『恋妻家宮本』阿部寛&天海祐希 単独インタビュー
僕たち似てるんです
取材・文:浅見祥子 写真:橋本龍二
「家政婦のミタ」など話題の連続ドラマを数多く手掛けてきたベテラン脚本家の遊川和彦が、重松清の小説「ファミレス」を脚色した自らの脚本で映画監督デビューを果たす『恋妻家宮本』(こいさいかみやもと)。子供が巣立った夫婦に訪れる離婚危機を、コミカルかつ愛情たっぷりに描いている。さえない中学校教師の陽平と平凡な専業主婦・美代子というこの夫婦を演じた阿部寛と天海祐希には、意外な共通点や互いに抱く敬意があった。
俳優としての境遇が似ている二人
Q:お二人で夫婦を演じると聞いて、どう思いましたか?
阿部寛(以下、阿部):本当にうれしかったですね。20年ほど前、天海さんが映像の世界へデビューされたころにご一緒して、今回は満を持しての夫婦役。いい時期に、しかも遊川さんの下で共演できるなんてありがたいなと。
天海祐希(以下、天海):遊川監督で阿部さん主演と聞いて、ぜひぜひと。ただ、主婦として家庭を守り、旦那さんや子供の世話をキチンとする、そういう毎日を積み重ねる女性の美しさが足りないと自覚していたので、わたしでいいのかなという思いはありました。
Q:遊川監督はお二人を「役者としてタイプが違う」とおっしゃっていました。
阿部:僕は近い気がするんです。実は、スポーツクラブでお会いすることが多くて。
天海:そうなんですよ。
阿部:天海さんは定期的にいらっしゃるようですが、僕は『テルマエ・ロマエ』など必要なときにガッツリと通う(笑)。すっぴんで、それでもおキレイで。そうして定期的にお会いするので、全くの他人ではないような気がして。年を経て、さらに必要とされてきた天海さんと、年を取ってから少し主演などをやらせていただくようになった僕と、俳優としての境遇のようなものも勝手に近しく思っていました。お話をしていると、仕事に対する姿勢も似ていると感じます。
天海:阿部さんはモデルでわたしは宝塚。遠くはないけれどそれぞれ違う世界から、映画やテレビドラマに出演する俳優の世界へ入ってきたのも似ていますよね。それに二人とも……背が大きい(笑)。これもね、なかなか大変なんですよ!
阿部:大変なんです。
天海:今でこそ皆さんに、背が高くていいねと言っていただきますけど、いろいろと苦労があるんです。背丈が釣り合う相手役がなかなかいないとか、役柄も限定されるところがあったりして。でも阿部さんて、この身長と容姿では似合わないだろうと思われる役柄をどんどん自分のものにされていますよね。今後モデルさんから俳優になる方に道筋をつけているわけで、その分野のいわば開拓者。だって今回も、陽平のようなちっちゃい人間を阿部さんが演じるとは思わないでしょう? こんなに人としての器が大きく、ハンサムな方なのに。でもこれがまた似合うんですよね。
阿部に対する天海の気遣い
Q:初監督である遊川さんの演出はいかがでしたか?
天海:細やかでしたよね。男性二人が細やかだったので、わたしはソファにぐで~っと寝転がっていても大丈夫でした。
阿部:いやいや(笑)。初監督なのに、あらゆることへ神経がいき届き、見事な牽引力でした。僕自身も遊川さんを頼りにしていたし、現場の雰囲気も良くしていただいて。
天海:わたしもこれまで少なからず“座長”をやらせていただいた経験があるので、どれだけ周りに気を配らなければならないか、気づかれない気遣いをする必要がある立ち位置かを、多少なりともわかっています。ですから、今回も座長である阿部さんがしなければならない気遣い以外のところで苦労されることのないよう、サポートできたらいいなと思っていました。
Q:陽平と美代子の役柄はすぐイメージできましたか?
阿部:遊川さんが演じてくれるんですよ。もともと俳優志望で、演じ方もお上手。非常に愛らしくて、そこに近づきたいと思って演じていました。
天海:でも後半は自分のものにされていて、どの角度から見ても陽平でした。陽平って、何も考えていないようで、実はたくさん考えている。考え過ぎて360度回って、考えていないように見えるんですね。その辺がもったいない人だなって。美代子に関しては遊川さんがいろいろと言ってくださるし、阿部さんが目の前に居てくださるのでイメージしやすかったです。陽平って「暖簾に腕押し」みたいな人ですから、「ちょっとあなた、何なのよ!」というセリフも、ごく自然に言えました(笑)。
Q:妻が隠していた離婚届を見つけて右往左往する陽平の心情に、すんなり寄り添えましたか?
阿部:僕は見つけたらすぐに「これ何?」と聞きそうですけど、陽平は言えない。ちょっと様子を見てからという人です。それでいて優しいから、いろんなところに神経がいって、足元が見えないんですね。思えば、陽平のような教師に向かない教師が、僕自身の子供のころにも居ました。反抗期だった当時の自分が心を打たれたのは、明るくてうまく生徒を牽引する人気のある先生より、ひとりの生徒にこだわってしまうような先生。陽平ってそういう先生なのかなとイメージしながら演じていました。
Q:思いを言葉にするのって難しいですよね。
阿部:そうですね。言わなくても、もうわかっているだろうと勝手に決めつけてしまうことってありますよね。言葉にしなければわからないと心に留めておきながら、自分が走っている状態だと“ランナー”になってしまう。そうなると、あまりしゃべらなくなって、いつの間にか40キロも走っている、水とらなきゃ! みたいな(笑)。それで、いかん、いかんと思うことは、さまざまな人間関係でたくさんあります。反省しないといけないですね。
温かい気持ちになれるはず
Q:それにしても、陽平や美代子のような気持ちのすれ違いってよくありそうですよね。
天海:あるでしょ~。だから奥様でも、旦那様からでも、映画館に引っ張っていってもらって、映画を観ることでお互いに優しい気持ちになっていただけたらいいですね。
阿部:僕自身、映画を観て、優しい気持ちになれました。自分が演じる、演じないは別としても、脚本の力ってすごいな、とてもいい話だなと。ちょっと温かい気持ちになって帰れるはずです。若い方が観ても、いつか自分の身にそうしたことが起きたとき、心に何かが残っているかもしれない。もう少し上の世代の方なら、きっと思うところがたくさんあるはずです。
天海:温かい映画で、素直に楽しかったと思えました。自分がその世界の中にいられて、幸せでした。決して大きな事件が起きたりする物語ではありません。でも登場人物みんなが愛すべき人たちでそれぞれに葛藤を抱え、もがきながらも一生懸命に生きている。人生って、そういうことじゃないかなと思いながら観ていました。わたし自身、日常生活の中で大事な人には大切な言葉を、温かい気持ちをキチンと伝えていかないといけないと思いました。
共に長身の二人が並ぶと、ちょっと異次元のカップルのような華やかさがある。それでいて口を開くと、長い間、俳優として第一線を走ってきた者同士の尊敬の念がひしひしと伝わる。ところが映画の中で阿部は優柔不断で頼りない教師そのものだし、天海は家庭を守る、頼れる専業主婦に見える。インタビューの途中、笑い過ぎて涙目になった阿部に気付き、さっとティッシュを差し出した天海。その瞬時の反応とさりげない気遣いは、まるで役柄同様に長年連れ添った夫婦のようでもあった。
(C) 2017「恋妻家宮本」製作委員会
映画『恋妻家宮本』は1月28日より全国公開