『3月のライオン 後編』神木隆之介&伊勢谷友介 単独インタビュー
キャラクターの痛みと自分がつながる
取材・文:浅見祥子 写真:高野広美
羽海野チカが構築したほんわか優しく、それでいて鋭さも備えた物語を、『るろうに剣心』シリーズの大友啓史監督が二部作として実写映画化した『3月のライオン』。前編の公開から1か月、ついに後編が公開される。「そこにしか生きる場所がないから」と将棋に打ち込む孤独なプロ棋士の桐山零を演じた神木隆之介と、零にこたつのように温かい居場所をもたらす川本3姉妹の、ワケありな父を演じた伊勢谷友介。二人が撮影を振り返った。
共演が続く神木×伊勢谷
Q:同じ大友監督の映画『るろうに剣心』シリーズ、そして別監督ですが『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』と共演が続きます。お芝居をする相手としての印象は?
伊勢谷友介(以下、伊勢谷):答えづらいよね!(笑)
神木隆之介(以下、神木):おこがましいですが、本当に助けていただきました。「どこかやりづらいとこなかった?」「もっと挑発したほうがいい?」といろいろ気遣っていただいて。一緒にいさせていただいて、あらためて優しくてまさに兄貴肌の方だなと。『るろ剣』では敵同士の役で、僕は伊勢谷さんが出てくる前に倒されてしまうので、舞台あいさつくらいしかご一緒してないんです。でも今回はしっかりお芝居をさせていただいて……(隣の伊勢谷に)お世話になりました!
Q:伊勢谷さん演じる誠二郎は後編から登場します。クランクインしたときの神木さんの印象は?
伊勢谷:自分がなにをすべきかわかっていて迷いがなかったです。ひょうひょうとやっていて、「お芝居はどんなテンションだろう?」と思ったのですが、現場より本編を観たときに、全体を通して筋が通っていてすごいなあと。
Q:誠二郎はご自身よりかなり年上なのでしょうか?
伊勢谷:どうなんですかね? 倉科(カナ)さん演じる長女も、原作ではもう少し若い設定で。
神木:そうですね、少しだけ年上かもしれません。
伊勢谷:家族の中での雰囲気や関係性が謎でしたよね、むちゃくちゃな親くらいの想像しかつかなくて、「どう演じようかな?」と。あの3姉妹も父親に捨てられたわりにつらい過去を感じさせないように生きていたりするし……と考えていきました。でもやっぱりこの人、よくわからないなと。よくわからないから嫌で、ちょっと整理がつかない感じが気持ち悪い。それをそのまま演じてみました。
『桐島』が3割、男気が7割の走り方
伊勢谷:桐山くんの走り方はなぜああなったの?
神木:走り方は考えました! 僕、『桐島』のときに……。
伊勢谷:『(桐島、)部活やめるってよ』?
神木:はい! 廊下を爆走するシーンがあって。そのときに手を横振りにして、女の子走りにしたんです。テーマを「女の子走りで速い!」ということにして。今回も同じく眼鏡をかけているので、下手をすると外見が『桐島』とかぶる可能性があるわけです。でも別の人間ですから絶対かぶっちゃいけない。
伊勢谷:確かにかぶり気味かもね(笑)。
神木:ただ風貌的に共通する部分があるので、走り方も同じにしたくなくて。零の場合は不器用さで、たまに手が横振りになるんです。でも彼には男気があるから、真っすぐ向かいたいという想いが強い。そこでときどき横振りになるのと、「前に行く!」という姿勢を混ぜました。少しナヨナヨした雰囲気もあるけど、きちんと前へ行こうとしている姿勢を見せたいなと思って、走るのが下手くそではないようにしました。走り方にはとても気を付けました。
伊勢谷:なるほどね~。どこか意地悪されそうな奴でもあるよね。猪突猛進で、それでいて運動神経がそんなによくなさそうな動きで。そこがすごくよかったんだよ。
神木:うれしいです!
対局シーンはまさに会話
Q:誠二郎は劇中で将棋を指しませんが、対局シーンを観た感想は?
伊勢谷:普通のアクションならあそこは闘っているところですよね。将棋だと怒りのぶつかり合いを見せずに、強い感情を内包させる。けどその一手に棋士の意地が見えたりする。だから実際の殴り合いより、「いまどんな戦況か?」って読み取ろうとする感覚が生まれるのが面白くて。後編は人間ドラマが濃くなっていくのでまた違いますが、特に前編はそれぞれの棋士が指す雰囲気を丁寧に撮っていて。すごく面白かった。
神木:対局シーンは大変でした、まず正座が厳しかったです(笑)。精神力や体力が削られ、運動後の疲れとは異なる芯からの疲れがあって。
伊勢谷:脳が疲れる感じ?
神木:対局シーンでは実際に考えていたんです。プロの方に、対局の一手一手には意味があることを教えていただきました。相手は十数手先でこうしたいからこう指した。だからそれを防ぐためにここに指す……と。将棋は、最初は相手がどう戦ってくるのか? 出方を見ないといけなくて、中盤も定石をくみつつ、盤上で相手とコミュニケーションを取らなければならない。これは会話だなと。例えば歩の動かし方一つでも、「あなたはどんな囲い方をしますか?」という意味の質問になったりする。相手がそれに答えない場合も、「それではわたしはこうしますよ」という答えだったりする。一手一手が質問であり、答えになるんです。あと駆け引きもあります。「わたしは攻めていきます。あなたは?」という挑戦状の一手を受けるのか、かわすのか。かわしたら今度は「かわしてきましたか」と無言の中にも、盤を通して会話しているんです。
伊勢谷:それを芝居に出したくなったりしないの?
神木:少しは出ていると思います、少し相手を見てみたり。
伊勢谷:そのあたり、とても丁寧にやっている感じがしたよ。
神木:一手一手に15分20分ずっとカメラが回っていたんです。監督もスタッフさん全員も待っていてくださって。僕らは手を読む過程を省かずに、きちんと考えに考えていました。「あ!」と気づいて焦り、「どうしよう!?」と混乱し、先を何通りも読みながら目が盤上をあちこち動く。それで気持ちの整理がついてようやく指す。それを毎回していました。
伊勢谷:大変だ……。
神木:もちろん編集でカットされたりもしているのですが、だからこそ生々しさが残っていますし、演じる上では毎回大変でした。
伊勢谷:ほぼ会話はなく、芝居だけでしょう。戦況がどうなっているかは盤面でしかわからないから、将棋を知らない人だと、この一手はどっちに有利に働くのか、わからないのがまたいい。指した方になんらかの確信があるのか? と読み込みたくなる。そこがアクションで見せる闘いとは違う醍醐味がありました。
誰もが苦しみながら闘いながら生きているから面白い
Q:後編を観た感想は?
伊勢谷:ずっしり重かったです。登場人物それぞれの人生について、前編から引っ張ってきて後編でいろいろなことがわかり、そのすべてがくるから。誰もがどこかで苦しみながら闘いながら生きている。有村(架純)さん演じる香子や僕が演じた誠二郎さんもそうだけど、あまりに自己愛が強くてその結果、自分を傷つけている系の人たちが全体をむちゃくちゃにしていますよね。でも、そういう人たちがもたらすドラマもあるから、ずっしりとくる。すごく好きだと思ったのは、キャラクターたちがどこを歩いていて、どこに向かおうとしているかが描かれていること。みんなが幸せな方向へ行くわけじゃないんだけれども……それぞれの心が寄っていくというか。最初は嫌いだと思った奴もピュアなところが見えてきたりして、嫌いなだけでは終わらせない。そこが心地よくて。映画を観ながら、必ず登場人物の誰かに自分の人生を投影できると思うんです。それでいて、それぞれの痛みに自分自身の中にもある痛みの片りんを感じながら観られる。そうしたことを詳細に説明しているわけでもないのがまたすごい。
神木:僕自身は後編を観ていて、おみそ汁を飲んだあとのような気持ちになりました。前編の緊張感や観ながら感じた心苦しさみたいなものが、ゆっくりとほどけていくようで。誰もが一人でがんばらなければという思いをどこかで抱えています。生きていくのは大変な世の中で、みんながいろいろなところで闘っていますが、きちんと背中を支えてくれる人はいるんだよという温かさを感じました。もしかして顔を上げたら、自分の周りにも「大丈夫だよ」と言ってくれる人がいる、そんなことを再認識できる映画だと思います。
“対談”であっても人見知り気味の役者同士だったりすると、インタビュアーが二人それぞれに質問を投げて答えが返ってくる、1対2のような会話になることが多い。けれど今回は正真正銘の対談。オープンに率直に言葉を投げる伊勢谷と、年長者である彼へ最大限に敬意を払いつつ、ニコニコしながら主演として駆け抜けた日々を饒舌に語る神木。そのやりとりは撮影現場で誠実に役柄と100%格闘した者同士が、それを無事に終え、完成した作品に確かな手応えを感じているからこその充実感に満ちていた。
(C) 2017 映画「3月のライオン」製作委員会
映画『3月のライオン 後編』は4月22日より全国公開