【コンペティション部門】心揺さぶる人間ドラマ~映像が持つ力を再認識させられるヒューマンドラマ
第30回東京国際映画祭
日本からは『最低。』『勝手にふるえてろ』の2本がエントリーしたほか、フランスの人気俳優の監督作や出演作、ジョージアやブルガリアといったなかなかお目にかからないヨーロッパ諸国の作品に、中国やマレーシアなどのアジア作品まで、選りすぐりの15本をご紹介。今年も本部門のプログラミングディレクター・矢田部吉彦氏が全作品の注目ポイントをズバリ解説します!(取材・文:岩永めぐみ/編集部 浅野麗)
『スパーリング・パートナー』
製作国:フランス
監督:サミュエル・ジュイ
出演:マチュー・カソヴィッツ、オリヴィア・メリラティ
【ストーリー】 ピークを過ぎた二流プロボクサーが、愛する妻と娘、そして自身の引き際のために、ヨーロッパチャンピオンの練習相手に立候補するが……。敗者の美学を貫く男を真摯(しんし)に、かつ爽やかに描いた感動作。
【矢田部氏のここに注目!】 このボクシング映画は幅広い人たちに愛してもらえる作品です。『アメリ』の相手役だったマチュー・カソヴィッツがボクサーを演じていますが、実生活でもアマチュアボクシングに入れこんでいる彼が演じるボクシングシーンは真に迫るのものがあります。加えて、僕が本当に惚れ込んだのは、美しい家族の物語であること。何を観ようか迷っている人にお勧めしたい作品です。
『シップ・イン・ア・ルーム』
製作国:ブルガリア
監督:リュボミル・ムラデノフ
出演:ツヴェタン・アレクシエフ、エレナ・ディミトロヴァ
【ストーリー】 カメラマンの男と偶然知り合った女、そしてその弟の3人は奇妙な共同生活を始める。だが、女の弟は心を病み、部屋から外へ出ることができない。そんな彼のため、男はある手段を思いつくが……。
【矢田部氏のここに注目!】 とても落ち着いたペースの人間ドラマでありながらも、映像の力、そして映画が人にもたらすことのできる力が染み入ってくる作品です。この良さを言葉にしてお伝えするのは難しいのですが、映画ファンであればあるほど響くのではないかと思います。
<審査委員特別賞>『ナポリ、輝きの陰で』
製作国:イタリア
監督:シルヴィア・ルーツィ、ルカ・ベッリーノ
出演:シャロン・カロッチャ、ロザリオ・カロッチャ
【ストーリー】 低所得者層があふれ、治安の悪さで揺れるナポリ近郊。ぬいぐるみの露天商で家族を養う男は、この隔絶された場所から出るため、娘の歌の才能に希望を見出し、歌手として売り出そうと懸命になる。だが、娘は反発し……。
【矢田部氏のここに注目!】 特徴はドキュメンタリー出身の監督の生々しい演出。父親と娘が反発しあう物語なのですが、カメラが父親に寄り添い、まるで父親の心情に手で触れることができるようなリアリティーで描かれています。実の父娘が出演していて、素人の方なのですが、面構えがとてもフォトジェニック。ジョン・カサヴェテス作品のタッチやテイストを思い浮かべる人もいるかもしれません。
<東京グランプリ東京都知事賞>『グレイン』
製作国:トルコ、ドイツ、フランス、スウェーデン、カタール
監督:セミフ・カプランオール
出演:ジャン=マルク・バール、エルミン・ブラヴォ
【ストーリー】 近未来。種子遺伝学者であるエロールは、移民の侵入を防ぐ磁気壁が囲む都市に暮らしているが、その都市の農地が原因不明の遺伝子不全に見舞われる。遺伝子改良に関する重要な論文を書くも失踪した同僚研究者のアクマンを探すため、エロールは旅に出る。
【矢田部氏のここに注目!】 前作『蜂蜜』でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したトルコのセミフ・カプランオールは、光まばゆい太陽のもとで自然の美しさを描く作品が多かったのですが、今回、一転してモノクロのディストピアSFになっています。SF映画といっても、現代のさまざまな事象が盛り込まれた哲学的な内容は、『惑星ソラリス』や『2001年宇宙の旅』のような系譜に連なる作品だと言えるでしょう。
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