたそうですね?
志田:はい。わたしの役柄はプロのクラウンを目指している女の子で、ジャグリングはこの作品の肝にもなっているので、1か月半ほど練習しました。ボールが思った方に飛んでいってくれなくて、すごく難しかったです。ジャグリングの先生に教えていただいて、家でも毎日練習していました。でも、控室で練習していたときに、竜星くんが「ちょっとボール貸して」って投げたら簡単にできちゃって(笑)。
竜星:なんて言うんですかねえ、才能というのはこういうことなのかなって思いますよね(笑)。まあ、僕はバスケットとかサッカーが好きだったから、ボールの扱いに慣れていたのかもしれないです。
志田:わたしよりもセンスがあったんでしょうね。楽しそうにジャグリングする竜星くんに、複雑な感情を抱きました(苦笑)。
竜星涼の熱演で車体が大変なことに!?
Q:竜星さんは人工透析患者の役ということで、事前に勉強することもあったのでは?
竜星:透析というものに僕自身が向き合う必要があったので、透析患者の方々がいらっしゃる病院に週3回くらい通いました。病院に行って何かをすることはできないので、“行って帰る”を繰り返すだけだったんですけど、透析に関する資料を見たりお話を聞いたりするだけ、というのはイヤだったんです。病院通いが日常になる気持ちを、体で感じたかったというか。それがどれだけ芝居に生きるかわかりませんけど、やらないよりはやった方がいいと思ったので、そういったところから一歩ずつ近づいていきました。
Q:佳奈美の車のところで二人が気持ちをぶつけ合うシーンが、とても印象深いです。竜星さんのアツい感情表現で、車体の一部がヘコんでしまったと伺いましたが……?
竜星:ヘコんでないです。皆さんがちょっと大げさに言っているだけで……。
志田:ヘコみました(キッパリ)。
竜星:ちょっと手が触れただけなんですけどね(笑)。あそこからの一連のシーンは、僕たちが初めて本音をぶつけ合うところだったので、すごく好きでした。
志田:竜星くんが、ものすごい勢いでぶつかってきてくださったんです。身体や言葉から熱いものが伝わってきて、わたしも必死に応えようとしていました。それまで(他人との関わりから)逃げていた陽介が、やっと佳奈美に向き合ってくれた大事なシーンでもあるので、わたしも印象に残っています。
結婚式は洋装派?和装派?
Q:志田さんのウエディングドレス姿も話題になりそうですが、着心地はいかがでしたか?
志田:正直なことを言うと、ウエディングドレスは普通の衣装よりも動きづらいですし、今回が初めてではなくて……。
竜星:えっ? 初めてじゃないの!?
志田:「秘密」(二人が共演したテレビドラマ)で着ていました。もしかして竜星くん、自分のシーンしか観ていないの?
竜星:あぁ、そういえば……。でも、僕の前で着てくれたのは初めてだよね!
志田:なんか、怪しい(笑)。
竜星:僕は、自分が結婚式を挙げるシーンなんて初めてだったから、すごく新鮮でしたね。自分が結婚式をするときも、ウエディングドレスとタキシードがいいなと思いました。……あ、未来ちゃんが今、「わたしはそうじゃない」って顔をしました(笑)。
志田:そんなことないですよ。ドレスは今までも仕事で着る機会があったけど、白無垢(むく)は一度も着ていないので、両方着てみたいという欲張りな気持ちです(笑)。女子ならみんなあると思います。
Q:お二人のやり取りから、信頼感が伝わってきますね(笑)。
竜星:未来ちゃんは、僕が冗談を言い過ぎても付き合ってくれたりして、大人だなあと思います。あと、どんどん心を開いてくれているような気もしています。
志田:(静かにほほ笑む)。
竜星:……そんなことないのかもしれないけど、僕はそう思っていたいんです(笑)。
志田:竜星くんは、本当に熱い男なんです。現場でも役に入ったら、何時間でもずっとその役のままで居続ける。ストイックなんだなって、撮影していて常に思っていました。それに、優しいからきっとモテますね(笑)。
決してあきらめない女の強さと我慢する男の美学
Q:病気が進行した陽介は、大切に思うからこそ佳奈美と別れようとします。それでも決してあきらめない佳奈美。自分だったらどうするだろうかと、考えてしまいそうです。
志田:わたしは、あんまり考えないようにしていました。実話を基にしたお話なので、軽々しくは考えてはいけないような気がして。ただ、大切な人に笑顔になってほしくて一生懸命頑張る佳奈美のような強い気持ちが、自分も持てたらいいなと思います。あれほどの強さって、なかなか持てないと思うので。
竜星:僕は、自分の思いと真逆のことをやってしまう陽介の葛藤に、共感してしまいました。僕が同じ立場になったとしたら、まったく同じことをするんじゃないかと思ったくらいです。本当は彼女に甘えたい。でも、そうすることで、本来なら一生守るべき相手を不幸にするのではないかって、どうしても考えてしまいそうで……。それが男の美学というか、本当はイヤだし正解かどうかもわからないけど、我慢してしまう陽介の気持ちが、理解できると思いながら演じていました。
Q:人を愛することの尊さなど、いろんな気付きがある作品ですよね。
志田:大切な人がいつも隣にいることとか、当たり前だと思っていることが「当たり前じゃない」ということに、気付かせてくれる作品になっていると思います。少しシリアスなシーンが多かったりするんですけど、最後は心がほっこり温かくなると思います。自分が心から大切に思っている人と、一緒に観ていただきたいです。
竜星:お互いが一途に思い合うことによって、自分の考えが変化していくのって、本当にすごいことだと思うんです。そんな風になれる相手と僕も結婚したいし、観てくださる方にも共感してもらえたらうれしいですね。それから、この映画を観て、透析というものを少しでも考えていただけたらいいなと思っています。
同い年ながら役者としては大先輩にあたり、確固とした自分の意見を持つ志田に対し、柔らかなジョークでツッコもうとする竜星。アタックをはじかれてもくじけない彼と、はじいた球を優しく拾い上げる志田のやり取りが絶妙で、二人の距離の近さが伝わってくる。車体がヘコむほどの熱量を発する佳奈美と陽介のぶつかり合い、陽介がひざまずいて求婚するシーン、佳奈美がこらえてきた涙を落とす場面など、心動かされる名シーンの数々は、この二人だからこそ生まれたのだと実感した。
映画『泣き虫ピエロの結婚式』は全国公開中