『東京喰種 トーキョーグール』窪田正孝 単独インタビュー
描かれたテーマを絶対に届けなければいけない
取材・文:浅見祥子 写真:高野広美
世界累計発行部数3,000万部を超え、アニメ、舞台、ゲームとカタチを変えながらその世界観への支持を拡大させるコミックの実写映画が完成した。物語の舞台は、人を喰らって生きる「喰種(グール)」が跋扈(ばっこ)する東京。読書好きの控えめな大学生のカネキが喰種の臓器を移植されて半喰種となり、人間と喰種の狭間で葛藤する。そんな主人公を演じたのは窪田正孝。この役を演じるにあたり、彼自身が抱えた葛藤とは?
苦悩し、葛藤する主人公
Q:もともと原作はご存じでしたか?
映画のお話をいただいてから知りました。それで読んだら、面白くて。人気の高い漫画なのは知っていましたが、振り返ると撮影中がいちばんなにも考えずにいられたかもしれません。公開が近づいてきたいまのほうがプレッシャーを感じています。怖いです。
Q:原作ファンの声が聞こえてきます?
チェックしたりはしませんが、撮影現場でやったことがどんな映像になっているのかな? この作品がどう届くのだろう? と思って。喰種になってしまった者の苦悩、喰種と人間との闘い、人間を食べなければ生きられないことへの絶望や、自分たちが正義であると美化する人間の姿……。原作の実写化であるなら、そこに描かれたテーマを絶対に届けなければいけない。それがちゃんと伝わればいいなと思って。
Q:そうしたテーマのうち、演じる上でもっとも大切にしたことは?
カネキに関しては苦悩、そして葛藤ですね。その部分をしっかりと表現しようと……頑張りました(笑)。
もっとも苦労したのはマスク!?
Q:アクションシーンもたっぷりありましたね?
そうですね。時代が進んでいる中で、やっぱりこの仕事の現場はアナログなんだなって(笑)。絶対そうですよ! 今回はほぼワイヤーアクションでしたが、腰回りにベルトをつけ、グリーンバックで、喰種の捕食器官である赫子(カグネ)なるものを描くために3人がかりで……。赫子をCGで表現する、しかも監督は圧倒的な映像美を追求したい。そこで赫子の描写が引き立つよう、撮り方も工夫していくわけです。質感のようなものを大切にして。そしてそれは「東京喰種トーキョーグール」の映像化にあたって、ひとつの見どころになるはずです。萩原監督は今回映画が初めてではあるけれど、CG描写に長けた監督だとお聞きしていました。だからこそのアクション、見せることを意識したアクションが必要で、動きを心理的な面から考えていたら追いつかないかもしれない。そんなことを考えていました。
Q:『ヒーローマニア -生活-』でワイヤーアクションに初挑戦されたそうですが、そのアクションとはまた違いますよね?
全然違います。『ヒーローマニア』は日常の中でのファイトです。でも今回のアクションは人間の想像を遥かに超えるもののはずです。だって喰種は、指が折れても半日で治るんですよ。もう治ったの? うそぉ! みたいな感じで(笑)。だから、ここで殴る、ここでかわして、いま当たった! というアクションではありません。カネキの心情を考えながらアクションの動きを捉えようとしたら置いてきぼりになります。
Q:カネキの心情の部分は別のところで表現を?
だからこそ、鈴木伸之さん演じる喰種捜査官の亜門との会話の部分は強く表現しておかなきゃいけないなと思っていました。政治や警察があって、国家というものは維持されています。だから彼らが正義であるとされていて、亜門も同じように自分が正義だと思っている。それで取り締まられる側の喰種は悪だ! と。難しいところですが、ではすべての犯罪者は完全な悪なのか? などと考えてしまいます。生きるためには食べなきゃいけない。お金がなければ、なにも食べられない。どうしたらいいの? という話に極端に言えばなってしまう。真面目に考えたらそういうことですが、笑える話をするなら……あのマスクは苦しいとか。
Q:カネキが喰種になったときに顔につけるマスクって、苦しいんですか!?
はい(笑)。いくつかのバージョンをつくっていただきましたが、口の部分がメッシュになっているのといないのとがあって。口から呼吸できないときは鼻から息を吸うしかなく、片目だけが出ているので、片目のまぶたの下からしか息がもれないんです。だから亜門に「あなたが正しいと僕には思えない」とか言いながら、そこからもれた息で前髪がひゅうひゅうなびいていました(笑)。あのマスク、すごく格好いいんですけど。
印象的だった清水の存在
Q:同じ喰種の女子高生でカネキに闘い方を教える董香(トーカ)を、清水富美加さんが演じていますね?
彼女も撮影では、振り切って演じられていた印象があります。桜田ひよりちゃんが演じるヒナミと話しているところなどは、本当に姉妹のように仲良しに見えたり。アクションに関しては、トーカのほうがたぶん、闘いのシーンが多いんじゃないでしょうか? というか、ストーリー上は僕がトーカに闘い方を教えてもらう側で。それで完成した映画を観ると彼女の印象が強く残りました。本音を言うと、そもそも自分のシーンは客観的に観られなくて、よくわからないんですけど。彼女がトーカを演じたことで、映像の価値が上がったような感覚がありました。
Q:他にも亜門の上司である真戸役の大泉洋さんとか……。
実は大泉さんとはクランクインからクランクアップまで、一度もお会いしてないんです! 共演シーンがなく、クランクインの前に「はじめまして」とご挨拶し、次に会ったのは打ち上げでした(笑)。
出演作を語るのは苦手
Q:完成した映画を観た感想は?
実は原作者の石田スイ先生と並んで観たんですよ! だから気になってしまって、映像よりずっとスイ先生を見てました(笑)。でも横顔だけで表情がよく見えなくて。うわっ赫子が出てきたけど、どうかな?……微動だにしない、みたいな(笑)。それで映画が終わってから2人だけでいろいろとお話させていただきました。LINEを交換した後、改めて感想を送ってくださって。ありがたいですよね。まだ2通くらいしかやりとりしてないですけど。そもそも最初にお会いしたのは対談だったのですが、そのときも先生は自分の作品を語るのは苦手だとおっしゃっていて。その気持ち、よくわかるなあと。
Q:主演として1本の映画を背負うために、撮影現場では盛り上げるような行動をしましたか?
全然です。この映画に関して言えば、みなさん個性がありますけど、僕はないです。カネキは本が好きで、人としゃべるのが苦手。喰種になってから自己を主張し始め、いまはその第一段階です。共演者のみなさんにこの映画の世界観をつくってもらった感覚です。
Q:お話を聞いているとキャラクターの葛藤やその裏にある心理を深く掘り下げていますよね。それはこの映画だからなのでしょうか?
この映画だから特に、かもしれないですね。ここ1~2年で作品の中でのポジションが変わってきて、年下の人がすごく増えてきた気がします。そうした現場が続いているんです。それで僕がこのカネキ役をいただいたことで、原作ファンで主演を熱望していたのに、それが叶わなかった人もいるわけです。ひょっとしたらそこに憎悪のような感情が生まれることもあるかもしれない。この世界はキレイごとばかりではなく、醜い部分があるのも事実です。そうしたことを考えるようになりました。なにが正しいのかは簡単にはわからない。だからこの映画の「この世界は間違ってる」というセリフが大好きなんですよね。
読書が好きで人と話すのはやや苦手、恋愛となるとさらにジタバタ。人間と喰種の狭間で揺れ、葛藤を抱えながらも闘いに身を投じることになる主人公……。このカネキ役ってなんて窪田正孝にぴったりだろうと思った。そんな彼自身、取材中も最初のうちは伏目がちで人見知りな空気をかもしている。でも決して不愛想なのではなく、役柄と対峙した想いを懸命に誠実に言葉にしようとする。それでいてできた映画を観るとキレのいいアクションを炸裂させ、図らずも抱えてしまう心の葛藤を的確に表現していた。まさにハマリ役だ。
映画『東京喰種 トーキョーグール』は7月29日より全国公開