永遠のスタイルを生み出した「ココ・シャネル」女性に与えた6つの自由【映画に見る憧れのブランド~第1回シャネル】
映画に見る憧れのブランド
憧れといわれるハイブランドは、なぜ人々の「憧れの的」になったのでしょう。そこには長い時間を掛けたブランドのマーケティングはもちろんですが、創始者の考えを踏襲するデザイナーたちの確固としたブランドポリシー、そしてそのブランドを身に着ける人たちの品格など、さまざまな要素が絡み合って積み重なった結果でもあります。その要素とはなんなのでしょう。映画で表現されてきたハイブランドとともに憧れのハイブランドの本質に迫っていきたいと思います。第1回は、シャネルです。
こんにちは、映画で美活する映画美容ライターの此花さくやです。シャネルが女性の洋服からコルセットをなくした、とよく言われますが、コルセットを女性から取り去ったのは、実は、ポール・ポワレという男性デザイナー。当時はシャネルよりも人気があり、ファッション史では“ファッションの王様”と呼ばれています。
でも、彼の名前はシャネルほど伝説ではありませんよね? なぜ、シャネルは今でも愛され続けているのでしょうか? 今回は、シャネルが女性に与えた6つの自由を紐解きながら、彼女のスタイルがなぜ永遠に愛されるのかを、シャネルにまつわる映画とともに探っていきたいと思います。
1:締め付けられた女性の肉体を解放した、ジャージー
1914年に勃発した第一次世界大戦。ヨーロッパでは出征した男性の代わりに女性たちが、バスの運転手から工場員まで、さまざまな労働に従事するように。この時代に女性が着ていたタイトなシルエット、高いウエストライン、足首に届く長いスカート、装飾過剰な洋服は女性にとって、とても窮屈なもの。
そんな女性のニーズを見抜いたシャネルは、なんと、男性の下着として使われていたジャージー素材に目をつけたのです! その模様は、映画『ココ・シャネル』で若き日のシャネルを演じたバルボラ・ボブローヴァが生き生きと演じています。ドーヴィルのリゾート地でボーダーT、マリンハット、ジャージー素材の洋服をまとった労働者からインスパイアされたシャネルは、早速彼らの洋服を買いとって女性用に改良します。そして、叔母のアドリエンヌと一緒にその服を着て街を練り歩き、女性たちの反応をテストするのです。
ジャージー素材で作ったゆったりとしたウエストのジャケットにふくらはぎ丈のスカートは、身体に沿ってやわらかく動き、女性たちの心を見事にキャッチ。こうして、シャネルは瞬く間に人気デザイナーになりました。
2:スカートから女性を自由にした、パジャマルック
数年ほど前から海外セレブの間で人気のパジャマルック。でも、パジャマがファッションとして登場したのは100年近くも前だってご存知でしたか? 当時パジャマは男性だけのもの。女性がパンツをはくことはタブーだったので、ネグリジェのような寝巻きを着ていました。ところが、1918年頃にシャネルは、部屋だけではなくビーチや街にも着ていけるパジャマルックを提案して、周囲を驚かせました。これをきっかけに、女性のパンツスタイルが世の中に受け入れらるように!
映画『ココ・アヴァン・シャネル』では、アレッサンドロ ・ニヴォラ演じるボーイ・カペルがシャネルの家から去ろうかというときに、彼女はパジャマのままベッドから飛び出しカペルの車に乗り込みます。「その格好で出かけるの?」とボーイはびっくり! オドレイ・トトゥが表現するシャネルは可愛らしくていじらしい、ほかにはない斬新なシャネル像です。
3:全ての女性に香水を、シャネルNo.5
1920年以前の香水は、花の原料だけで作られ、単一の花の香りしかしないものでした。大量の花を消費して作られた香水はとても高価。この当時、香水を買えるのは貴婦人か娼婦のどちらかだったそう。
しかも、香りがすぐに飛んでしまうという欠点が。
アナ・ムグラリスがシャネルを演じる『シャネル&ストラヴィンスキー』では、「モダンで大胆な香りを科学的にブレンドした香水」「つけているうちに変化する複雑な香り」「シャネル独自の香り」というアイデアにとりつかれたシャネルが、過去にロシア宮廷の調香師だったエルネスト・ボーに依頼して、なんどもなんども試作を重ねます。
そして、1921年に出来上がったのが「シャネルNo.5」。さまざまな花の原料に化学合成品を加えることによって大量生産が可能になった香水は、階級を超えて全ての女性のものになったのです。
4:階級の垣根を取り去った、リトルブラックドレスとコスチュームジュエリー
カジュアルにもフォーマルにも装えるリトルブラックドレス。現代の女性の定番スタイルですが、このスタイルを一般に普及させたのもシャネル。当時、ドレスといえば刺繍やレースがついた華美なデザインばかり。シンプルで、しかも使用人の制服や喪服にしか使われない黒い色のドレスなんて、ありえないデザインでした。映画『ココ・アヴァン・シャネル』でボーイ・カペルとシャネルがダンスに興じるシーンがありますが、周りの女性が羽根とフリルでひらひらとしたドレスを身にまとうなか、シャネルだけがリトルブラックドレス。女性たちがドレスの裾をつまんで踊っているなか、シャネルがひとり、ドレスから足首を出し軽やかに舞っているのが印象的。まさに女性を自由にしたドレスでしょう! その上、リトルブラックドレスはシンプルなデザインだったからこそ、コピー化が可能になり、誰でもシャネル風のリトルブラックドレスを買えるように。
「コピーされることは賞賛と愛をうけとること」ココ・シャネル
シャネルはコピーされることを容認していました。ファッションは特権階級だけのものではないと信じていたのです。ほかにも、シャネルがファッションを全ての女性に広めたアイテムがあります。
「コスチュームジュエリーはとても反抗的で刺激的。これみよがしな下品なダイヤモンドを破壊するものとして、コスチュームジュエリーを作ったの」ココ・シャネル
この時代、アクセサリーは本物の宝石しか使われていませんでしたが、富を見せびらかすかのように宝石で飾りたてた女性がシャネルは大嫌いでした。イミテーションの宝石やパールがあしらわれたコスチュームジュエリーも、階級を超えて全ての女性が楽しめるファッションになったのです! 『ココ・アヴァン・シャネル』や『シャネル&ストラヴィンスキー』でもシャネルがパールのネックレスを幾重にも巻いていますが、イミテーションと本物を重ねづけて上流社会の女性を煙に巻くのがシャネルは好きだったそう。
5:女性の両手を自由にした、シャネルバッグ
シャネルバッグというと、チェーンストラップがついたショルダーバッグ、“マトラッセ”を思い浮かべる人も多いと思います。『ココ・シャネル』で往年のシャネルを演じたシャーリー・マクレーンが、シャネルバッグを肩にひっさげて街を颯爽と歩くシーンがありますよね。マトラッセは1955年2月に本格的な販売が始まりましたが、その原型となるものは既に1929年に登場していました。
当時、女性用のバッグは手に持つクラッチタイプ。そこにチェーンをつけることでシャネルは、女性の両手を自由にしたのです。機能美を備えているからこそ、シャネルバッグは真のラグジュアリーなのです。
「わたしは常に自問自答しながら自分の着たい服を作ってきた」とテレビのインタビューで語ったシャネル。そんなシャネルの貴重なインタビュー映像がたっぷりと盛り込まれたドキュメンタリー映画『シャネル シャネル』は必見!
6:女性の社会進出を後押しした、シャネルスーツ
第一次世界大戦で変わり行く女性のライフスタイルに素早く応えて大成功したシャネル。しかしその後時代は、シャネルが追求した機能美よりも、外見重視のアバンギャルドなスタイルを求めるようになりました。そんな時代に絶望したのか、シャネルは第二次世界大戦勃発と同時にパリのカンボン通りにある本店を畳み、終戦後にスイスへ亡命。しばらく隠遁生活を送っていましたが、あることをきっかけにカムバックを決意します。それは、1947年に巻き起こったクリスチャン・ディオールのニュールック旋風。男性デザイナーがリバイバルさせたふくらんだスカートやコルセットは、かつてシャネル自身が闇に葬ったスタイルだったのです!
1954年、71歳のシャネルはカンボン通りの店でカムバックコレクションを発表。このカムバックコレクションのシーンから始まる映画『ココ・シャネル』は、シャネル役のシャーリー・マクレーンが過去を回想していくストーリー。このコレクションのなかでは、ジャージーを使ったダークカラーのシャネルスーツが注目を浴びました。なぜなら、直線的なカットで動きやすく作られたスタイルは、ニュールックに真正面から挑戦するものだったから! ところが、マスコミの反響は……「憂鬱の回想」「1930年代の亡霊」「まるで葬式みたい」と散々。フランスでもイギリスでも不評の嵐でしたが、アメリカからはラブコールが寄せられたのです。
「シャネルがもたらしたのはモード以上のもの、革命である」と、アメリカのライフ誌は大絶賛! そして、アメリカのヴォーグ誌やハーパーズバザー誌もシャネルの特集ページを続々と組み始めました。アメリカでは社会進出を果たした女性がオフィスにもパーティーにも着られるシックな洋服を求めていたのです。シャネルスーツはアメリカで大ヒットし、たくさんのコピー商品が世界中で作られました。こうして、シャネル風スーツはオフィスで働く女性の定番スタイルになりました。
ちなみに、シャネル風スーツを世界中に広めた要因の一つとして、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件があると言われています。ケネディ大統領が銃で撃たれたシーンは何度も何度もテレビで放映され、そのたびに傍らにいた夫人のジャッキーが着ていたピンクのシャネルスーツが、世界中の人々の目に焼きついてしまったのです。なんとも皮肉な話ですよね。
着心地がよく動きやすくて、シンプルでシックな女性のためのファッション~このシャネルの揺ぎ無いスタイルは女性の自由のシンボル~だからこそ、シャネルは永遠に愛されるのです。
「流行は追わない。何より大事なのは、自分のスタイルを確立すること。私は永遠のスタイルを生み出したわ」ココ・シャネル
【参考】 INSIDE CHANEL - シャネル公式サイト 5 Ways Coco Chanel Has Inspired Fashion Today OPRAH.COM
When pyjamas ruled the fashion world BBC NEWS
Seven Wonders How Coco Chanel Changed the Course of Womens Fashion Wonderland
DOUBLEDAY「CHANEL HER STYLE AND HER LIFE」 JANET WALLACH
東洋経済「シャネルの戦略 究極のラグジュアリーブランドに見る技術経営」 長沢伸也/杉本香七
KADOKAWA「新装版 ココ・シャネルという生き方」 山口路子
徳間書店「ココ・シャネル 99の言葉」田真美
此花さくやプロフィール
「映画で美活する」映画美容ライター/MAMEW骨筋メイク(R)公認アドバイザー。洋画好きが高じて高3のときに渡米。1999年NYファッション工科大学(F.I.T)でファッションと関連業界の国際貿易とマーケティング学科を卒業。卒業後はシャネルや資生堂アメリカなどでメイク製品のマーケティングに携わる。2007年の出産を機にビジネス翻訳家・美容ライターとして活動開始。執筆実績に扶桑社「女子SPA!」「メディアジーン」「cafeglobe」、小学館「美レンジャー」、コンデナスト・ジャパン「VOGUE GIRL」など。海外セレブのファッション・メイク分析が生きがいで、映画のファッションやメイクHow Toを発信中!