『アリーキャット』窪塚洋介&降谷建志 単独インタビュー
自分自身でいること、今を愛すること
取材・文:森田真帆 写真:金井尭子
海外からも注目を浴びている窪塚洋介と、Dragon Ash のボーカルとして音楽界でカリスマ的な人気を誇る降谷建志が初タッグを組んだ。『捨てがたき人々』などで知られる榊英雄監督が、都会の隅で過去にすがりながら生きる二人の男マルとリリィが、シングルマザーとの出会いをきっかけに大きな事件に巻き込まれていく姿を描く。「今」という瞬間を生き続けてきた二人が、作品に込めた思いをアツく語った。
二人の共演に周囲も沸いた!
Q:共演が発表された際、ファンの反響と期待はすごかったですね。実際に周りの方々からも何か言われましたか?
窪塚洋介(以下、窪塚):あ、それオレも聞きたかった。周りからなんか言われた?
降谷建志(以下、降谷):新井(浩文)とか(松田)龍平とか役者の友達だったり、ミュージシャン仲間だったり、お互いのことを知っている共通の仲間たちは、「建志と絶対合うと思うよ」ってみんなすごく喜んでくれた。
窪塚:オレの周りもスッゲー楽しみにしてくれてる。普段言ってこないような人が「楽しみにしてる!」って言ってくれると、「ああ、なんかやっぱちょっと温度違うな」って感じるし。その人たちは『沈黙 -サイレンス-』の時には言ってこなかった人たちで、このタイミングで言ってきてくれたのが何よりうれしかった。
Q:お二人はこの作品が始まるまで面識がなかったそうですね。
降谷:オレらが初めて会った2週間後に、この映画のオファーが来たんだよね。
窪塚:うん。だからオレも、建志くんとの共演を最初に聞いた時うれしかったし。建志くんじゃなかったら誰がありかな? って思った。
降谷:オレもマルがやるならやりたいっていう感じだったね。
最高に濃密だった2週間の撮影
Q:降谷さんは普段から窪塚さんをマルって呼んでいるんですか?
降谷:マルはオレのこと建志くんって呼んでいるけど、オレはマルって呼んでる。
窪塚:こういうところにハッとさせられるんだよね。撮影中はカメラが回っていない時も建志くんのことをリリィって呼んでいたけど、撮影後は「Kj先生」って呼んでたかんね。
降谷:そうそう(笑)。あんときまだスッゲー映画引きずっていた時で、一気に建志に引き戻された感があった。
窪塚:建志くんは今もオレのことをマルって呼んでくれてて。それって役を生きるってことでしょう。その度にお前はどうだったんだ? って、自分に問いかけることができて、オレもあのとき役を全うした、胸張れるって思っているから、役者として次の作品にまた入っていけるんだよね。
降谷:撮影期間が2週間で、この映画の中でのマルとリリィが過ごした時間なんてさらに少ない日々だけど、濃密な時間だった。カメラが回っている時も回っていない時も区別がつかなくて、二人ともただただマルとリリィだった。
Q:撮影現場にお邪魔した時、マルがいないシーンで降谷さんが「マルいないとつまんないんだよね」と話していましたが、降谷さんは近所の少年とおしゃべりしていましたね。
降谷:撮影の合間、オレあんまり控え室とかいたくなくて。一人でぶらぶらしていたんだけど、近所の小学生が話し掛けてきて、ずっと話してた(笑)。普段から子供と外人にスッゲー話し掛けられるんですよ。なんでかなって、いつも思う。
窪塚:それ、小鳥が寄ってくるのと同じだから、すごいいいことだと思うよ(笑)。建志くんみたいなピュアさってなかなか持てないから。
一歩踏み出し手に入れるもの
Q:市川由衣さんが演じているシングルマザーの冴子との出会いがきっかけで、マルとリリィのそれまでの日々がウワーッと変わるわけですが、彼女はどんな存在だったと思いますか?
窪塚:マルの中では母ちゃんとの関係性があって、シングルマザーの家庭で育った自分と重ねて他人事じゃなくなって、どんどん火がついていったんじゃないかな。
降谷:冴子の生き方って、いいか悪いか判断が人によって違う複雑な状況で、いわゆるマイノリティーなんだよね。リリィは全てに退屈していて面白いことがあればなんでも首を突っ込んじゃう。で、あんな面倒くさいことに首突っ込んで、数日間めちゃくちゃ翻弄(ほんろう)されるんだけど、その数日間はマルもリリィも冴子もめっちゃ輝いていたと思う。
窪塚:だからマルも新しいステージに行けるというか、オレはこの映画の中ではマルが一番変わったと思っていて。冴子に「変われよ! 一歩踏み出せよ!」って怒鳴っているのは、実は自分にも言っているんだよね。さっき建志くんが、この作品のことを「マジ宇宙戦争」って言っててオモシレーなって思ったんだけど、薄汚れた街角の奴らの出来事なんだけど、捉え方によっちゃ自分の魂の大決戦なんだよね。マルもリリィも全部失ったと思った時に、手の中に残っていた形のないもので自分が成長している。そういうことだったんじゃないかな。
くすぶっている人に届けたい気持ち
Q:マルやリリィのようにくすぶってる人って、世の中にたくさんいると思います。30歳を過ぎて、つい学生時代に戻りたくなったり。お二人はまさに今、瞬間を楽しんでいる印象を受けるのですが、人生を楽しむ秘訣みたいなものってありますか?
降谷:多分、学生時代の話をしている人は、立派に社会に出て結構我慢している人なんじゃない? オレは我慢してないもん(笑)! ユートゥーでしょ!
窪塚:うん、ミートゥー(笑)!
降谷:でもさオレにはきちんと朝に起きて会社に行って、すげー頑張っている人たちの苦悩がわからない。そういうことをしたことないから。でも同時にマルやリリィの苦悩もやっぱ彼らにしかわからなくて。みんなそれぞれ大変なんだよね。この仕事だってさ、クソみたいな瞬間はほんといくらでもあるし、競争とか勝敗とか絶対ある。みんな自分の人生通して成長して、自分なりに楽しんでいくしかないと思う。
窪塚:東日本大震災の時、農家のおじいちゃんが自分の人生のレールがなくなったから自殺したというニュースを聞いてすごくショックだった。人生の見方や価値観で、その人の人生は変わってくると思った。オレはレールなんてあるほうが怖いんだよね。だから人種も国も性別も全部飛び越えて、やっぱ自分自身であることを誇りに思って、自分自身でいることを楽しむことができれば、きっと何があっても「今が一番」って言える。だって今が一番なら、過去にどんなに嫌なことがあろうが、「あれだけのことがあったから、今ここにたどり着けたんだ」っていう自信に繋がるし、未来は明るくなる。でも今をおかしくすると過去のせいにしちゃう上に、今後無限に可能性が広がっている未来にも蓋をして狭い世界に自分を閉じ込めてっちゃうからね。今を生きるっていうのは最高のギフトだから。
Q:お二人の言葉は刺さりますね!
降谷:刺さってるだろうなぁと思った!
窪塚:よーく磨いてから刺しました(笑)。
30代の人間にとって、窪塚洋介と降谷建志はもはや「神」のような存在だ。テレビドラマ「池袋ウエストゲートパーク」で窪塚が奔放に演じたブクロのキング、そして Dragon Ash にあの頃の若者は憧れ続けた。あれから20年近く経っても今もなお、窪塚と降谷はカッコいい。人生の様々な経験を経たことで、人間としての魅力も増した二人のカリスマ性から生まれる、輝くような主人公たちの瞬間は、多くの人の心を鷲掴みにすることだろう。
映画『アリーキャット』は7月15日よりテアトル新宿ほか全国公開