『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』広瀬すず&菅田将暉 単独インタビュー
声って大変な情報量があるんだ
取材・文:浅見祥子 写真:高野広美
1993年「ifもしも」の一篇として放送された監督&脚本・岩井俊二によるテレビドラマを、『モテキ』シリーズや『バクマン。』などの大根仁が脚色、新房昭之が長編アニメとしてよみがえらせた映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』。母親の再婚に心を揺らすなずなの声を広瀬すず、なずなに密かに想いを寄せるクラスメイトの典道の声を菅田将暉が担当した。二人はなにを感じたのだろうか?
オリジナルはドキュメンタリーを観る感覚
Q:この映画の基になったテレビドラマ「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」はご存じでしたか?
広瀬すず(以下、広瀬):知らなかったんです。今回の映画のお話をいただいたとき、いろいろな人から「絶対に観た方がいいよ」と言われて。それで観てみると色で言えば赤いというか匂いがするような質感の映像で、汗を感じるというか……。「とてもいいな~」と思ったんです。最近あまり見ない、独特の世界観だなって。夢がつまっているというか、少年少女たちのドキュメンタリーを観ているような感覚にもなりました。
菅田将暉(以下、菅田):僕は知っていました。それで今回改めて観させていただきました。俳優業をやらせてもらっている自分にとって、目指すところがたくさんつまっている、一瞬の美がたくさんある作品でした。ちょっとオレンジだったり茜色だったり、青じゃなくちょっと紫がかった色だったりする、グラデーションのかかった時間の切り取り方に岩井俊二監督らしい美しさを感じました。しかも生々しさまであって。
Q:そのドラマを原作にした長編アニメが製作されると聞いたときの感想は?
広瀬:ドラマでは体温や汗のような感覚、画面から感じるものが強いと思ったので、それをどうアニメにするのだろう? 絵のタッチはどうなるのかな? と。実際の映像を見るまでは全然想像がつきませんでした。
菅田:僕はアニメーションに先入観がないので、特に違和感はありませんでした。言われてみれば、ちょっと驚きますよね。でも子どものころって腕が何メートルも伸びたかのような瞬間があったし、自分が風になったと思うくらいに走れる感覚ってあったなと。そうした体感をそのまま映像にするのは、アニメーションにしか出来ないことかもしれません。感覚的なものをちゃんと映像に出来るのが面白いなって思いました。
ナチュラルな歌声を披露する広瀬
Q:映像が完成するかなり前の段階で声を入れていくんですよね。ところどころデッサンのままだったり構造線だけだったりの画面を見ながら、声だけでキャラクターを演じるって大変だろうなと。
広瀬:そうなんです。
菅田:そうですよねえ。僕はアニメ映画の声優をやらせていただくのは初めてでしたが、難しかったです。繊細な作業でした。針の穴に糸を通すレベルの話じゃないんですよ! それのもっと次元の高い話で。小さな丸い穴にただ糸を通すだけじゃなく、時間の長短、テンポ等、声って大変な情報量があるんだと改めて思いました。
Q:典道は中学生っぽさが出ていましたが?
菅田:本当ですか? よかったです。
Q:なずなが松田聖子さんの「瑠璃色の地球」を歌うシーンには驚きました。
広瀬:私もです(笑)。歌うことを聞かされたとき、二回ほど聞き直しましたから。本当にやるんですか? 本当にやるんですか? って。
菅田:そしたら?
広瀬:「やります」って……。
菅田:(笑)。
広瀬:カラオケは大好きなんですけど。
菅田:そうなの?
広瀬:でも(カラオケは)誰かと一緒に行くわけではないんです。一人で歌うのが楽しくて。だから誰かに聴かせるように歌うのは……。でも映画の中のなずなも誰かに聴かせるために歌っているわけではないのかなと。いちおう人前であることを意識しているけど、鼻歌くらいのテンションで歌っている感じを意識しました。
菅田:広瀬さんはしゃべるように歌うなあと思いました。
広瀬:なずなはお母さんが歌うのを聴いて覚えたという設定だったので、原曲に忠実に歌おうとするよりは、淡々とやりたいなと思ったんです。子どもがわあわあ歌いながら下校しているようなテンションで、それでいて歌うことが面白くなっているような感じかなと。
中学生の夏の思い出
Q:中学生の夏休みに、どんな思い出が?
広瀬:部活三昧でした。でもボールとバッシュとタオルと水筒を入れたバッグが重くて重くて……。歩くのが好きではなかったので学校までの道のりに気が重くなり、心がなえていました(笑)。学校に着いたら楽しくなって真剣にバスケをやっていたんですけど。
菅田:へ~。登下校の時間ってめっちゃ楽しかったけどね。
広瀬:家から歩いて20分もあって……。
菅田:え! 俺40分くらい歩いてたよ! もっと歩いてたかもしれない(笑)。
広瀬:うそぉ、40分!?
Q:菅田さんは夏休みの思い出ありますか?
菅田:中学生の夏の思い出……話せる思い出をいま探しているんですけど。
広瀬:話せないことばかりですか?
菅田:そんなことはないけど(笑)。あっ、かわいい思い出がある。うちの家族は毎年夏になると淡路島に行っていたんです。いつも泊まるロッジがあって、そこで花火をやったり泳いだりして。宿泊客が参加できるビンゴ大会もあって、僕は景品の大きな水鉄砲がほしかったので、ビンゴでは当ててないのに駄々をこねてもらっちゃいました(笑)。
Q:なずなのような同級生はいましたか?
菅田:自分にとってのなずなのような子はいましたけど……なずな的ではなかったな。あんな子います? うちの地元にはいなかったなあ。あんな女子って最強ですよね。(広瀬に)なずなみたいな子だった?
広瀬:爪の先ほどもそんなんじゃないです! カケラもなかった(笑)。とにかくバスケをやっていたので。
菅田:なずなみたいに「かけおちしよ」とか言ってなかった?
広瀬:言ってないです(笑)。「今日、駄菓子屋行こっ!」みたいなことは言ってましたけど。
菅田:それはでも捉えようによっちゃ、なずなだな。
広瀬:なんでですか? でも男の子と一緒に行くことはなかったです。
菅田:結局は男の、受け手側の勝手な妄想なのかもしれないですね……。
作品が大きく育っていることを実感
Q:今回の手応えはどのように感じていますか?
広瀬:110の国と地域で配給されるんですよね?
菅田:110か国語に翻訳されるってこと!?
Q:同じ言語もあると思うので、110か国語ではないかと。
菅田:確かに! でもいろいろな言語で「か・け・お・ち」とか言う、なずなのセリフを聞きたくない?
広瀬:聞きたいです(笑)。
菅田:海外だと「打ち上げ花火は横からだとどう見える?」みたいな感覚も面白がってくれるかもしれないですよね。夏祭りとか浴衣とか、日本的なものにも反応してくれそう。
広瀬:たくさんの国で公開されると聞いて「作品が大きくなってる!」と思いました。
菅田:作品への期待感としては、自分のことを棚に上げて言うと、ちゃんと会話が出来た感覚があるんです。典道って合いの手ばかりで台本には「……」がめっちゃ多いんです。そこで静かに息が漏れるとか「リアクションがほしい」と言われたのですが、そうした表現をちゃんとやらせてもらえた。会話の中のそうした余白やのりしろの部分って大事で、それをアニメーションで求めてもらえたことがうれしかったです。完成した映画の可能性の大きさを強く感じています。
『ちはやふる』シリーズや『チア☆ダン ~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』など青春モノのイキイキしたヒロインの印象が強い広瀬すずと、どんなに個性的な役柄も自由自在にナチュラルな演技へと着地させる菅田将暉。まさに“いま旬”の輝きを放つ二人の組み合わせは、それだけで心が躍るような新鮮さがある。でも口を開くと二人とも、実は意外と人見知り系。会話を重ねるうちに打ち解けていくさまが微笑ましかったが、映画の中ではまさになずなと典道そのもの。その息遣いや声のトーンで繊細にキャラクターの心情を表現していて、アニメーションにとっての声優という存在の大きさを実感した。
映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は8月18日より全国公開