【強烈な経験を共有する盟友】『グッドモーニングショー』中井貴一&時任三郎 インタビュー
「踊る大捜査線」シリーズなどの脚本家として知られる君塚良一監督が朝の情報番組であるワイドショーを題材にオリジナル脚本を映画化した『グッドモーニングショー』。落ち目になったキャスターの災難だらけの一日を描いたコメディーで、主人公のキャスター澄田真吾に中井貴一、同期入社のプロデューサー石山聡に時任三郎が扮している。伝説のドラマ「ふぞろいの林檎たち」で共演した盟友同士が、当時の思い出話を交えて本作の撮影秘話を語った。
■若い頃は「この野郎!」と思ったワイドショー
Q:約20年ぶりの共演ですが、どう感じていますか?
中井貴一(以下、中井):久しぶりな感じはしないんです。戦友って感じ。若い頃の経験って強烈にあるから、ずっと会っていなくても昨日会っていたような気持ちになれる。
時任三郎(以下、時任):そうですね。何度か一緒にやりたいという気持ちはあったんですけど。今回の澄田と石山の関係は僕ら2人に近いものがあったので、即答で「やります」って言いました。
Q:今回はワイドショーの世界に生きる男たちを演じているわけですが、2人は普段ワイドショーをどう見ていますか?
中井:番宣などで出ることはありますけど、朝スタジオに行って少しコメントして帰るだけだから、ワイドショーの現場がどんなものか知りませんでした。普段、家にいたら朝の情報番組は何かをしながら見ているので。だけど気楽に見えるものほど作り手は大変だと実感しました。だから、これから(取材される側に回ったら)黙して語らずみたいなことはやめようと(笑)。
時任:若い頃ワイドショーに追っかけられて「この野郎!」と思ったことはありますよ(笑)。それで取材を受けてコメントしたのに、放送を見たら肝心なところはカットされている。「チクショー!」と思ったり(笑)。この作品の話がきてからは、ちょっと注意して見るようにしていました。
中井:僕はキャスター役だからキャスターの人が動いているときの様子は注意して見るようになりましたね。
■役づくりのためアナウンサーにストーカー!?
Q:中井さんは実際にワイドショーの現場を見に行かれたそうですね。
中井:ええ。アナウンサーの感情の導線を知りたかったんです。つまり会社に着いてまず最初にどこに行くのか? アナウンス室に入ったら何をやるのか? 衣裳部屋に行って何を考えているのか? と案内してくれた方にストーカーのように張り付いて、質問攻めにしてました(笑)。でもこれが一番役づくりに役立ったと思います。
Q:どのようにキャスター澄田を演じたのでしょうか?
中井:この作品はいろんな事件が起きるんですが、究極をいうと「家族の話」なんですよ。朝3時に起きたら妻と大学生の息子が起きていて、今から仕事に行こうという時に息子に子どもができたと聞かされる。そして息子に「お父さんの仕事なんて……」とバカにされてしまう。それが全ての始まり。澄田は最悪な一日を経験することになるんだけど、父親として息子に自分の後ろ姿を見せることになる。将来を判断する材料を澄田は息子に身をもって与えているんです。僕は父親が早く亡くなっているので本当のところはわかりませんが、でも親にとって大事なことはみっともなくてもいいから子どもに自分の後ろ姿を見せることじゃないかなと。だから『グッドモーニングショー』というのは「家族の話じゃないのかな」って感じて演じていました。
Q:時任さんは澄田と石山の関係性が自分と中井さんとの関係に似ているとおっしゃっていましたが、実際に演じてみてどうでしたか?
時任:それはシチュエーションが似ているということではなくて、積み重ねた時間がという意味です。お互い濃い時間を過ごしたという……。要するに同じ釜の飯を食った仲ということです。当時(「ふぞろいの林檎たち」の頃)は今の作り方と違ってリハーサルが全部のシーンにあって。そのリハーサルで鍛えられましたから。
中井:シゴキでしたよね。
時任:それをクリアするために読み合わせをした。
中井:携帯がない時代でしたから。家の電話で夜セリフ合わせをして「リハのためのリハ」をやる。その要求度が一番高いのは柳沢慎吾だった。よく電話がかかってきましたよ(笑)。
■君塚良一の「監督宣言」
Q:君塚監督は『踊る大捜査線』などの脚本家として知名度が高いですが、監督として現場ではどうでしたか?
中井:君塚さんが現場に入って最初に言ったのは「脚本を信用しなくていいですから」だったんです。普通、脚本家は一字一句同じように言ってほしいというのがあるのに「脚本を信用しなくていい」と。それで「もし、そういう感情にならなかったら僕に言ってください。僕、脚本家でもありますから」って。かといって変えてほしいところがあるわけじゃなかったけど、この作品で君塚さんは「監督宣言をしたな」と思いました。
時任:監督としての存在感は大きかったですよ。役者のそばにきて「コソコソ」っと言う。それが的を射たことを言われるんです。「時任さん、なんか腕組みが多いですね」って。モニター相手に芝居をしているからどうしてもそうなっちゃうんだけど、そういうとこをきちんと見ている。
中井:それからものすごく思ったのは君塚さんは後ろにいる人たちに綿密に動きをつけている。僕ら以上に時間をかけて演出していた。それはリアリティーを出すのにとってもいいことなんですよ。主軸で映っている人よりも、後ろで動いている人たちがリアリティーを持つか持たないか、それが大事だから。でもそのことに感動して「君塚さんすごい。本当に素晴らしいと思います」って言ったら、君塚さんが謝りに来たんです。「中井さんすみません。それ中井さんのことを見てないなってことですよね」って。その時は必死で弁解しました。
時任:(笑)。
■今の自分は重みがない!?
Q:本作では中井さん演じる澄田と立てこもり犯役の濱田岳さんの緊迫したやりとりなど、若手俳優たちとの共演シーンが印象的でした。
中井:NHKの大河ドラマ「武田信玄」をやった時、僕は25歳で。今の僕の年ぐらいが菅原文太さん、宍戸錠さん、児玉清さんだった。その頃の50代ってすごく重みがあった。
時任:確かに。
中井:それを思うと「今の自分は重みがないなー」とどこかで思っている。だけど今回、濱田君とのシーンで思ったんだけど僕は重みがない分、まだ感覚が若くて達観視もできない。だから僕らは濱田君たちの世代と勝負していかなくちゃいけないんだなと思っていますよ。
時任:貴一が濱田君が演じた立てこもり犯とのシーンでそれがいい感じで出ている気がしました。いいよなぁ。僕はモニターとのやり取りで「ここは澄田が現場でこんなことをしているシーンですから」なんて想像して芝居してたんだから(笑)。
中井:こっちはスタジオ側とは別で撮っていた。お互いが探り探りの現場で不思議だったよね(笑)。
時任:だから完成品を見るのが楽しみでしたよ。どう仕上がってるのかなって!
取材後記
約20年ぶりの共演とは思えないほど、インタビュー中も「あうんの呼吸」で見事なトークの応酬を繰り広げた中井と時任。芸達者な2人だけにトーク全てが即興芝居のよう。中井の熱のこもった話しぶりは劇中での三枚目ぶりを彷彿とさせ、撮影現場の面白さがストレートに伝わってきた。そんな中井の様子を楽しそうに見ている時任のツッコミやオトボケも最高。本作は「ふぞろいの林檎たち」の世代はもちろん、それを知らない世代も爆笑の渦に誘うコメディーに仕上がっている。
取材・文:前田かおり 写真:斉藤美春
映画『グッドモーニングショー』は10月8日より全国公開