『美しい星』リリー・フランキー&亀梨和也インタビュー
ひと家族だけの物語なのになぜか壮大
三島由紀夫が1962年に発表した、突然宇宙人として覚醒する家族を描くSF小説を、映画『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』の吉田大八監督が、30年の想いをつぎ込んで映画化した『美しい星』。火星人の父親・重一郎に扮したリリー・フランキーと、水星人の長男・一雄に扮した亀梨和也が、吉田大八ワールドの作られ方について語り合った。
■亀梨和也の目力にびっくり
Q:初めて共演した感想を教えてください。
リリー・フランキー(以下、リリー):すごいなと思ったのが、亀梨くんの身のこなしの美しさ。現場でスタッフがスチールを撮っているんですけど、どの写真もバシーン! ってキマっているんです。「いつ撮られてもOK!」みたいなスター性がある。歌舞伎役者さんの身のこなしに通じる美しいお芝居だと思いました。あと、フリーターなのに「あ、こいつはただのフリーターじゃないな」という自我や自意識を空気で出してくれたので、情けないお父さんを演じやすかったです。子供たちが俺を見る目がものすごく冷たかったので。亀梨くんも橋本愛ちゃんも、目力ハンパないですからね。
亀梨和也(以下、亀梨):切れ長で(笑)。
リリー:俺とお母さん(中嶋朋子)の目力は弱々ですから。
亀梨:リリーさんは、皆さんが持たれているイメージそのままの空気感で、現場を圧倒的に支配するんです。「よし行くぞー!」って大声を出さなくても、リリーさん主導で空気が流れていく。こうしてお会いしてもそうなんですけど、リリーさんにしかなし得ないものがたくさんありました。
■火星人と水星人の役づくりに戸惑い
Q:ある日突然、宇宙人として覚醒するという設定もストーリーもかなり荒唐無稽です。脚本を読んで、それぞれの役をどう演じようと思いましたか?
亀梨:正直言って、「どういう感じになるのかな……?」という印象でした。一回読んだだけではこの作品の奥底にあるものをキャッチできなくて、役どころに関してもどう演じたらいいかわかりませんでした。いくら考えてもわからないので、メッセンジャーのシーンで必要な自転車の乗り方のように準備できるところは準備して、あとは現場で監督に身を委ねようと思いました。
リリー:事前に準備したことといえば、重一郎はお天気キャスターなので森田(正光)さんから天気図の見方を教えてもらって、監督から「痩せておいて」と言われたので食事に気をつけたくらい。宇宙人と言われた時点で、役づくりしようがなかったよね。
亀梨:できなかったです(笑)。
Q:重一郎は覚醒後、生放送のお天気コーナーで火星人のポーズを決めて注目の存在になっていきますが、練習はしましたか?
リリー:あれはなんでしょうね。知らないうちにやっていました(笑)。振り付けの先生から教えてもらったんですけど、その振り付けだけだと尺が埋まらなくなって。
亀梨:「好きに動いて」ってムチャ振りされていましたね(笑)。お父さんが屋上でUFOを呼ぶシーンとか、大変そうでした。4月だったので、まだまだ寒くて。
リリー:大八さんが「ちょっとUFO呼んでください」って延々と言うから、俺は一生懸命空に向かってUFOを呼んでいるのに、息子(亀梨)が「お前、何やっとんねん」みたいなシラけた目で見るんですよ。
亀梨:アハハ(笑)。
■監督のリアリティーを役者として体現する
Q:脚本を読んで、とくに想像がつかなかったシーンはありますか?
亀梨:(佐々木)蔵之介さんとのシーンはどうなるんだろうと思いました。政治家の秘書であり宇宙人でもある黒木を蔵之介さんがどう演じるのかが、全然想像がつかなくて。
リリー:僕らは宇宙人なのかどうか曖昧な部分があるけれど、黒木は明快に宇宙人でした。僕が屋上でUFOを呼んで血を吐いたとき、蔵之介さんが「……救急車」って言うんだけど、「いやいやそれ、宇宙人のトーンじゃないでしょ!」っていう(笑)。
亀梨:現場で監督が「ここで『救急車』って言ってください」って言ったら、蔵之介さんも「え? 救急車?」ってキョトンとしてました(笑)。
リリー:あれは、監督が好きな「デビルマン」で、デビルマンが「……救急車」って言うセリフへのオマージュらしい。そんなのはもう俺らにはわからない領域だから、大八さんのやりたいようにやろうっていうスタンスでした。監督から「こうしてください」と言われても謎なところがいっぱいあったでしょ。
亀梨:はい。だからといって「どうしてそうなるのか」と質問するようなことでもないので、「こうして」と言われたらとにかくやってみるという感じでした。
リリー:この映画には大八さんの好きなものがてんこ盛りに詰め込まれている。大八さんにしかわからないし、大八さんの中で完結しているから、僕らが思うリアリティーとかは関係ないんだよね。ラストシーンはちょっと涙が出てきたんですけど、大八さんから「泣かずに淡々と見ていてください」って言われたのもそうですし。大八さんのリアリティーを僕らが体現するまで、何テイクでもやりました。一発OKはまずない。
亀梨:だいたい7~8テイクはやりましたね。
リリー:だから「あ。この現場、一生終わらないのかも」って思う日も何回かあった(笑)。
亀梨:たしかに(笑)。セリフを「あいうえお」に例えると、「“う”と“え”の間がちょっと違う」と言われ、やり直したら「今度はちょっと長すぎ」みたいに細かい修正でした。視線を動かすタイミングの微妙な違いとか。
リリー:俺も、いつもだったら自分なりに語尾を変えたりするけど、今回は一切アレンジをしませんでした。
亀梨:監督の中では明確にイメージがあったんだと思います。
リリー:大八さんは当事者を絶対に褒めないし、それだけやり直しをさせておきながら、僕には「亀梨くんいいよねー」って言うんです。だから現場で謎は解けないし、俺らは一生帰れる気がしない(笑)。
■近所にも宇宙人が!?世界の見え方が変わる作品
Q:大杉一家のそれぞれの生活を撮っていて、スタッフの間で「毎日別の映画を撮っているみたい」という声もあったそうです。出来上がった作品を観て、どう思いましたか?
リリー:一本に繋いで完成したものを観ると、びっくりしました。すごくかっこいい映画になっていました。あんまり観たことがない“外タレ感”(外国人タレントっぽさ)がある。
亀梨:外タレ感(笑)。あまり経験したことがないリズム感、映像や音楽の圧力がありましたね。試されているわけじゃないけど、日によって捉える角度や感じ方、持ち帰るものが違う作品なのかなって気がしました。
リリー:新しいよね。すごくいい作品に参加させてもらったなと思いました。
亀梨:ミステリーやサスペンスのように、観客を驚かせるトリックや仕掛けはしていないのに、そういう映画を観ているときのように、異常に心拍数が上がりました。理由はわかんないんですけど。
リリー:いろいろな要素が詰まっているんだけど、俺はこの映画を観たときに、家族の物語だと思ったんですよね。「お茶の間SF」というか。現場でこの4人家族が一緒になるシーンは少なかったんですけど、それでもお芝居の中で家族っぽくいられました。ちょっと距離がある感じが逆にリアルだった。
亀梨:ひと家族だけの話なのに、なぜかすごく壮大なんですよね。
リリー:大八さんは原作の要素を現代に合わせて改変しているんだけど、お母さんを地球人にしたのが大正解で(原作では木星人)。変な言動をしだす俺らに、お母さんが「金星人でも水星人でもそういうところはちゃんとしなきゃ!」と言うあたり、オカンの宇宙のデカさを感じるんだよね。
亀梨:そのお母さんは水のネットワークビジネスにハマるっていう(笑)。お父さんが火星人、僕は水星人、妹が金星人、お母さんが地球人という振り分けについてなんの説明もないのに、家の中でのポジションやキャラクターが星を通してクリアに見えるのは不思議な感覚でした。
リリー:ものすごく練られた脚本だよね。それでいて客観的に見たら、この家族は相当イカれてる。
亀梨:たしかに(笑)!
リリー:近所の「あそこヤバイな」っていう電波系の家族はもしかしたら宇宙人かもしれない。
亀梨:それくらい、世界の見え方が変わる映画だと思います。
■取材後記
亀梨が待つインタビュールームに入って来たリリーは、亀梨の顔を見るなり「ドラマの撮影中? 明らかに顔に出てるね」と声をかける。亀梨は(この人にはかなわないなあ)という降参モードで苦笑い。そして、インタビュー中はリリーの発言に大笑い。ベテランスタッフが「これまでで一番しんどい」と弱音を吐いたほど過酷な吉田組をともに乗り切った二人がこの作品でどう覚醒しているのか注目だ。(取材・文:須永貴子)
映画『美しい星』は5月26日より全国公開
(C) 2017「美しい星」製作委員会