『続・深夜食堂』小林薫&多部未華子 単独インタビュー
チームワークが似合わない人たちのチームワーク
取材・文:磯部正和 写真:高野広美
繁華街の一歩裏の路地にひっそり立っている小さな食堂「めしや」、人呼んで「深夜食堂」。2009年に深夜ドラマからスタートした『深夜食堂』が、『続・深夜食堂』として2度目の映画化を果たした。マスター役を務めるのは、松岡錠司監督が「あの人以外には考えられない」と絶大な信頼を置く俳優・小林薫。これまで数々の作品に出演している小林をして「奇跡的な作品」と言わしめる本シリーズ。ゲスト出演を経て「めしや」の常連客入りした女優・多部未華子と共にその魅力を大いに語った。
低予算ながら奇跡的な作品に……
Q:前作は約80館での上映でしたが、20万人を超す人が劇場に足を運び、待望の映画化第2弾となりました。
小林薫(以下、小林):正直に言うと、(続編を作るとかいう話は)僕の手を離れている部分なので、特に強い思いというものはないんですよ。でもスタッフを含めレギュラーメンバーもほぼ同じなので「またやるんだね」という懐かしい気持ちにはなりましたね。
Q:深夜ドラマからスタートして約7年。ここまでシリーズが続くと思っていたのでしょうか?
小林:最初は深夜枠で予算がないから、作品の世界観的にちょっと厳しいかなと思っていたんです。そうしたら、たまたま松岡監督と話をする機会があって、監督は「映画のスタッフを集めますよ」って言うんですよ。お金ないのにそんなの可能なのかなって思っていたら、フードスタイリストの飯島奈美さんや、美術監督の原田満生さんとかも参加するって。しかもみんな真剣にアイデアを出したりして「これは!」って思いましたね。
Q:最初からしっかりとした下地の上にできた作品だったということですね?
小林:一線級の人たちが集まってきましたからね。原田さんもすごくアイデアを出すし、カメラマンもちょっとの動きでも捉えられるように準備している。手間をかけるところはかけて、本当にこだわっているんです。低予算の作品としては奇跡的ですよ。でも、ドラマがしっかりとしていなければ映画化という話になってもうまくいかなかったと思うんです。映画化されるからって、これまでのドラマのテイストをガラリと変えたってうまくいくわけがないですからね。
強烈キャラの集まりなのにチームワーク抜群!?
Q:多部さんは前作の『映画 深夜食堂』でゲスト出演し、今作では「めしや」の常連客という立ち位置で再度出演されましたね。
多部未華子(以下、多部):前回初めて参加させていただいた時に、(多部演じる)みちるというキャラクターはいくらでも話を広げられる女の子だと思っていたんです。マスターとの関係性も他のゲストのお客さんとは違う立ち位置だったので。つながるといいなと思っていたら今回また呼んでもらえてとても嬉しかったです。
Q:非常に個性的な面々の『深夜食堂』ですが、常連客入りしたお気持ちは?
多部:小林さんはもちろんですが、常連客の皆さんのシリーズを重ねてきたがゆえに出る空気感や世界観はとても魅力的です。そういう雰囲気って時間をかけないと出せないものですし、力量のある役者さんたちが作り出すチームワークも素敵だなと思います。
小林:一人一人を見るとチームワークという言葉が似合わないような人たちばっかりなんだけれどね(笑)。みんなが『深夜食堂』のファンみたいなところがあるんですよ。劇場の舞台の仕事を抱えている人たちもいて、撮影の香盤表を見て「わー、重なった」とか言っていたり、「出られるところ、どこでもいいから出る」みたいな。みんなチーム至上主義じゃないのに、まとまっている。これも奇跡的だよね。多部くんは一番年下なんだっけ?
多部:実は谷村美月ちゃんの方が若いんです。学年で2つ下なんですよ。
小林:あのメンバーに入ると若い子って居場所がないんじゃない? カウンターには超ベテランがズラッと並んでいるからね(笑)。
Q:常連客の皆さんやゲストの方々が個性的なのも『深夜食堂』の魅力ですね。
小林:マスターにはドラマがないんですよね(笑)。お店が主役だったり、料理が主役だったり……。最近では常連客の方々が主役だなって思ったりね。ほとんど僕は何もしていませんからね(笑)。面白いタイプの作品だなって思いますよ。リアルなように見せているけれどファンタジーなんです。『ハリー・ポッター』みたいに明らかに、壁を越えたら魔法の世界ではないのだけれど、路地を曲がったら実はないんじゃないかと思うぐらいの世界観の店があって、嘘みたいな人たちが集まっている。
小林薫、多部未華子に鋭く切り込む!?
Q:そんなファンタジックな「めしや」で人々が出会い、新しい人生を見つけたり、背中を押されたり、一歩を踏み出したりします。お二人にもそんな出会いや思い出などはありますか?
小林:この作品も縁だと思いますよ。現在進行中で、先ほども話しましたが、奇跡的な化学反応がたくさん起きていますよね。目に見えない魅力があって作品が継続し、日本を離れてアジアの人たちの中にもファンがいる。最初にいわゆるテレビ的な箱の中で作品を作っていたら、このような状態にはならなかっただろうしね。多部くんはまだ若いし、そういう出会いはこれから先の人生で待っているんじゃないかな?
多部:そうですね。きっとこれまでもいろいろな出会いはあったと思うのですが、「これ!」という具体的なものはパッと思い浮かびませんね。
Q:多部さんは思い出の料理とかはありますか?
多部:小さい頃は母親にグラタンやハンバーグなどを作ってもらいました。
小林:作ってくれたんだ? そういう料理って手間がかかるよね? それは愛情だね。
多部:いま思えばすごく手間がかかる注文ばかりしていましたが、母は作ってくれました。
Q:ご自身でもグラタンやハンバーグを作ったりするのでしょうか?
多部:あまり作りませんが、食べたいときには作ることもあります。
小林:たぶんその質問は、さっきの「いろいろな人との出会いがありましたか」という部分にかかっていて、「作ってあげたいと思った人はいますか?」という質問をしたかったんだと思うよ。
多部:あ、そういうことなんですか(笑)。ゆくゆくは出てくるかもしれませんね(笑)。
大した話じゃないからこそ入り込みやすい
Q:今作でもマスターが作る料理の映像は、たまらなく食欲をそそりますが、もしお二人が少し心が疲れているときに「めしや」に行ったら何を注文されますか?
多部:わたしは今回の映画を観て、シンプルに「豚汁定食」を頼みたいと思いました。本当においしそうです。
小林:僕もたいしたものは頼まないですよ。もともと京都出身なのですが、東京に出てきて忘れている食べ物ってあるじゃないですか。おばんざい屋さんで出るような焼きにしんとナスの炊いたのとか、青菜と揚げ豆腐の炊いたのとかね。そういった普通の家庭料理を頼むかな。
Q:見始めると病みつきになってしまう『深夜食堂』。その魅力はどこにあると思いますか?
小林:言ってみればどこにでもありそうな話なんですよね。決して大した話じゃない。でも他人から見たら些細なことでも、自分の人生にとっては大変なことっていっぱいあるじゃないですか。そういったところを描いているから、観ている人も入り込みやすいんだろうね。それを作り手がこだわりを持って作っている。色々な意味で滅多にある現場じゃないですよ。
多部:小林さんのおっしゃる通り、客観的に見ればたいしたことではないのに、その人にとってはターニングポイントとなるような出来事が「めしや」という小さなお店から始まるというのが、ドラマチックだと思うんです。
インタビュー中、何度も「奇跡的だよね」とつぶやいていた小林と、その言葉にうなずく多部。低予算ながら、作り手のプロフェッショナルなこだわりと、出演者の作品への愛によって映画は大きく成長し、世界に羽ばたく。決して「映画の醍醐味とはこういうことなんだよ」と語るわけではないが、小林の話を聞いていると「映画はさまざまな人の英知が集まった総合芸術なんだ」と実感できる。ますます日本映画の魅力に取りつかれそうな、そんな至福の時間だった。
映画『続・深夜食堂』は11月5日より全国公開