賞レース席巻中の「侍女の物語」って?今、エリザベス・モスがアツい!
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今年のドラマを代表する俳優の一人は、間違いなくエリザベス・モスである。第70回カンヌ国際映画祭では出演作『ザ・スクエア(原題) / The Square』がパルムドールを受賞し、同映画祭ではニコール・キッドマンが参戦する「トップ・オブ・ザ・レイク~消えた少女」の約4年ぶりの新シリーズ「トップ・オブ・ザ・レイク:チャイナガール(原題)/ Top of the Lake:China Girl」も上映されて、大いに注目を集めたモス。映画にも出演しているが、そのキャリアは「ザ・ホワイトハウス」(1999~2006)、「MAD MEN マッドメン」(2007~2015)、「トップ・オブ・ザ・レイク~消えた少女~」(2013~)、そして今シーズンの賞レースを席巻中のHuluオリジナル・シリーズ「ザ・ハンドメイズ・テイル(原題) / The Handmaid's Tale」(侍女の物語)という、いずれもテレビ史に名を残す秀作ドラマを軸としている。
8月に発表されたテレビ批評家が選ぶTCA賞(テレビ批評家協会賞)では、「侍女の物語」が最優秀ドラマシリーズ作品賞と、最優秀テレビ番組賞(プログラム・オブ・ザ・イヤー)をダブル受賞と圧勝。9月に授賞式が開催される米国テレビ界の一大イベント、エミー賞では13部門にノミネートされている。モスは賞レースの常連だった「マッドメン」で6回、「トップ・オブ・ザ・レイク」に続いて、「侍女の物語」で8度目の候補入り。そこでメディアがつけたあだ名は、“クイーン・オブ・ピークTV”。2017年には脚本がある番組は500本を超えるという、供給過剰状態とも言えるピークTV時代(黄金時代)の女王なのだから、モスがどれほど今が旬! の女優であるかは推して知るべし。
事実、1985年に発表されたマーガレット・アトウッドのディストピア小説をドラマ化した「侍女の物語」への視聴者、批評家双方の熱狂ぶりは凄まじいものがある。トランプの時代に作品の内容が異様にマッチして神がかっていること、またポストフェミニズム時代の女性たちの声が高まっている中、“子供を産む機械”と見なされ自由を奪われる主人公オブフレッドがフェミニストのアイコンともなっているのだ。同時に、演じるモス自身もスポークスマンのように思われているのだが、モス自身は最初は戸惑いを感じていたようだ。そもそも「侍女の物語」はフェミニストの物語ではないし、自分はフェミニストではないけれど、女性の権利はすなわち人間の権利なのだから当然支持しているとも(モスはサイエントロジスト)。しかし、演じる役が人を成長させたのか、もともとモスにそうした素質が色濃くあったのか。おそらくはその両方だと思うが、現在ではACLU(アメリカ自由人権協会)の支持を表明し、思いがけずしてアクティビストとしても注目を集めているのだ。
本人にとって、そこまでの強い意識はなく役を選んでいたとしても、モスが演じてきた役を考えれば世の女性たちがモスをスポークスマンと考えるのも理解できる。いい意味での理想主義者アーロン・ソーキンの代表作の一つで、マーティン・シーンが人間味のある大統領を演じた秀作「ザ・ホワイトハウス」では、大統領の三女を演じたモス。テレビ界の最高峰の才能が集結した群像劇で長年にわたって学べたことは、非常に有益だったと本人も語っている。そこからの、今の時代にこそシーズン1から振り返ることに意義がある傑作「マッドメン」である。
1960年代のニューヨークの広告業界を描いた「マッドメン」で演じたのは、コピーライターのペギー。圧倒的に男尊女卑の世界で権利を勝ち取り、一歩づつ女性の可能性を広げていく。そんなペギーのキャラクターが、気が付いたらフェミニストのそれだという展開は、まさにモス自身を思わせるものも。表面上はクールに見えるが、断固たる、揺るぎない意志が感じられるモスの演技は、派手さはないが静かな気迫がじわじわと迫りくる感じが素晴らしかった。エミー賞で受賞にまで至らなかったのは、その“地味さ”ゆえだろうか。それこそがモスの味わい深さなのだが。
「脇役でいい味を発揮する」というポジションを築いていたモスを主演格に変えたのが「トップ・オブ・ザ・レイク~消えた少女~」だ。『ピアノ・レッスン』(1993)のジェーン・カンピオンが企画・メイン監督・製作総指揮・脚本も手がけた重厚なミステリーで、モスは主演を務めた。過去にレイプされたトラウマを抱える刑事ロビン役で、起きる事件もロビンの人生もなかなかハードな内容。映画界の才能、それも女性監督がクリエイターをつとめ、カンピオンの名前を前面に出したテレビシリーズという例は当時も少なく、非常にチャレンジングで作家性の強い作品としても高い評価と視聴者の好評を得た。モスはこの作品で、カンピオンほか製作陣に多く名を連ねる女性プロデューサーたちから大きな影響を受けたようだ。
カンピオンをして「主役を務めるカリスマ性がある」とお墨付きをもらったモス。同作の続編の撮影後は、しばらくは映画を中心に活動しようと思っていたところに舞い込んだ「侍女の物語」の脚本を読んだ時は、即座にオブフレッド役を演じたいと思ったのと同時に、クリエイティブな面にも積極的に関わるためにプロデューサーを兼ねることを強く希望した。過去に出会った女性プロデューサーたちから学んだこと、またこれまでにも映画のプロデューサーとして活躍し、「ビッグ・リトル・ライズ ~セレブママたちの憂うつ~」(2017)では自分のやりたい作品で演じたい役を実現させるために製作総指揮を手がけ、成功に導いたリース・ウィザースプーンなどからもインスピレーションを受け、自身のプロダクションを立ち上げることも検討しているとか。
テレビ業界の活況を支える女性クリエイターについては「GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」でも少し触れたが、女優が単に名を連ねるだけでなく能動的なプロデューサーとして活躍する例は急増している。今年のエミー賞候補の俳優カテゴリーを例に見ても、「フュード/確執 ベティ vs ジョーン」のジェシカ・ラングとスーザン・サランドン、「ビッグ・リトル・ライズ」のウィザースプーンとキッドマン、「ハウス・オブ・カード 野望の階段」のロビン・ライトほか錚々たる顔ぶれがプロデューサーを兼ねている。現在35歳のモスも、こうした女優たちの仲間入りを果たした格好だ。
先述のTCAでは、実は最優秀女優賞は「LEFTOVERS/残された世界」と「FARGO/ファーゴ3」のキャリー・クーンが受賞した。クーンも派手さはないが存在感のある演技派で、モスにタイプが似ている気もする。「LEFTOVERS」全3シーズンの仕事が評価されたことも含めて、価値ある受賞だと思う。エミー賞ではクーンとモスはカテゴリーが違うので競合しない。ドラマシリーズ部門の主演女優賞は、Netflixオリジナルシリーズ『ザ・クラウン』(こちらも大傑作!)のクレア・フォイとモスの争いとみられているようだが、モスは8度目にしてエミー賞受賞となるだろうか? いずれにせよ、モスが現在のテレビ業界がどれほど高いレベルに達しているかを証明する存在であることは間違いない。
【エリザベス・モスの出演ドラマ】
「ザ・ホワイトハウス」
シーズン7までGoogle Playで配信中
シーズン3までRakutenTVで配信中
シーズン1-7 DVD全巻セット(価格:34,860円+税)がワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメントより発売中
「マッドメン」
シーズン7までHulu、Amazonビデオ、U-NEXT、RakutenTVで配信中
シーズン3までNetflix で配信中
シーズン4までGoogle Playで配信中
シーズン7までDVD-BOX(シーズン 1-3 数量限定コンプリートスリムBOX・価格:18,000円+税ほか)がポニーキャニオンより発売中
「トップ・オブ・ザ・レイク」
シーズン1はNetflix、RakutenTV、dTVで配信中
DVD-BOX(価格:9,800円+税)がBBCワールドワイド、KADOKAWAより発売中
今祥枝(いま・さちえ)映画・海外ドラマライター。「BAILA(バイラ)」「日経エンタテインメント!」ほかで執筆。著書に「海外ドラマ10年史」(日経BP社)。当サイトでは「名画プレイバック」を担当。作品のセレクトは5点満点で3点以上が目安にしています。Twitter @SachieIma