『家族はつらいよ2』妻夫木聡&蒼井優 単独インタビュー
「ただいま」のシーンがなぜか多い
取材・文:高山亜紀 写真:高野広美
熟年離婚の危機を乗り越えた、あの平田家にまたもや騒動が勃発!? 国民的映画『男はつらいよ』シリーズの山田洋次監督が満を持して手掛けた喜劇映画の決定版、その第二弾『家族はつらいよ2』。前作では恋人同士だった次男・庄太と憲子が今回は晴れて夫婦となり、再びトラブルに巻き込まれていく。前作に続き、本作でも息の合った演技を見せたのは妻夫木聡と蒼井優。「もはや家族同然」という特別な撮影現場の独特な舞台裏を明かす。
感動に飽きた人におすすめしたい!?
Q:前作のインタビューでは「結婚させてもらえないかも」と話していた庄太と憲子ですが、今回、結婚していましたね。脚本を読んで、どう思いましたか。
妻夫木聡(以下、妻夫木):2があること自体すごくうれしいことですし、なんか山田監督がどんどん活気に満ち溢れている感じが脚本の段階からすでに伝わってきました。今回は「吹っ切って、喜劇をいっぱいやろう」という空気がいっぱい感じられてうれしかったです。現場でもいろんなアイデアが生まれて、楽しかったですね。
蒼井優(以下、蒼井):私も、山田監督がこのメンバーでまた挑戦したい、作品を作りたいと思ってくださったことが何よりもまず、うれしいです。庄太さんとの結婚に関しては、割とさっさと結婚したなという印象がありましたけど(笑)。
妻夫木:そうだね(笑)。
蒼井:前回より台本の笑いに対する自由度がアップしたなという感じがあると思いました。「おっ、そこまでやってみます?」という感じ。この笑いの追求の仕方というのは山田監督ならではの大胆さだなということも感じました。山田組だからこそ作れる笑い。山田監督がおっしゃっていてなるほどと思ったのは、やりはしないですけど、「今回は『感動に飽きた方はこちらへ!』というポスターを作りたい」っておっしゃっていたんです。
妻夫木:山田監督、やっぱり最高だね! 面白い。
蒼井:「感動も何もないですから」という理由らしいんですが、山田監督のそういう劇場の空気、お客さんのテンションなどを感じ取る嗅覚の鋭さって面白いですよね。だからこういう作品が作れるんだなって思いました。
Q:せっかく新婚さんなのに、いちゃいちゃしないのは残念でした。
蒼井:そんなシーン入っていても楽しくないですよ。この家族はもめていないと(笑)。
Q:二人の会話に親との同居や介護の話題が入ってきて、結婚というものを考えさせられましたが、この作品を通じて結婚に関して改めて思ったことはありますか。
妻夫木:二人はまだ新婚で、夫婦の新人、家族の新人みたいなところがあるんです。一家の他の方々は熟しきっていますからね(笑)。その中にぽんと入っていくと、どこか和む感じはありますね。やっぱり僕たちは前作と一緒で、まだ緩衝材のような役割になっている。かといってそれだけじゃなく、僕たちの中の現実感みたいなものが垣間見える瞬間もある。電車の踏み切りのところやホームのシーンだとか。新しい家族がまたひとつ生まれた匂いが、なんだか甘酸っぱいもぎたての果実を食べているような感じで僕は好きでした。もう一人新たな家族が増えてきそうな予感を抱かせるのもいいですよね。なんでも最初はいいものですよ。付き合いたてとか結婚したて、子どもの生まれたて……。だんだんと熟成していって味が出てくるのもいいけど、やっぱりその新鮮さというのは人間にとって、大事な刺激になると思います。
もしも庄太・憲子夫婦に子どもが生まれたら……
Q:「緩衝材」という意味では妻夫木さんと蒼井さんの立ち位置は特別な感じがします。
妻夫木:みんながみんな、普通に家族だと思ってやっているところがあります。僕はその中の次男というノリで現場にいるだけです。緩衝材であるなら僕らはどういう風にあるべきなのか。そんなことを考えなくてもすっと玄関から「ただいま」と家族のなかに入っていける感じがありますね。そういえば「よーい、スタート」がかかる前に玄関前に僕たち二人で待っていることが多いんです。僕らの「ただいま」から入るシーンがなぜか多いんですよ(笑)。
蒼井:そうそう。あるある(笑)。
妻夫木:二人で待っているんですけどその直前までしゃべっていて、いきなり入っていってもちゃんと登場人物になれる感覚がある。セットだとかスタッフに助けられてはいるんですけど、そういう意味ではキャストを含めすべてができあがっているんですよね。
Q:今後の展開があれば、二人に子どもが生まれるんでしょうね。
蒼井:え~そんなことあるんでしょうか(笑)。
妻夫木:僕はその感じ見たいですけどね。新しい家族が一人増えて僕らよりもさらなる緩衝材になる。孫なんてもう絶対的な存在じゃないですか。
蒼井:子どもが生まれたりしたら今度は庄太までどたばたし始めるってことになるんじゃないかな。緩衝材からみんなの仲間入りですよ。
妻夫木:ちょっと怖いのは撮影が大変だということですね。
蒼井:山田監督は犬にも怒るくらいだけど赤ちゃんはどうだろう。「なんだ、その泣き方は!」ってダメ出ししそう(笑)。
妻夫木:「もっとこうだよ」「まだ歩けないのか」とか言いかねないね。撮影中の山田監督は怖いですから(笑)。
Q:前回は犬にもダメ出しされたそうですね。
妻夫木:その犬が今回いなくなっていたんですよ! あれにはびっくりしたよね。
蒼井:死んじゃった設定なのかもしれないですね(笑)。小鳥に代わってましたね。撮影を邪魔しないのはやっぱり鳥だってことになったんでしょう。
すでに第3弾の案を検討中
Q:今後シリーズはどれくらいまで続けたいですか。
妻夫木:できるかぎり続けられたらうれしいですけど。
蒼井:やれたらいいなと思いますね。もうみんなで休憩時間とかに「今後はこういうことでもめたらいいんじゃないか」って話し合ってるんです。
妻夫木:山田監督からも「次のネタ何かないのか」っていつも聞かれてるしね。
Q:前回の「熟年離婚」は蒼井さんの知り合いの女性の話で、今回の「お棺」のシーンも蒼井さんが提供したエピソードだそうですね。
蒼井:すごいプレッシャーをかけられています。私脚本家じゃないですから(笑)。たまたま2回続いただけで、3作目どうなるのか私も楽しみなんです。この前みんなで話していて、「お父さんお母さんを二階に住ませているのはどうなんだろう」ということになったんですよ。
妻夫木:だから今度もめるとしたら「リノベーション」がテーマかもしれません(笑)。
蒼井:みんなで話しているとそれぞれ個人個人が役者ではあるんだけど、常に役がそばにある感じなんですよ。役同士のまま話しているような感覚。例えば(長男の嫁役)夏川(結衣)さんと話していても「お父さん、お母さんを一階に住まわせるとしても、庄太さんならこう言うんじゃない?」とかどんどん話が広がっていく。もう役が自分たちのなかにしっかり根っこを張っているような感覚があるんです。
山田洋次監督が「感じがいい」とべた褒めする妻夫木聡と蒼井優の二人。微笑ましく爽やかな佇まいは本作に登場する庄太・憲子そのものだ。それでいて「もう36歳だよ……」とぼやく妻夫木と、「全然見えないから大丈夫」となだめる蒼井の間には長年連れ添った夫婦のような「あ・うんの呼吸」すら感じられる。今後、シリーズが続いたとして庄太・憲子夫婦に子どもは生まれるのだろうか。気が早すぎるかもしれないが、楽しみになってきた。
【妻夫木聡】ヘアメイク:勇見勝彦(THYMON Inc.) スタイリスト:望月唯(SUN'S&RAINBOW)
【蒼井優】ヘアメイク:石川智恵 スタイリスト:森上摂子(白山事務所)
『家族はつらいよ2』は5月27日より全国公開