『新宿スワンII』綾野剛&広瀬アリス 単独インタビュー
続編ではなく“新章”
取材・文:浅見祥子 写真:高野広美
新宿歌舞伎町のスカウト会社・バーストのエース格になった白鳥龍彦。社長の命で横浜へ進出するも、そこは最恐の男タキが牛耳るウィザードの王国だった……。和久井健による漫画を園子温監督が実写映画化した『新宿スワン』。そのパートIIが早くも完成した。前作に続き逆立つ金髪パーマで愛すべき無茶な男、龍彦を演じる綾野剛と、今回龍彦にスカウトされるキャバ嬢マユミを演じた広瀬アリスが撮影を振り返った。
続編ではなく“新章”として
Q:最初に『新宿スワンII』の企画を聞いた印象は?
綾野剛(以下、綾野):素直にうれしかったです。前作を観てくださった方々のおかげでたどり着けたわけですから。そして僕自身、前作を終えたときに「まだ、終われていない」という想いが強く残っていました。その想いを武器に、新たに作品へ立ち向かえると思うと本当にうれしかったです。
広瀬アリス(以下、広瀬):もともと男性が好むような漫画が大好きで、映画化される前にこの原作も読んでいました。それで前作も公開時に映画館へ行き、面白かった~! なんてごく普通に観客として楽しんでいて。そのパートIIに参加できることになってビックリしたし、自分がどうあの世界に入るのか、最初は想像できませんでした。
Q:綾野さんは前作に続いて白鳥龍彦役。続編である今回は何か変化がありましたか?
綾野:前作からIIの龍彦へ移行すればいいだけで、ゼロからつくる必要はありません。そういう意味ではやるべきことはクリアに見えていました。ただ……いま“続編”と言っていただきましたが、今作は続編ではありません。普通は続編というと前・後編に分かれた一つの物語ですが、これは横浜編という“新章”と捉えています。もちろん前作同様のキャストが出ていますが、前作を引き継いだ話が展開するかというと、そうではないんです。
黒い服の男たちのところへ女の子が一人
Q:今作から参加した広瀬さんとしては、出来上がった世界に入っていく感覚があったのでしょうか?
広瀬:そうですね……。
綾野:ある意味、出来上がってはいたよね?
広瀬:そうですね。歌舞伎町を舞台にしたその世界観に入っていくのもそうですが、女性キャストがあまりいなくて。黒い服を着たお兄さんたちがたくさんいるところへ、基本的に私一人が女性として入っていく感覚がありました。でもみなさん、やさしく接してくださって。龍彦さんと二人でのシーンが多かったので、他の方との絡みはあまりありませんでした。
Q:マユミ役はすぐイメージできましたか?
広瀬:まったくできませんでした。
Q:借金まみれのキャバ嬢って、強烈なキャラクターですよね?
広瀬:簡単に言えばそうなのですが、もっともっと彼女の内面を深く考えていくと、いろいろな感情が渦巻いていると感じて。すると役をつかめているような気がするけど、つかめていないのかもと思ったり……なんとも言えない感情になりました。
綾野:マユミはちゃんと紆余曲折し続ける役ですから、これでいいや! と決めて動いているのではなくて。同世代の観客の方々はそんなマユミを演じる広瀬さんを通して、目標や夢の設定の仕方というより、まずは生きていく美しさを見ていただける気がします。
広瀬アリスは肝の据わった女優!
Q:龍彦は今回も体を張ったシーンが多いですね。拷問シーンも含め、楽しめましたか?
綾野:楽しかったです。前作を観ていただけばわかる通り、龍彦ってケンカが特別強いわけじゃない。でも1対1になると強い。前作で言えば山田孝之演じる秀吉を救いたいなど、目的が明確になると絶対に勝つんです。IIの龍彦は、いわば中間管理職。前作では新人だったけど今回は部下も上司もいて、組織の命令で動かなきゃいけない。会社でもそういう位置にいる人は常に周りで起こる出来事に巻き込まれるのでしょうが、龍彦もスカウトした女性たちをただ幸せにしたいだけなのに『ダイ・ハード』の主人公のように巻き込まれていく。前作とは、龍彦が置かれた状況が全然違います。
Q:体を張るという意味ではマユミも橋の欄干に上ったりしていました。高い所は問題なかったですか?
綾野:全然大丈夫だよね?
広瀬:全然大丈夫なんです(笑)。
綾野:肝が据わってますから。周りはとても助かるんです。
広瀬:潔くいきたいなと思っていて。龍彦さんと川に落ちて岸に上がってきたあとのシーンを撮るのに、最初はスタッフの方が霧吹きを使って濡れているように工夫してくれたのですが、途中から「もういいですよ!」と自分でバケツの水を頭からかぶりました。まだ2月でしたが、その方が手っ取り早いと思って(笑)。
綾野:スタッフ&キャストはもちろん女性には配慮が必要だと思っていますが、そこに女優さんが自らそうした行動をとると、現場が広瀬アリスという女優に対してさらに意気込みます。女優さんが美しく見えることは重要で、汚く見えてほしいわけではもちろんありません。髪の毛1本の位置さえ美しく見えてほしいと思うから、メイクや髪型を意識することは理解できます。
Q:川に落ちたあと、水中での演技も問題なかったのでしょうか?
広瀬:おぼれかけましたが大丈夫でした(笑)。得意とまではいかなくても普通に泳げるのですが、それとはやはりわけが違うんです。デニムにコートを着て、6キロほどの重りを着けて。それで後ろ向きに落ちたら監督に「そのまま何もしないで」と言われたんです。そうしたらどんどんどんどん沈んでいって、動けなくなって……あれはお芝居というより、生き抜くためにもがいていただけなんです。必死に、生きたい! と思っていました(笑)。
「まだ終われていない」
Q:完成した映画を観た感想は?
綾野:IとIIと、両方を好きな人の方が稀かもしれません。僕自身は男女かかわらず一人の人間を軸にして感情移入させる映画が好きなので、Iの方が観やすいと思うタイプです。引き合いには出せませんが、IIは『仁義なき戦い』のように組織同士の抗争を描き、ミニマムなものから一気に世界が広がります。今回の方が圧倒的にいいと言う人もいて、これは好みなんだろうなと。見終えたあとにどっちが面白かったか、討論してもらっても楽しいかもしれません。
広瀬:私はやっぱり、どうしても客観的に観られないんです。あんなことがあったな、こんなことがあったなと考えたり、あそこで悩んでいたなと思い返しながら観てしまって。観たのはまだ一度だけですが、多分一生、客観的に観ることはできないのかもしれません。
綾野:役者ってそういう生きものだよね、自分の芝居のあら捜しをしてしまう。
Q:原作ファンとしては?
広瀬:映画は映画としてしっかり観たいと思います。
綾野:もちろん原作をリスペクトし、敬意を払いながら作りました。でも約2時間という映画のサイズに合わせていく。映画はあくまでも映画です。原作を預けていただいた以上、その優れた要素を取り入れ、それに敬意を払いながら映画を作っていくことを惜しまないということです。
Q:前作を観て抱いたという「まだ終われていない」という感覚は完結したのでしょうか?
綾野:いまも変わりません。実際に原作はこの映画のあとも続きます。もちろん原作38巻のすべては描けない。でも優れた要素をしっかりと映画として再構築した上で、『新宿スワン』の最終章、それもきっと“新章”になると思いますが、ある種の終わりを迎えるのを、お客様に体感していただく日が来てほしいという願いはあります。もちろん今作の反応次第ですが、求めてくださる方がいるなら、きっちりと龍彦を生き抜きたいです。
主役として俳優の先輩として、大人の男の風格を漂わせながらも熱く語る綾野剛と、そんな綾野に安心して寄り添いながら、役者魂を見せた撮影について楽しそうに語る広瀬アリス。ヒット作のパートIIという作品を通して確かな信頼関係を築いたのが、二人の間に漂う空気から伝わる。そして映画は綾野の言う通り、前作とはガラリと変わった趣の、でも確かに2年前に観た『新宿スワン』の熱さを持った魅力的な作品に仕上がった。おなじみのキャラたちの進化、濃厚な新キャラの大暴れ、そして歌舞伎町を舞台にした『インディ・ジョーンズ』のような(?)、まさかのスペクタクルシーン。パートIIIの行方が気になる。
【綾野剛】ヘアメイク:須田理恵 スタイリスト:澤田石和寛(SEPT)
【広瀬アリス】ヘアメイク:宮本愛 スタイリスト:西ゆり子(CONTEMPORARY CORPORATION)
『新宿スワンII』は2017年1月21日公開