狂気の巨獣バトルは楽園で撮られた!『キングコング:髑髏島の巨神』現場レポート
アメリカを代表する怪獣・キングコングを、全く新たなアプローチで描いたアドベンチャー大作『キングコング:髑髏島の巨神』が3月25日に公開を迎える。映画の舞台は、コングが“神”として君臨する巨大生物の島「髑髏島」(ドクロトウ)。青年期にさしかかった若々しいコングが、島の生態系を守るため、島に破壊をもたらす人間、さらに島に潜む凶悪な存在とノンストップで壮絶なバトルを繰り広げる。
興味深いのは、本作の時代設定がベトナム戦争終了間際の1970年代ということ。未知の生物を探すため髑髏島に降り立った調査遠征隊にはアメリカ軍が同行しており、兵士たちが大自然の中で狂気に直面する状況は『地獄の黙示録』『プラトーン』といったベトナム戦争をテーマにした傑作群を思わせる。
さかのぼること約1年前、髑髏島を想定したロケが行われていたのは有数の観光地であるハワイ。マーベル映画の“ロキ様”ことトム・ヒドルストンをはじめ、巨大生物の脅威に直面する人間たちを演じたキャストとスタッフが集結し、撮影の合間に本作への思いを語った。
この日のロケ場所は、『ジュラシック・パーク』などのハリウッド大作や人気テレビ番組などのロケ地としてしばし使用されているクアロア・ランチ。緑豊かな自然が広がる観光地でもあるが、今回は夜間シーンが撮影されていた。ハワイでは約2か月撮影が行われ、ベトナム、オーストラリアでも撮影が行われた。
トムが演じるのは元SAS(特殊空挺部隊)でサバイバルの達人として調査隊を引率するコンラッド。草が生い茂る沼地の撮影では、サミュエル・L・ジャクソン演じる軍人パッカードとコンラッドが銃を手に向き合い、言い争いをするシーンが撮影されていた。もちろん体長31.6メートル、体重158トンを誇るコングの姿はなかったが、コンラッドがコングを殺さないようパッカードを説得しており、コングをめぐって人間たちの間でもドラマが繰り広げられることを予感させた。
主演のトムは決してマッチョではないが、演じるコンラッドはサバイバルスキルを身に着けた歴戦の戦士。役づくりももちろんハードで、「実際に軍が行っているトレーニングを体験して、今までにないくらい走った。本当にきついと思ったけれど、肉体改造をエンジョイするように考えたよ」と苦笑。これまでにないアクションシーンの連続となったが「一番危なかったのは、池での爆発シーンかな。炎が上がる見せ場なんだけど、割れた岩のかけらが顔の近くまで飛んできてちょっと危険を感じた。でも、全然問題なしさ!」と余裕を見せる。
また、気になるコングとの関係については「コンラッドのスタンスはシンプル。自然に尊敬の念を抱いているから、自然界のヒエラルキーを理解しているし、人間が自然の中でいかに無力かということも知っている。彼は調査隊全員を島から安全に逃げられるように導こうとすると同時に、コングをなんとか救おうとするんだ」と明かした。
さらに「今回、キングコングは島を出ないし、その存在感は圧倒的。恐怖と共に、威厳を備えた自然の驚異を象徴する巨大な生き物として登場するんだ」と告白したトムは「今までの3作品とは全然違うものになるはずだ」と自信をのぞかせる。ちなみに、一番気に入っているシーンは「コンラッドがガスマスクをつけて日本刀を持っているシーン。ちょっと子供じみてはいたけれど、殺陣も決まっていて、今までのアクションの中でも最高の瞬間だった」とのこと。「イメージショットとして撮ったから映画には出てこないけど、とても楽しんだよ」と語っていたが、果たして本編にも登場するのか。
サミュエルが演じるのは、そのコンラッドと対立する昔気質の軍人パッカード。『アベンジャーズ』では、ロキ(トム)とニック・フューリー(サミュエル)と善悪が正反対の役で共演しており、「気心が知れていて、信頼できる仲間と仕事をするのはいつだって歓迎さ。トムとの共演も本当にうれしいし、いい関係で仕事ができているから、またいつか共演できたらいいね」と笑う。
パッカードは上陸時に自分たちのヘリを襲ったコングへの復讐に取りつかれる、戦争の狂気を表す重要な役どころだが、本人は「この映画の主役はキングコングで、それを盛り上げるのが俺たちの役目。キングコングと一緒にスクリーンに出るだけでうれしいのさ!」とゴキゲン。「映画とは常にそういうもの。誰かが悪者になり、誰かがヒーローになる。自分はどちらの側を演じることもいとわないし、実際どっちでもいいんだ」と笑う。
それでも、実際に共演するのはCGで描かれた巨大生物たち。「子供の頃はキングコングのおもちゃと遊んで、その大きさを利用していろいろ遊んだけど、今は大きすぎてまったくわからない(笑)。でもそれが面白いところでもあるね」というサミュエルは「こういったCG映画は、僕たち俳優のイマジネーション(演技)が重要になってくる。何もないところで自分がいい演技をすれば、それに合わせてもっと動きのあるCGを作らなければならなくなる。それでさらに良い映画ができるんだということを、ジョージ・ルーカスが教えてくれたのさ」と振り返った。
映画『ルーム』でオスカーを手にしたブリー・ラーソンは、戦場カメラマンのウィーバー役で出演。くしくも彼女は、今後マーベル映画『キャプテン・マーベル(原題) / Captain Marvel』への主演が決定しており、本作は、主要人物3人がそろってマーベルファミリーという、興味深い組み合わせになった。
ウィーバーは、島の生態系と触れ合うことでその尊さを理解し、キングコングを守ることが大事だと考える女性。ブリーは「あくまで主役はキングコングだけど、コンラッドとともに、自分の意思で守るべきもののために立ち向かうところが気に入っているわ」と語る。
キングコングといえば、これまでは必ず人間の美女とのロマンチックな絆が描かれてきたが、「今回はキングコングと親密になる予定はないわ」とキッパリ。『美女と野獣』のような映画とは無縁だといい、「彼女は島にいるうちに、だんだん自然へ尊敬の念を抱き、愛するようになっていくのよ。そしてキングコングもその自然の一部であり、とても頭のいい動物だということがわかる。彼がいないと島の生態系が崩れてしまうから、なんとか生かしてあげたいと思うの」と語る。
ちなみに、本作のようなモンスター映画については「子供の頃を思い出させるひとつの象徴ね。それがみんな映画を観に行く理由になっているし、イマジネーションを豊かにする大切な要素でもあると思うわ」と肯定派。「みんなスクリーンに映し出されるファンタジーの世界に釘付けになって熱中するけど、これってよく考えたら、大人のすることじゃないわよね」と苦笑しながらも、「いい意味で童心に返っている。みんなイマジネーションを使って、本当にあったことのようにドキドキして……。でもこれこそが映画の醍醐味よね」と満足げに語った。
「『ジュラシック・パーク』や『スター・ウォーズ』もそう。たったの数十ドルで、宇宙にだって行けちゃう、しかもどんな怖いことが起きてもそれはスクリーンの中だけで、観ている私たちは安全なの。家族や友達とゆったり劇場のシートに座って、ポップコーンを食べながら、世界の果てを旅したり、恋に落ちたり、モンスターに追いかけられたりする非日常を楽しむことが出来る。それってすばらしいことよね。だからキングコングもそうやって新しい世界を楽しむファンタジーのひとつじゃないかしら」。
そんな夢のような本作のメガホンを取ったのは、仙人のように長いヒゲが特徴的なジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督。32歳の若手で、映画はもちろん、ビデオゲームや日本のアニメ、コミックが大好きなオタク。『キングコング』にも、宮崎駿監督の『もののけ姫』や小島秀夫監督のゲーム「メタルギア ソリッド」といった作品の影響が見て取れる。
本作の前に撮った長編は、大人への階段を踏み出すティーンたちの心情をつづった青春映画『ザ・キング・オブ・サマー(原題) / The Kings of Summer』。アート系作品からブロックバスターへと大きな転換となったが、本人は「今じゃ、娯楽大作と聞くと、『金儲けのために作ったんだな』と想像される雰囲気があるよね。でもインディーズ映画を作っている時にも、僕の中には、いつかビッグなスケールをもつ、ビッグなストーリーを語ってみたいという気持ちがあったんだ」と明かす。
「今の僕はアートハウス系の映画や外国映画も大好きだけれど、小さいころは大手のメジャー作品しか観たことがなかった。当時は映画といえば、両親と一緒に映画館まで観に行くもので、子供の頃の僕にとってはとても大切なものだったんだ。たとえ映画の出来があまり良くなくても、それでも楽しかったものさ」。
ロバーツ監督が、『キングコング』に取り組むにあたって重要視したのは、映画の舞台設定を1970年代にすること。「時代設定を1970年代にしたことで、チョッパー(戦闘ヘリ)やナパーム弾といった機器が登場し、キングコングが近代兵器と戦うという、今までになかったシーンが作れるようになった。今まで誰も見たことがない特別なシーンになるはずだよ」と語る姿は映画少年そのものだ。
「僕は自分が観たいと思い、友達や家族も観たいと思ってくれる楽しい映画を作りたいと思っている。今回に関して言えば、『美女と野獣』的なロマンチックな映画を作る気は全くない。自分はそんなもの観たくないし、他の人だってそうだろう。世の中が変わり、映画の中のジェンダーや政治の描き方も変わってきている今、僕たちには、もっと多文化的な映画を作る責任があると感じているんだ」。
ちなみに本作の後、キングコングは、日本を代表する怪獣王にして『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のギャレス・エドワーズ監督の手で蘇ったハリウッド版ゴジラとの対決が待っているが、トムは「うーん、そのようだね。でも詳しいことはまだ知らないんだよ。みんなから、そんなプランがあることは聞いているけどね。2つの伝説の共演が実現すればエキサイティングだよね。みんなが納得できるような内容になるといいけど……」と含みのある回答。『キングコング』でその詳細が明らかになるのかも見どころになりそうだ。(構成:編集部・入倉功一)
映画『キングコング:髑髏島の巨神』は3月25日より全国公開
『キングコング:髑髏島の巨神』オフィシャルサイト