『関ヶ原』岡田准一インタビュー
危険な撮影シーンも…甲冑を着ていれば問題ない!
天下取りの野望を抱く徳川家康と亡き豊臣秀吉への忠義から立ち上がった石田三成が激突し、長きにわたる戦乱の世に終止符を打ったとされる関ヶ原の戦い。そんな天下分け目の決戦を、司馬遼太郎のベストセラーをもとに『日本のいちばん長い日』(2015)などの原田眞人監督が真正面から描いた『関ヶ原』。本作でこれまでとは違う、不器用で人間味のある新たな石田三成を体現した岡田准一が、作品に対する思いや撮影秘話、歴史好きの彼らしい関ヶ原の戦いに関する独自の考察を語った。
■一般的な石田三成像には違和感があった
Q:「関ヶ原」の実写映画化の話を最初に聞いたときはどう思われましたか?
原田眞人監督が以前から「関ヶ原」の映画化を考えているといううわさは聞いていました。ただ、35年ぐらい映像化されていないですし、ハードルの高い企画なので、オファーをいただいたときには撮影に入れる確率は実は3割ぐらいかなと思っていて。それだけに、実際に撮影に入ることができたときはうれしかったですし、原田監督が作る『関ヶ原』の世界に参加できてとても幸せでした。
Q:演じられた石田三成は歴史ファンに人気のある人物ですが、岡田さんは彼をどのように演じようと思われたのでしょう。
大河ドラマで演じた秀吉の参謀・黒田官兵衛は三成と対立する役でしたが、僕はドラマなどに登場する三成公にはちょっと違和感があったんです。「敗戦の将」として近年再評価され、官僚のイメージで語られることが多いけれど、この時代の武将はみんな職業軍人なので、現代の官僚とはちょっと違う。生まれながらにして軍人で、それが死生観にもつながっている。そういう側面も込めながら、過去の人に見えない人間像を作り上げられたらなと思っていましたね。
Q:原田監督の撮影現場はいかがでしたか?
原田監督の映画も撮影の柴主高秀さんの画(え)も好きだったので、ずっと出演したいと思っていたんですけど、撮影は、カメラを回しっぱなしで何テイクも重ね、つながりも気にしないで映像素材を集めていく感じです。でも、大事なシーンは1回で決める。ただ、「『関ヶ原』には鬼が出る」とみんなで話していたぐらい、原田さんは現場でいつも怒っていて(笑)。みんなすごく怒られていたけれど、僕は怒鳴られることもなかったですし、楽しかったんですよね。本物の歴史的建造物で撮影できましたし、こんなにも素晴らしい作品に仕上げてくださった原田監督には本当に感謝しています。
Q:いまおっしゃっられた歴史的な建造物の中で、岡田さんがいちばん印象に残った場所は?
原作の司馬先生と縁があったおかげで、映画の撮影では初めて使わせてもらえた東本願寺です。ただふすまも置物も重要文化財や国宝級だから、当たり前ですけど「絶対に傷をつけるな!」と言われて。歴史的建造物の中で行う芝居は実際いつもより神経を使いましたが、それ以上に本物の場所に衣裳を着て立てた喜びの方が大きかったです。
■役所広司には撮影前に「寂しい」とメール
Q:徳川家康を演じた役所広司さんとは、『蜩ノ記(ひぐらしのき)』(2014)に続いて2度目の共演ですね。
そうです。僕は役所さんのことが大好きなので、本当はもっとお話したかったんですよね。でも、今回は敵対する役だったので、撮影前に役所さんに「あまり近くに行けなくて寂しいです」というメールをして(笑)。現場では家康をにらまなくちゃいけないですし、距離感も出さないといけないから、そうでもしないと微妙な感じになると思ったんです。と同時に、家康が暴れまくることはわかっていたので、三成公を僕が昔原作を読んで感じた傍観者的な立ち位置ではなく、当事者にしたいという思いもありました。
Q:忍びの初芽を演じた、有村架純さんとの共演はいかがでした?
有村さんとのお芝居は、彼女が後ろからササッと近づいてきて僕の首に小刀を突きつけてきたりするなどわずかなシーンでしたけど、三条河原でのアクションのリハーサルは、アザを作りながら頑張っているな~と見ていて思いました。それに、最初のうちは緊張していたからコミュニケーションをとった方がいいかなと思って僕から話し掛けたんですけど、本当にかわいい人という印象で。僕に「いまの架純ちゃんの表情よかったね」って言ってきた原田監督に、「僕じゃなくて本人に言ってあげてください」と返したこともありました。監督が「本人には言えない」ってテレていたのが忘れられないですね(笑)。
■どんなことがあっても戦いの結果は変わらなかった
Q:それにしても、関ヶ原の合戦のシーンはすごい迫力でした。撮影中に危険だな、ハードだなと感じたことは?
僕が乗った馬は「軍師官兵衛」のときと同じ馬で、爆破があっても動じない子なんですけど、霧の中に入っていくのだけはイヤがって。優しい性格だから、霧や豪雨の中から出てくる人にぶつかりたくないという気持ちがあるんでしょうね。だから、立ち止まらないように「行かなきゃダメだ、ダメだ」って言い続けましたが、それ以外は100%言うことを聞いてくれるし、慣れた馬でもあるから、危ないことは何もなかったです。
Q:岡田さんが砲弾の中を逃げてくるシーンの撮影も危険ではなかったんですか?
危なかったのかな?(笑)でも、甲冑を着ているから、最悪甲冑でよければ何の問題もない。手さえつかなければいいんです。甲冑を着ているとその分、自分の体重より30キロ近くも重いので、手をついたらその重みで肩が抜けたり、骨折したりしちゃうことも考えられますからね。
Q:ところで、岡田さんは三成の性格がもう少し柔らかだったり、戦略の何かが違っていたりしたら、関ヶ原の戦いの結果も変わっていたと思いますか?
僕は、結果は変わらなかったと思います。三成公は大好きですけど、天下人になれるのは決められた人だけだろうし、「運命」という言葉を使うのはあまりよくないのかもしれないけれど、僕はそういうよくわからない力さえも味方につける家康がどうしたって勝ったと思っていて。逆の言い方をするなら、三成があのときこうしていれば天下人になれたんじゃないかな? という考えは一切ないです。三成をみんなが好きなのは、秀吉に対して「義」や「愛」を貫いたと言われているからだと思うんですけど、今回の映画では多少性格が悪いところも見せているので、そういったところも楽しんでもらいたいですね。家臣たちを怒涛のごとく責めたりしていますから(笑)。
■取材後記
近年はシリアスな役に挑むことが多くなり、国民的俳優と目されるようにもなった岡田准一。そのまなざしは一切ブレることなく、芝居とアクションの精度もどんどん上がっている。『関ヶ原』で演じた石田三成には、そんな彼の人間くさい一面が髄所であぶり出されているような気がする。岡田自身が「初芽との恋愛のエピソードもあるし、歴史に詳しくない人でも楽しんでもらえます」と語る本作は、岡田だけでなく、役所広司・有村架純・東出昌大(小早川秀秋役)らの等身大の芝居も魅力的。生々しい彼らを見ているうちに、歴史のことをもっと知りたいと思うようになるはずだ。(取材・文:イソガイマサト)
映画『関ヶ原』は8月26日より全国公開
(C) 2017「関ヶ原」製作委員会