『ナラタージュ』松本潤インタビュー
ズルさや冷たさを持つ等身大の男に
高校教師と生徒として出会った2人が、数年後に再会し、運命の恋に落ちるーー。2006年版「この恋愛小説がすごい!」で第一位に輝いた島本理生の「ナラタージュ」を、企画を10年あまり温め続けたという、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)の行定勲監督が映画化。教え子の泉(有村架純)と許されぬ恋に落ちる主人公の高校教師・葉山を演じた嵐の松本潤が、約4年ぶりに映画単独主演を務めた本作における役づくりや思いを語った。
4年ぶりの主演作で再びラブストーリーに出演した理由
Q:4年ぶりの単独主演映画ですが、その間、次はどんな作品に挑戦したいなど考えはありましたか。
いえ、お仕事はいただくものですから。前作『陽だまりの彼女』(2013)もラブストーリーでしたが、とても楽しく、やって良かったなと思っていました。それだけに次またラブストーリーをやらせていただくなら、正直、新しいアプローチがないとしんどいな、と思っていたんです。監督とプロデューサーにお会いし、物語を(有村)架純ちゃんが演じる泉の目線で、“片側から描く”ことをイメージしているとお聞きし、それがすごく僕の中で響き、お引き受けしました。
Q:ヒロインの側から物語を描くことの、どういったところに魅力を感じたのでしょう?
例えば、劇中で葉山の気持ちを描いたり説明したりすると、共感は得られたとしても、キャラクターがまるくなってしまうと思うんです。そうではなく、葉山のズルい面や、冷たくひどい面があっても、後に泉の“葉山を好きだ”という気持ちさえ残れば、許されるというか。だからこそ葉山の負の面も描ける、という点に魅力を感じました。
Q:では、松本さんから見た葉山像とは? どのような男性に捉え、アプローチしていきましたか。
それは企業秘密です(笑)。というのも、この話は男女の思いやすれ違いを描く普通のラブストーリーと違って、今回は片方=葉山側を全て消している。泉がその時にどう思ったか、が最も重要なわけです。ですから葉山がどう思っているかはあまり重要ではなく、葉山の思いをどこまで見せるのか、それが泉にどう見えるのか、ということを重点的に考えながら演じました。脚本にも、葉山に関する心理描写はほぼありませんでした。
Q:それゆえに演じにくい、難しかった、ということはありませんでしたか。
原作がありますし、現場で監督とお話する中で、こういう感じかな、と何となくつかめたので、さほど苦労はありませんでした。つかんだ後は、見せる作業というよりも、「見せない」作業になりました。特徴としては、葉山は感情を表に出さない、ということでしょうか。たとえ泉との会話の中で感情が動くことがあっても、それを表に出さない。何をしていてもドライブがかからない、常にニュートラルにいるキャラクターと捉えていました。
目線の強さを40%にした理由
Q:行定監督からは、目線の強さをいつもの40%にして欲しいと言われたそうですね。
役の設定を一から一緒に作っていく作業の中で、その“40%”という言葉は大きかったです。自分の100%がどこにあるかはさておき(笑)、どういう立ち居振る舞いをする人なのか、どう動いたら人からそういう風に見えるのかといったことも、その40%に凝縮されているというか。要はイメージですから。
Q:それであの、葉山の独特なテンポが生まれたのですね。
会話するときの反応速度や身体的なスピード感など、最初は試行錯誤がありましたが、段々とつかんでいった感じです。例えば前半、やたら意味深に扉をゆっくり閉めるシーンがあるのですが、「とにかく超ゆっくり閉めて」と言われた覚えがあります。意図的に“何かあるぞ”と感じるスピードですよね(笑)。随所にそうした行定マジックがあると思います。
Q:間の取り方も独特ですが、細かい指示があったのでしょうか。
会話の間の取り方も、“もっと、もっとゆっくり”と最初の頃は言われた覚えがありますね。前半はかなり細かく指示や打ち合わせがありましたが、途中からは僕に興味がなくなったのか(笑)、後半はほぼ放牧状態でした。いえ、放牧ではなく、“お任せ”ですね(笑)。
Q:これぞ行定ワールドだと感動した場面などはありますか。
やはり行定監督と言うと、圧倒的な映像美、という印象がありました。僕が出ている場面ではないのですが、泉が車の窓から手紙をちぎって捨てるシーンなどは、“よっ、行定~!”と拍手をしたくなるくらい、美しいシーンだと思いましたし、好きですね。いろんなタイミングを含めてさすがだなぁ、とうなりました。
松本潤が解釈する葉山と泉の微妙な関係
Q:葉山はなぜ泉に惹かれたのだと思いますか。
いわば葉山は八方ふさがりになっている人。学校の先生だけれど、奥さんと離れ、違う場所に逃避し、それまで自分の生きてきた道を一度外れることを選んだわけです。それでいいと思っていたのに、泉が現れたことで変わり始めてしまう。葉山のセリフにもありますが、最初は泉のことも何とも思っていなくて、単なる正義感から困っている生徒を助けようとしただけ。ところが彼女を救うことによって、自分が救われると感じた。それが、葉山が泉に惹かれていった理由だと思います。
Q:そんな2人の恋愛を、松本さんご自身はどう思われましたか。
絶対的な負のエネルギーのチャンネルが、たまたま合って惹かれ合った。でも、普通の恋愛の異性に対する感覚とは違うから、なかなか関係は進まない。互いに“救われたい欲” から惹かれ合ったんでしょうね。そんな2人がどう向き合い、どういう風に思い合い、どういう風に着地するのかを、この作品は描いているのだと思います。
Q:個人的には、そんな恋愛をどう捉えますか。
是でも非でもなく、演じる上では本人たちがどういう感情かということの方が大切なので、あまりどうとも思わないです。何かが起き、感情が動くシーンを撮る際に、“自分だったらこうなのにな”といった主観はむしろ必要ないですから。それよりも、このシーンはどういうことを描いているかを的確につかみ、相手が目的地に達するためにどうキャッチボールをするか、ということが重要だと思いました。
Q:本作を通して、恋愛観だけでなく、死生観についても考えたそうですね。
出会い、数年後の再会、さらに何年も経った現在ーー。泉があれほど強く想った葉山先生に、もう二度と会わないであろうということ。そうしてようやく現在の泉の時計が動き出すといった描写や、泉と葉山の関係から、なぜか自分がもう二度と会えないーー亡き人たちのことを僕は想ったんです。彼らに与えてもらった影響、自分も今後誰かにそういう影響を与えられるのだろうか、とか……。10~20代を回想する本作から、恋愛だけではない、人生の出会いと別れについて、より強く感じました。
スクリーンの中の葉山先生は、普段の松本の“40%の目力”のごとく、ぼんやりとつかみどころがなく、女性からすると“ズルい”面も多々ある男だ。生徒に対する強い正義感に反し、こと一人の男としては煮え切らない。だがヒロインには、一生忘れられない運命となる想いを刻印するーーそんな男を、松本潤が体現した。取材時は力まず自然体でありつつ、ひょうひょうとクールに応える姿勢の中に、「この作品のために、何を語り、何を語らざるか」を守り抜こうとする、松本潤のプロ意識の高さが垣間見られた。(取材・文:折田千鶴子)
映画『ナラタージュ』は10月7日より全国公開
(C) 2017「ナラタージュ」製作委員会