ただの完コピじゃない!4月の5つ星映画5作品はこれだ!
今月の5つ星
4月の公開予定を繰り上げ、急きょ3月31日より上映が開始された本年度アカデミー賞作品賞受賞作『ムーンライト』がついに登場! また、社会現象を巻き起こした『トレインスポッティング』約20年ぶりの続編やヴィゴ・モーテンセン主演のファミリーロードムービーのほか、Google Earth で実の家族を探し出した実録ドラマ、エマ・ワトソン版『美女と野獣』とファン待望の新作をピックアップ。これが4月の5つ星映画5作品だ!
月明かりの下で青に染まる少年は何を想うのか?
『ムーンライト』
本年度アカデミー賞授賞式で前代未聞の“誤発表”に見舞われながらも作品賞に輝いた『ムーンライト』。ゲイを主人公にした映画で史上初めて同賞を受賞したことでも注目を浴びているが、偏見や差別と闘う主人公たちの姿を描いたものが多い同ジャンルで、本作では恋心すらまだ知らない主人公がアイデンティティーを形成する上での要素として幼なじみへの純愛が描かれており、その点が多くの共感を呼ぶフックになったことは間違いない。そんな主人公の成長物語を3つの時代にフォーカスし、それもそれぞれの時代で別の俳優が演じるという手法を取りながら、目の動きのクセなどから一貫した人間であることに説得力を持たせているのも見事。また、助演男優賞を獲得したホアン役のマハーシャラ・アリは主人公の少年時代にしか出てこないが圧倒的な存在感を誇り、主人公の心の中で生き続けていくさまに、人生には出会うべくして出会う人がいるものだと痛感させられると同時に、歴史は繰り返すものという物悲しさも終盤で漂う。月明かりに照らされ青色に染まる主人公の姿に、自らの人生にも思いを馳せずにはいられない詩的な作品に仕上がっている。(編集部・石神恵美子)
映画『ムーンライト』は公開中
学校に通わなくても成長できるのか?過激な子育てから愛とエゴを問う
『はじまりへの旅』
ガスも電気もない森の奥で、男手一つで6人の子供たちを育てる父親……と言うとまるで倉本聰脚本の「北の国から」のようだが、主人公ベン(ヴィゴ・モーテンセン)の子育ての過激さには驚く。日々トレーニング&狩りを仕込み、末っ子が7歳にして6か国語をマスターしてしまうほどの徹底ぶりで、学校に通わない独自の学習を実践している。その様子がコミカルなタッチのためほのぼのとした印象を受けるが、見方を変えれば「家族」という宗教のもとに理想の王国を築こうとする父親のエゴのようにもとれ、恐ろしくもある。しかし、妻の葬式に出るために森を離れたことから、迷いのなかったベンがさまざまな試練に見舞われることになる。ベンの参列を断固として拒否し、その上子供たちと引き離そうとする妻の父親(フランク・ランジェラ)は一見ヒールのように見えるが、子供たちはベンと暮らしていれば本当に幸せになれるのか……? 長男がベンへの怒りを爆発させるシーンはパンチを食らうような衝撃で、いかに愛とエゴが紙一重であるかを悶々と考えさせる野心作だ。『ロード・オブ・ザ・リング』のりりしいヴィゴ様を期待していくと、ド肝を抜かれるかもしれない。(編集部・石井百合子)
映画『はじまりへの旅』は公開中
奇跡のような実話に子役の名演あり
5歳で迷子になって、25年後にやっとの思いで住んでいた家を Google Earth で見つけ、生き別れた家族と再会するという奇跡のような実話を映画化したとなれば、感動は当然のように思われる。そんな「感動の実話」という前ふりと期待を軽く超え、深く心を揺さぶる作品を世に送ることができたのは、新鋭ガース・デイヴィス監督をはじめ、先日のアカデミー賞にノミネートされたスタッフ陣、同じくアカデミー賞にノミネートされたデヴ・パテル、ニコール・キッドマンら俳優陣の実力というほかない。とりわけ、何千人もの子供から選ばれ主人公の幼少期を演じたサニー・パワーの天性の魅力は計り知れない。彼がいなければ物語が成り立たないという重要なポジションで、初演技ながら時にかわいく時に賢く「苦境を生き抜く」ことを体現して見せた。また、「生きる」「母」というキーワードが思い浮かぶ本作で存在感を発揮したのは、ニコール。自身も養子を迎えた経験のあるニコールがわが子に語りかける姿は、脳裏に焼き付く名シーンになっている。(編集部・小松芙未)
映画『LION/ライオン ~25年目のただいま~』は4月7日より公開
ノスタルジーだけじゃない、作る意味のある続編に感激!
ヘロインにおぼれるスコットランドの若者たちの“今”を斬新な映像で描き、1990年代後半の若者文化に影響を与えた青春映画の続編。ダニー・ボイル監督をはじめ、4人の悪友を演じたユアン・マクレガー、ユエン・ブレムナー、ロバート・カーライル、ジョニー・リー・ミラーら前作のメンバーが再集結した。仲間を裏切りドラッグを売った金を持ち逃げしたレントン(ユアン)が、故郷に戻ってきたことから起こる騒動を描く。巧みに織り込まれた前作のフラッシュバックも相まって、当時の記憶がよみがえるファンも多いはず。何より、劇中のキャラクターがそのまま年を重ねたようなレントンたちの姿に大感激。見た目は年を食っても中身は変わっていない彼らだが、取り巻く環境は確実に変化し、前作では若者の言葉遊びに過ぎなかった「未来を選べ、人生を選べ」というフレーズも、より現実味を帯びた言葉として、4人の肩にのしかかる。ノスタルジーに浸るだけではない、20年という時間の経過をしっかりと反映した、作る意味のある続編に仕上がっていて、1作目に熱狂した世代が「俺たちも年とったよな……」と共感できることは確実だ。(編集部・入倉功一)
映画『T2 トレインスポッティング』は4月8日より公開
これぞ決定版!大胆な新エピソードに作品愛が増す
『美女と野獣』
ディズニー不朽の名作アニメ『美女と野獣』は過去にも実写化されているが、満を持して本家ディズニーが実写化に挑んだ。ディズニープリンセスの中でも、現代的な女性像を持つベルにふんするのは、聡明で知的な人柄がベルと共通しているエマ・ワトソン。ガストンやル・フウなど、アニメーション版のビジュアルに合わせたキャスティングはもちろん、シーンの一つ一つを忠実に再現し、“完全実写化”の名にふさわしい作品への敬意が随所に感じられる。それだけではただの完コピで終わってしまうが、そこに新曲と新エピソードをプラスしている点に注目だ。新曲はアニメーション版の作曲を手掛けたアラン・メンケン自らが作曲しているので、作品の世界観が踏襲されている。また、知られざるエピソードの存在が、ベルと野獣の絆によりリアリティーを持たせるという憎い演出で、作品への愛と理解が一層深まる仕掛けだ。それもこれも、本家製作による安心感と本命感があればこそ、これぞディズニーマジックのなせる業。(編集部・香取亜希)
映画『美女と野獣』は4月21日より公開