ダブルケア状態!? 6月の5つ星映画5作品はこれだ!
今月の5つ星
ヒュー・ジャックマンによるウルヴァリン最後の雄姿を描いた『LOGAN/ローガン』がついに公開! 授賞式のボイコットで世界的に注目されたオスカー受賞作のほか、実話を映画化したメル・ギブソン監督作、父が別人になって娘の前に現れるコメディードラマ、邦画からはW不倫の3年後を描いた『昼顔』をピックアップ。これが6月の5つ星映画5作品だ!
ウルヴァリンじゃなくてあえてローガンという本気
『X-MEN』シリーズのウルヴァリンことローガンが、ミュータントの未来をかけた「最後」の死闘を繰り広げる。見どころはお決まりのアクション……ではなく、“ミュータント性”に焦点を当てた人物描写。髪は白髪交じりで顔はシミとシワだらけ、足を引きずり咳き込む姿に、不死身でマッチョなウルヴァリンの面影はない。その上、老いたプロフェッサーXの世話をしながら、見知らぬ少女ローラを守るという、まさに親の介護をしながら子育てをする「ダブルケア」状態。その現実感たるや、世の中高年が心底共感するほどの疲労感が漂っている。この設定だけで、今までとは全く違う作風になっていることがわかるだろうが、その本気度はタイトルにも表れている。なにしろ、ウルヴァリンじゃなくてローガンなのだから。一人の男としての悲哀や葛藤がリアルに描写され、切なすぎる男の生きざまに涙する。まさに“泣けるマーベル作品”。ヒュー・ジャックマン最後のウルヴァリンにふさわしい仕上がりだ。(編集部・香取亜希)
映画『LOGAN/ローガン』は6月1日より公開中
衝撃のラストへ…紗和と裕一郎の運命は?
『昼顔』
社会的ブームを巻き起こした連続ドラマから3年。不倫が周囲にバレ、あれだけ大騒ぎになった末に、もう会わないことを選んだ紗和(上戸彩)と裕一郎(斎藤工)。そんな二人が再会って! とつっこみたくなる気もしないではないが、やっぱり気になっちゃう二人のその後。完結編となる劇場版では登場人物が絞られ、紗和と裕一郎、そしてその妻・乃里子(伊藤歩)の3人にフォーカス。妻と離婚はせず、大学の非常勤講師となった裕一郎が、紗和が一人で暮らす町に偶然、講演でやって来たことから物語は展開する。ドラマで普通の主婦が不倫に溺れていくさまを演じ新たな顔を見せた上戸が、本作ではすべてを失い、くたびれやつれた、不倫のその先を体現し、さらなる新境地を見せている。物語も初めに抱いた違和感など忘れさせて、想像もしていなかった衝撃のクライマックスへと進んでいく。ドラマ同様、賛否を呼びそうな結末だが、二人の運命がドンと胸に残る。(編集部・中山雄一朗)
映画『昼顔』は6月10日より公開
突然訪れた平穏の崩壊…夫婦はどこへ向かうのか
『セールスマン』
今年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞したイランとフランスの合作サスペンスドラマ。誰にでも起こり得る平穏な日々の崩壊に焦点を当てている。夫婦の日常の中に入ったカメラは彼らの事件、変化を克明に映し出し、ストーリーの中に観客を引きずり込んでいく。夫は次にどんな行動に出てしまうのか、妻は何を思っているのか。爆発などの派手なアクションはないのに緊迫感に包まれる。やがて深みの底にあった思わぬ結末を迎えて静寂が訪れるこの映画は、小さな音を立てて消え、暗い影が心に残る……。ドナルド・トランプ大統領への抗議でアカデミー賞授賞式をボイコットしたイランの名匠アスガー・ファルハディの脚本・監督作で、同監督の過去作『彼女が消えた浜辺』でも共演している夫婦役のシャハブ・ホセイニとタラネ・アリシュスティの熱演もすごい。(編集部・海江田宗)
映画『セールスマン』は6月10日より公開
自分なら? 芯の強さが心に刺さる
『ハクソー・リッジ』
『ブレイブハート』のオスカーしかり、監督としても高い評価を受けるメル・ギブソンによる戦争ドラマ。米軍が“ハクソー・リッジ”(のこぎりのように険しい崖)と呼んだ第2次世界大戦の激戦地(沖縄の前田高地)で、武器を持たない衛生兵がたった一人で75人の負傷兵を助け出した実話だ。最も心に刺さるのは、同じ隊の同僚や上官にひどい嫌がらせをされても、「武器を持たない」という信念を決して曲げない&負けない主人公デズモンド(アンドリュー・ガーフィールド)の芯の強さ。理不尽な2択を突き付けられ、決心を試されても、意志を貫くデズモンドの姿に「彼のように一度決めたことをやり遂げることができるのか?」という自問が湧き上がると共に目頭が熱くなる。そして、一瞬で奪われる命の現場で、重傷を負った仲間を自力で救い出し、敵兵であっても治療しようとするデズモンドが実在の人物であるという事実が琴線に触れる。戦場の場面は目を覆いたくなる凄まじい映像で、ここまでして戦争をしなければならない理由や戦争自体について考えさせられる。(編集部・小松芙未)
映画『ハクソー・リッジ』は6月24日より公開
不器用だからこそ、たまらなく愛しい親子の形
果たして、いつの間に親に“ぎこちなさ”を抱くようになってしまったのだろう? 本作は、大人になるにつれ、愛情だけではつながれなくなる「親子」という愛しくも厄介な関係を見つめた作品だ。仕事に追われる子供のもとを親が訪問し、その微妙な距離感やすれ違いが表面化していく前半は『東京物語』(小津安二郎監督)を彷彿させるが、別れの後にトニ・エルドマンという別人になり切って娘の前に再び現れる父のユニークなキャラクターが本作を唯一無二のものにした。生活をかき乱す父に娘はイライラをつのらせるようになるが、ひたすら娘を心配し、その思いを突飛な行動でしか表現できない父の姿は不器用だからこそたまらなく愛しい。ともすればお涙頂戴になりそうなストーリーだが悲喜劇としたのが大正解で、シリアスからおかしみを生み出し、その中に哀しみやわびしさを丁寧に織り込んでいる。ハリウッドリメイクも決定し、そちらの主演は本作にほれ込んだ名優ジャック・ニコルソン! しかし、ユーモラスなタッチが肝なだけにリメイク版に一抹の不安も。それほどマーレン・アデ監督(『恋愛社会学のススメ』)のオリジナリティーに夢中になってしまう一本だ。(編集部・吉田唯)
映画『ありがとう、トニ・エルドマン』は6月24日より公開