カイル・マクラクラン来日!「ツイン・ピークス」26年ぶり新シーズンを語る
『ロスト・ハイウェイ』『マルホランド・ドライブ』 などの奇才デヴィッド・リンチ監督の大ヒットドラマの26年ぶりとなる新作「ツイン・ピークス」を引っ提げ、FBI特別捜査官デイル・クーパー役のカイル・マクラクランが来日! 前シーズンの衝撃的なラストから、「ツイン・ピークス」の謎だらけの世界観、新シーズンでの驚きの展開までを語った。(取材・文:編集部 石井百合子)
前シーズンの衝撃的なラストの意味
Q:前シーズンは、「ここで終わり?」といった衝撃的なラストでしたが、どのように受け止められましたか?
僕も正直、最初意味がよくわからなかったけど、クーパーに変化が起きた、変身したという展開は非常に面白く、興奮した。だから僕としてはそこからのストーリーを見たかったんだけど、テレビ局のABCが打ち切りという判断をしたために、そこで終わることになってしまった。それが、こうして25年後にチャンスが与えられたわけだ。今思えば、あそこが「はじまり」でもあったんだよね。
Q:でも、ローラ・パーマー(シェリル・リー)が前シーズンの最終話、赤い部屋で「25年後にお会いしましょう」と言っていますよね。てっきり当時から続編を製作する話は浮上していたのかと思ったのですが。
あの言葉にそういう意図(続編製作の示唆)はなかったと思う。なぜ「25年後」だったのかはわからないけど、単に「時間が経ってから会いましょう」「いつか会いましょう」という意味だったと思う。新シーズンがローラの言葉通り25年後につくられることになった理由は(クリエイターの)マーク・フロストとデヴィッド・リンチが知るのみだ。
Q:「ツイン・ピークス」は、「赤い部屋とは何なのか?」「キラー・ボブは何者なのか?」「ブラックロッジとは何なのか?」「丸太おばさんはなぜ予言するのか?」など多くの謎に満ちています。当時、カイルさんはそういったことをすべて理解したうえで演じられていたのでしょうか?
全部は理解していないよ(笑)。デヴィッドが作品にいろんなアイデア、考えを入れているのはわかってはいるんだけど、深いところは理解できない部分もある。「こういうことかな」と漠然と理解はしていたぐらいで。けれども、僕はそういったことよりもキャラクターの行動心理に集中しているし、わからないことがあっても、例えば「赤い部屋は何なのか?」といったふうに彼にストレートに疑問を投げるようなことはしなかった。なぜって、おそらく彼はイラつくと思うし、彼が全てを説明してくれるとも思えない。僕はこの世界は、あいまいな感じがあっていいと思うんだ。
Q:クーパー捜査官は世界中で人気者になり、カイル・マクラクラン=クーパー捜査官のイメージが定着しましたが、いいことばかりではなかったようにも思います。実際はどうだったのでしょうか?
とにかく大勢の人に受け入れられて反応があるということには驚いていたし、デヴィッド自身も驚いていたと思う。だけど番組に対する興味、注目はすごかったんだけど個々の俳優に対する熱は、実はそこまでではなかったんだ。当時はSNSも発達していなかったから反響がどんな具合なのか我々に伝わっていないところもあった。視聴率は非常に高い、注目されているというのはわかっていたんだけどその度合いがよくわからなかったね。
新シーズンでは4つのキャラクターを演じ分け
Q:新シーズンの撮影開始、期間は?
2015年9月から始まって2016年の4月までだった。
Q:初めにリンチ監督とはどのような話をされましたか?
今回、僕が複数のキャラクターを演じるということで、役柄についての話を主にしたんだけど、特に「ダーク・クーパー」を演じる用意はあるかということと、非常にシリアスな役なので完全に彼になり切ってほしいと。そこが、一番彼が気にしていたところだ。
Q:一体、キャラクターはいくつあるのでしょう?
クーパー捜査官(4話の時点では別人格になっている)、そしてダギー。ダギーにも二つのタイプがあって、一つが長髪で革ジャンにワイルドなタイプ、もう一つが長髪でもみあげがあって少し太めのタイプ(ナオミ・ワッツ演じるジャネイの夫)。だから4つのキャラクターだ。
Q:第1話でクーパー捜査官が見た目も性格もまるで別人になっていたので大変驚きました。
僕だって驚いたよ! でも18話から成るストーリーだからまだまだ最後まで観ないとどういうふうに変わっていくのか……。時々ダギーがはっきりと戻るような瞬間もあるんだけど……でも、そこは詳しく話せないんだ。
Q:前シーズンと違って、今シーズンではあらかじめストーリーが全て用意されていたと聞きました。前シーズンではローラ・パーマーを殺害した犯人さえ知らされなかったそうですが、筋書きが全てわかったうえで演じることでやりやすさはありましたか?
そうだね。テレビの場合、大抵ストーリーを知らされずに1話ごとに脚本をもらって演じることが多いけど、今回はあらかじめすべてを知らされていたから僕としてはやりやすくて、貢献できる部分があったように思う。
一番驚いたのは裕木奈江との共演シーン
Q:新シーズンは舞台がツイン・ピークスのみならずニューヨーク、ラスベガス、宇宙(!)と多岐にわたり、ガラスでできた謎の装置や、顔と胴体の異なる死体などまたもや驚き、謎だらけです。脚本を読んで最も驚いたことは?
一番驚いたのは、第3話でクーパーが裕木奈江演じる謎の女性(エンドクレジットにはNaidoと記載されている)と遭遇するシーン。クーパーが部屋のはしごを上って宇宙空間に出て、謎の女性が(タンクのような装置の)レバーを下げた瞬間宇宙のかなたに消え、クーパーがはしごを下りて、もう一人の女性の導きでコンセントの穴から別の空間に移動するというくだりだ(笑)。
Q:裕木奈江さんとの共演はいかがでしたか? 特殊メイクがすごすぎて彼女とわかりませんでしたが、非常にインパクトのある役柄でしたね。
僕が現場に入ったときにはすでに彼女の目はプロステティック(特殊メイクの一種)で覆われていたから実際に会ったとは言えない感じで、挨拶もしたし握手もしたんだけど顔を見たのはずいぶん後になってからだったよ。
Q:新シーズンでも赤い部屋にローラ・パーマーが現れたことから、「彼女の事件はまだ終わっていなかったんだ」という衝撃があったのですが、新シーズンでのローラの役割とは?
いい質問だ。ローラのことを聞かれたのは初めてだ。詳しくは言えないけど、それはシーズンの後半で明らかになっていく……。クーパーとローラの関係がどのようなものなのかはまだよくわかっていないけど、非常に興味深い部分だ。
Q:(日本で先行放送された)4話まで観たところでは前シーズンでクーパー捜査官の良き相棒だったハリー・S・トルーマン保安官(マイケル・オントキーン)がまだ登場していませんが……。
出演の交渉はあったようだけど健康上の理由で出演できなかったらしい。ただ、第6、7話あたりにハリーの兄のシェリフ・フランク・トルーマン保安官(ロバート・フォスター)が、ハリーと電話をするシーンがあって、どうやらガンなんじゃないかと思わせるセリフが出てくる。
デヴィッド・リンチとの出会い
Q:カイルさんは「ツイン・ピークス」のほか『デューン/砂の惑星』(1984)、『ブルーベルベット』(1986)、『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』(1992)などの映画でも主演を務められ、リンチ監督と最も近しい俳優の一人だと思うのですがそもそも彼と仕事をするようになったきっかけは?
1983年、ロサンゼルスのユニバーサルスタジオでバンガローと呼ばれる小さなオフィスがあって、デヴィッドが『デューン/砂の惑星』の話をしようということで、そこで30分ぐらい話をした。ちょうど当時彼が毎日通っていた「ボブズ・ビッグ・ボーイ」というレストランでのランチから戻ってきたところで、お互いにアメリカの北西部で育っているということもあって、アイダホとモンタナ、ワシントン州の話、それからちょっと赤ワインの話もして、役の話も少々した。そしたら4、5日後に「カメラテストをするからオーディションにきてほしい」と言われ、主役を演じることになったんだ。
まるで演じたクーパー捜査官とシンクロするかのように、聡明だが気取らずチャーミングな人柄のカイル・マクラクラン。現在58歳。年を重ねながらも知性的でダンディーな雰囲気は健在。前シーズンを上回る予測不可能&衝撃的な展開が連続する新シーズンだけに、ネタバレにならないよう慎重に言葉を選びながらも丁寧に回答する姿が印象的だった。ブラックコーヒーをこよなく愛する、愛すべきクーパー捜査官がカムバックすると思いきや、新シーズンではカイルが複数のキャラクターを演じ分け、視聴者の度肝を抜く展開となっている。
新作「ツイン・ピークス」は7月22日(土)よりWOWOWプライムにて放送(全18話)【第1話無料放送】
※毎週土曜夜9:00(二カ国語版)、毎週金曜夜11:00(字幕版)
旧作「ツイン・ピークス」(全30話)はWOWOWメンバーズオンデマンドにて一挙配信中