『キングコング:髑髏島の巨神』トム・ヒドルストン&サミュエル・L・ジャクソン 単独インタビュー
完璧なんて不可能、でも挑戦はできる!
取材・文:編集部・石神恵美子 写真:金井尭子
キングコングを神話上の謎の島に君臨する巨神として描いた迫力満点のアドベンチャー大作『キングコング:髑髏島の巨神』を引っ提げ、トム・ヒドルストン&サミュエル・L・ジャクソンが“ゴジラの国”日本にやってきた。マーベル作品でも人気キャラを演じている2人が、本作で再共演した印象から、キングコングにまつわる子供時代の思い出までをとことん語った。
キングコングはやっぱかっこいい!
Q:本作への出演を決意したわけはなんでしょう?
トム・ヒドルストン(以下、トム):子供のころに観ていた『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』や『ジュラシック・パーク』を思い出したんだ。そういう映画に出演したことがなかったから。(うれしそうに)“怪獣”アドベンチャーというジャンルの作品にね。キングコングに関しては、最初の『キング・コング』(1933)のイメージをよく覚えているよ。映画を観たことがない人でも、コングがニューヨークのエンパイア・ステート・ビルディングにのぼって、向かってくる飛行機をはらいのけるイメージを知っている人は多い。それはコングが世界的なポップカルチャーの一部になっている証拠だよね。
Q:サミュエルさんは、キングコングの大ファンだったとお聞きしました。
サミュエル・L・ジャクソン(以下、サミュエル):そうだ。子供のころによくコングから逃げるマネをしたり、モンスターの出てくるゲームが好きで、キングコングもその中の一つだろ? だからそういう思い出ばかりなんだけど、コングがエンパイア・ステート・ビルディングによじのぼったり、飛行機を片手でつかみ落としたりするのはやっぱかっこいい。
『アベンジャーズ』以来の共演なのに!
Q:トムさんは今回、調査遠征隊リーダー、コンラッドとしてたくましい役どころを務めていらっしゃいます。『アベンジャーズ』のロキ役や『クリムゾン・ピーク』のトーマス役など、ナイーブなキャラクターも見事にこなす印象があるのですが、どちらが自分自身に近いと思いますか?
トム:まず、ロキがナイーブなキャラなのかについては、どうなのかな(笑)。『クリムゾン・ピーク』のトーマスはそうだね。コンラッドとどちらに近いかということだけど、これは両方だと思う。これまで演じてきたキャラクターは全て僕でありながらも、僕ではないと言えると思う。役者業とは、自分自身の違う部分をさらけ出せる特権があり、それが義務でもあると思っているんだ。ピアノの鍵盤みたいにね。ピアノには88の鍵盤があるだろう? そこには白と黒の鍵盤があって、組み合わせることで違うコードを作ることができる。同じように、僕の中にも、外を探求するのが好きで活動的な自分がいるから、コンラッドのような筋骨たくましい役ができる。当然、ロキのようにおどけていてミステリアスな部分も、トーマスのように誠実で傷つきやすい部分もあるんだ。
Q:お互いの再共演についてはいかがでしたか?
トム:とても楽しかったよ。サミュエルは素晴らしい役者だ。共演というのはテニスをするような感じなんだ。役者は作品ごとにいつも違うゲームに臨まなきゃいけないよね。そんな中でも、サミュエルは一緒にプレーをするうえでこのうえなく楽しい人だよ。
サミュエル:トムはただのかわいい顔した男の子だよ(一同笑)。トムが若くてもっとかわいいときに『アベンジャーズ』(2012)で共演したけど、そのときは(トムが)デッカイ角に緑色のコスチュームを身にまとってたな(笑)。まともに共演したシーンっていうのは、檻に入れられたロキと対峙するシーンだけだった。一応、向かい合ってセリフをやりとりするくだりはあったけど。ただ、今回の映画でもずっと一緒だったっていうわけでもないんだよな。トムの役が島のあっちに行けば、俺の役はこっちに行くって感じだったから。あるところで落ち合うけど、ずっと一緒ってわけじゃなかったんだ。じゃあ、俺はまたこっち行くぞって、あんたはそっちかみたいな感じでさ。
コングVS.サミュエル!モデルは「白鯨」
Q:本作は、ベトナム戦争直後の1970年代が舞台になっているところも画期的で面白いですよね。
トム:1970年代初期は歴史的にとても興味深い時代だと思う。社会的にも政治的にも変化を迎えた時代だ。ほとんどはいい変化だったけど、政治に対する不信感も広がっていた。1961年、アイゼンハワー大統領が離任演説で「軍産複合体」の危険性と、力を持つ人々の責任を訴えたりね。それに、その時代なら発見されていない島があるという設定にも無理がないと思った。
Q:時代設定もあり、キングコング映画でありながら『地獄の黙示録』など名作戦争映画へのオマージュも感じられる作品になっていました。軍人のパッカードを演じたサミュエルさんはどのように役づくりしたのでしょうか?
サミュエル:ミリタリーアドバイザーといった人たちと話をしたね。それに、過去にも大尉や少佐とか、軍人を演じたことはあるから、リーダーシップをとるという彼らの義務を理解しているし、彼らが互いに忠誠を尽くすことも知っている。軍人たちは強さを誇示して、非常に困難な勝負に乗り出していくんだ。だから、とくに『地獄の黙示録』といった戦争映画を役づくりの参考にはしていない。それよりも、パッカードという役について考えたときに思い浮かんだのは、「白鯨」のエイハブ船長だった。(自分の片足を奪った)白鯨に復讐心を燃やす姿は、コングと対立するパッカードに近いと感じたね。
Q:トムさんは、コングを間近にしたときのエモーショナルな演技が素晴らしかったです。
トム:あそこは、僕の人生で最も巨大な生き物を目の前にしたときのことを思い出しながら演じたんだ。野生のね。一度、海でザトウクジラを近くで見たことがあって、とてつもなく勇ましい動物なんだよ。僕の理解できない知性も持ち合わせていてさ。その経験が、コングと出会ったとき人はどうなるかということを考えるのに役立った。
Q:サミュエルさんにとっては、コング相手の演技はへっちゃらでしたか?
サミュエル:まあ、楽勝だね。イマジネーション豊かだからさ。本もよく読むし、映画もよく観るし。人生でまねごとばっかりしてるからね。それも存在しないようなやつを相手にさ。それがヘルシーなことなのかはわからないがね(笑)。
恵まれていた若手監督
Q:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督は長編映画2本目にして、本作のメガホンを取ったわけですが、一緒に仕事をしてみてどうでしたか?
トム:どのステップにおいても僕たちは、互いに協力的だったと思う。ロバーツ監督は視覚的な面の想像力に富んでいたし、僕らは“完璧”を目指していた。もちろんどんなことも完璧にすることは不可能だけど、それに挑戦することはできる。だから僕らは、お互いに向けて「たかが永遠(It's only forever)」っていうフレーズを言い聞かせていたよ。
サミュエル:監督はとても恵まれていたと思うよ。ベテランから若手まで、バラエティーに富んだ俳優をそろえることができたし、僕ら俳優陣は与えられた仕事をよく理解していた。こういうタイプのモンスター映画で、人間のキャラクターが果たす役目というのをね。だから、人間だけで演技するときや、存在していないものを想像する演技でも、役者は正直でリアルなパフォーマンスをした。そこに後からモンスターたちが描き加えられることによって、いい作品ができるのさ。
映画ファンにはたまらない2大スターの顔合わせとなったが、トムもサミュエルも映画史で語り継がれるモンスター“キングコング”への絶対的なリスペクトをうかがわせていた。きっとこの映画に携わった全ての人が、そうだったのだろう。そう思わせるほどに、本編では“主人公”である巨神キングコングが勇ましく大暴れしている。本作を観たら、次なるゴジラとの対決にも期待せずにはいられない。
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『キングコング:髑髏島の巨神』は全国公開中