あの日を忘れないー東日本大震災を映画で振り返る
2011年3月11日、東日本大震災はあまりにも多くのものを奪い去り、わたしたちの生活環境、考え方、そして文化までも一変させてしまいました。この6年を映画で振り返ってみます。
原発事故で甚大な被害 希望を失わない漁師たちの姿-映画『新地町の漁師たち』
東日本大震災による津波と福島第一原子力発電所事故で甚大な被害を受けた、福島県新地町の漁師たちをめぐるドキュメンタリー。2011年から3年半にわたって彼らの密着取材を敢行し、同地の状況を浮き彫りにする。監督を務めるのは、『そしてAKIKOは… ~あるダンサーの肖像~』などで知られる羽田澄子監督に師事した山田徹。深い悲しみと怒りを抱えながらも、希望を失わない漁師たちの姿が印象に残る。
震災後の福島の自然や生き物、暮らしを淡々としかし力強く描く-映画『残されし大地』
ベルギー人サウンドエンジニアでブリュッセルの地下鉄テロで亡くなったジル・ローラン監督が、東日本大震災後の福島県を取材したドキュメンタリー。『チキンとプラム ~あるバイオリン弾き、最後の夢~』などに携わってきたローラン監督が、妻の故郷である日本で、福島第一原子力発電所の事故の影響を受けた地域で動物の保護活動を続ける親子などにスポットを当て、彼らの故郷への思いを自然と共に映し出す。福島の自然や生き物、暮らしを愛する彼らの淡々とした姿に、深く考えさせられる。
家も仕事も…すべて津波で失いながらも自力で再建…そして世界に伝える-映画『息の跡』
東日本大震災後に東京から陸前高田に移住した小森はるかが監督したドキュメンタリー。津波で全てを失うも自力で種苗店を再開し、独学で学んだ英語の手記を書いた佐藤貞一さんの日常をカメラが切り取る。プロデューサーは、『風の波紋』などをプロデュースした長倉徳生。黙々と外国語で本の執筆をし、工夫して日々を生きている佐藤さんの生活が見どころ。
故郷も生活も奪われた悲しみを抱えながら、たくましく生きる飯舘村の女性たちの日常-映画『飯舘村の母ちゃんたち 土とともに』
福島第一原子力発電所事故により避難を余儀なくされた飯舘村の女性たちを、追い続けたドキュメンタリー。長年パレスチナを取材してきた『ガーダ パレスチナの詩』などの古居みずえ監督が、故郷も生活も奪われた悲しみを抱えながら、たくましく生きる女性たちの日常を見つめる。東日本大震災から5年が経過し、いまだに高い放射線量や長引く避難生活など先の見えない中、ユーモアを持って前に進もうとする彼女たちの姿が胸を打つ。
無人の村に取り残されたペットや家畜たちのため保護施設建設に全力を尽くす男性の姿-映画『みえない汚染 飯舘村の動物たち』
福島第一原子力発電所の事故の影響で、無人の村となった飯舘村に取り残されたペットや家畜たちのための保護施設建設に全力を尽くす男性の姿に迫るドキュメンタリー。人間の都合で置き去りにされた多数の犬や猫、豚などの過酷な現実をカメラが映し出す。『イヌ』の北田直俊が監督を務め、『緑子/MIDORI-KO』などの坂本弘道が音楽を担当。人気も温もりも明かりすらない場所で生きる動物たちの姿に涙する。
被災地に設置された3Dカメラが捉えた3年間の映像は後世に語り継ぐべき想像を絶する体験-映画『大津波3.11 未来への記憶』
東日本大震災直後から被災地に設置された3Dカメラが捉えた3年間の映像に、震災後に撮影されたインタビュー映像などを加えたドキュメンタリー。陸前高田、気仙沼、宮古市田老、南三陸、釜石で津波に遭遇した人々の声を丁寧に拾い上げていく。メガホンを取るのは『天のしずく 辰巳芳子 “いのちのスープ”』などの河邑厚徳。被災した人々がとつとつと語る大自然の脅威と、後世に語り継ぐべき想像を絶する体験に胸が詰まる。
放射能の影響と闘う福島とチェルノブイリの母親たち 子供たちのためにできることは?-映画『小さき声のカノン』
東日本大震災による福島第一原子力発電所事故を経験した福島県の母親たちと、チェルノブイリ原子力発電所事故後のベラルーシの母親たちに取材したドキュメンタリー。福島とチェルノブイリの母親たちが、放射能の影響に不安を抱きながらも、子供たちのためにできることを考え、実行する姿を追う。監督は、『ミツバチの羽音と地球の回転』などで核や原子力発電所についてのドキュメンタリーを発表してきた鎌仲ひとみ。二つの国の行政の違いに考えさせられ、そして両国に共通する母親たちの愛情に心を動かされる。
震災翌日から800日にわたり福島第一原子力発電所事故の被災者たちに密着しその苦悩に迫る-映画『遺言 原発さえなければ』
東日本大震災翌日から800日にわたり福島第一原子力発電所事故の被災者たちに密着し、その苦悩を見つめたドキュメンタリー。放射能汚染により避難を余儀なくされた飯舘村の住民を中心に、事故直後の様子や廃業の決断など、原発事故に翻弄(ほんろう)される人々の生活を映し出す。故郷を奪われ各地に離散して生活の再建を模索する中、やり場のない怒りを訴える酪農家の姿に胸を締め付けられる。
東日本大震災から1年後のその日、世界中の人々がどのように過ごしていたかを投稿映像でつなぐドキュメンタリー-映画『JAPAN IN A DAY [ジャパン イン ア デイ]』
2011年3月11日の東日本大震災からちょうど1年後のその日、世界中の人々がどのように過ごしていたかを投稿された映像によってつなぐドキュメンタリー。『グラディエーター』のリドリー・スコットと『アンストッパブル』のトニー・スコットがエグゼクティブプロデューサーとして名を連ね、動画サイト「YouTube」に寄せられた約8,000件、およそ300時間の動画を基に1本の映画として作り上げた。1年前のあの日に思いをはせる人やプロポーズをする人など、日本を中心とした12か国の人々のその日の様子から、過去から現在、そして未来へと、時間の連続や人間のつながりが浮かび上がる。
放射性物質汚染と闘う福島県天栄村の農家の人々の姿を追ったドキュメンタリー-映画『天に栄える村』
福島第一原発事故による放射性物質汚染と闘う福島県天栄村の農家の人々の姿を追ったドキュメンタリー。環境に配慮したおいしい米作りを追求し全国コンクールで4年連続金賞受賞という成果を残している彼らが、事故で農地を汚染された絶望的な状況に屈することなく、行政に頼らず自分たちで試行錯誤しながら除染に取り組む様子を映し出す。監督は『里山の学校』などの原村政樹、ナレーションを女優の余貴美子が務める。
甚大な津波被害を受けた三陸沿岸部に暮らす人々の語りを撮り続けたドキュメンタリー-映画『東北記録映画三部作』
酒井耕と濱口竜介の両監督が手掛けた「東北記録映画三部作」の第1部となる対話形式のドキュメンタリー。2011年の東日本大震災で津波の被害に遭った三陸海岸沿岸部で暮らす人々との対話を通して、当事者たちのリアルな感情や今後の復興への希望を浮き彫りにする。町の消防団員や、奇跡的に一命を取り留めた夫婦や姉妹たちが登場。彼らの言葉によって生々しくよみがえる津波の記憶や、失われた故郷への愛着に心揺さぶられる。
大震災で障害があるために逃げ遅れたり、取り残された人々が多数いた…映画『生命のことづけ~死亡率2倍 障害のある人たちの3.11~』
2011年3月11日に起きた東日本大震災で、障害があるために逃げ遅れたり、取り残された人々が多数いた。震災後に自治体や報道機関が調査したところによると、障害者の死亡率は健常者の2倍だったという事実が明らかになる。そんな中、奇跡的に一命を取り留めた障害を持つ人々や家族がカメラの前で自らの体験をとつとつと語り始める。
日本全国に広がった脱原発デモに密着したドキュメンタリー映画『沈黙しない春』
東日本大震災後に起きた、福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、全国に広がった脱原発デモに密着したドキュメンタリー。ある女子高生が、ブログやツイッターで脱原発を訴えたことから始まり、2011年5月に静岡県の浜岡原子力発電所の停止が決まるまでの激動の44日間を映し取る。監督を務めるのは『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』の配給にもかかわった杉岡太樹。名古屋を皮切りに日本各地に飛び火する原発反対運動の熱に引き寄せられる。
岩井俊二監督が震災を経た日本の現在と未来を語り合うドキュメンタリー-映画『friends after 3.11【劇場版】』
独特の映像世界で定評のある岩井俊二監督が、東日本大震災後に出会ったさまざまな立場の友人たちと、震災を経た日本の現在と未来を語り合うドキュメンタリー。311後原発問題に関心を持ったという女優の松田美由紀をナビゲーターに迎え、震災後ツイッターなどを通じて出会った友人や学識者たちに取材を敢行。「原発のウソ」の著者である小出裕章、元東芝・原子炉格納容器設計者の後藤政志、『ヒバクシャ 世界の終わりに』などの鎌仲ひとみ監督ら多彩な立場の人々が語る言葉が胸に響く。
震災の2週間後、福島、宮城、岩手を襲った惨劇の爪あと-映画『311』
2011年3月11日に発生した東日本大震災の2週間後、ジャーナリストや映画監督たちが被災地へ入りその様子を記録したドキュメンタリー。『「A」』『A2』の森達也と安岡卓治、『がんばれ陸上自衛隊@イラク・サマワ』の綿井健陽、『花と兵隊』松林要樹の4人が共同監督という形で参加し、福島、宮城、岩手を襲った惨劇の爪あとを撮影。
東日本大震災から約1か月たった被災地にカメラを向けたドキュメンタリー-映画『無常素描』
『ただいま それぞれの居場所』の大宮浩一監督が、東日本大震災から約1か月たった被災地にカメラを向けたドキュメンタリー。激しい大地震と津波の爪跡が深く残る場所を訪れつつ、その後も必死に生きている人々の姿と、救援活動に臨む者たちの姿を静かに映し出す。地名や人の名前を明記することなく、カメラはただそこにあるがままの風景と人々の息遣いを追い掛ける。決して忘れることのできない大震災の痕跡に、ただ言葉を失うばかりだ。