『パーフェクト・レボリューション』リリー・フランキー&清野菜名 単独インタビュー
障害者のリアルを相思相愛のコンビが熱演
取材・文:磯部正和 写真:中村嘉昭
出生時より脳性麻痺を患い、車いすで生活しながら障害者の性に対する理解を訴える活動をしている熊篠慶彦氏が企画・原案を務めた映画『パーフェクト・レボリューション』。本作で主人公クマを演じるのは、熊篠氏と長年交流があるというリリー・フランキー、そしてクマの恋人ミツには期待の若手女優・清野菜名が起用された。「会った瞬間から相思相愛になった」と語ったリリーと清野が撮影現場を振り返るとともに、障害者への無理解について本音を語った。
障害者の映画をポップにした理由
Q:映画の企画や台本を読まれてどんな印象を持ちましたか?
リリー・フランキー(以下、リリー):台本云々ではなく、友人である熊篠がこれまで行ってきた「障害者の性に対する理解を訴える」という活動が映画になるということが出演理由だったのですが、熊篠も松本(准平)監督も、障害者を描いた映画でも重たくならないアプローチでやりたがっているという話は聞いていたんです。僕もこういう映画がなきゃいけないと思っていたので、賛成でした。『パーフェクト・レボリューション』というタイトルはやや大風呂敷を広げた感があるように思いましたが、そこは譲ってくれませんでしたね(笑)。
清野菜名(以下、清野):今回は台本を読んだときから、自分の中にミツ像が浮かんで、キャラクターも動いていったので、あまり役づくりをした記憶がないんです。クランクインするちょっと前からミツだった気がします。
Q:シビアに障害者の現状を描くというよりも、ポップに描いた方が伝わることもあると?
リリー:ドキュメンタリーという方法もあったとは思うけれど、あまりシビアな路線にすると、人もお金も集まらないだろうし、ポップに描くことで、リアリティーとファンタジーの要素がミックスされ、説教臭くなく、伝わるものも多いのかなと感じたんでしょうね。
リリー・フランキーと清野菜名は相思相愛!
Q:劇中の二人は本当に息の合ったコンビネーションだったように見えました。
リリー:この人といると楽しいんです。劇中90パーセントはミツがしゃべっているのですが、この映画の持つ躍動感はミツの存在によって引き起こされていると思います。しかも弾けた感じのミツは普段の菜名ちゃんに近い。久々に会ったけれど、今でもミツと菜名ちゃんの境目があまりないなって感じます。
清野:わたしは興味があるものにはとことんはまるタイプで、今回のミツというキャラクターには、ものすごく興味があったので、どんどん掘り下げていけました。その中でクマに対してもグッと近づきたいという思いがあったんです。本当に相思相愛という感じでした。
Q:では撮影はスムーズに?
リリー:普通の会話のシーンや、外での言い合いのシーン、久々に再会したホテルのシーンなど、ものすごくスムーズでしたね。ミツと話していると腹が立つし、自然に怒れる。久しぶりに話すときは、会う前からドキドキしているような気分になるし、気持ちが先に出来上がっているから、セリフが自然に出てくるんです。
清野:自然という意味では、わたしセリフ覚えがすごく悪くて、基本的にどの作品でもすごく読み込んで臨むのですが、この映画は、すごくセリフが長いシーンでも、すぐにスッと入ってくるんです。覚えているというより、自分の言葉として自然と出てくる感じでした。
驚くほど役者自身にマッチしたキャラクター
Q:お二人ともこれまでさまざまな作品に出演していますが、ここまで役柄とご自身がマッチするような感覚はめったにないのですか?
リリー:そうですね。僕の場合、大体映画だと人を殺していることが多いから(笑)。でもこの人、本当に素直でストレートな性格なので、覚えたセリフをしゃべっているというよりは、反射的に出てきているように感じるんです。アドリブも結構ありましたね。
清野:わたしありましたっけ?
リリー:クマの家族が集まるシーンで、マグロの寿司を壁に投げるのとか、アドリブでしょ?
清野:確かに! お芝居をしているという感じがなかったですね。
リリー:同じシーンでアドリブを2回繰り返せば、俺らの中では、台本のセリフではなく、アドリブがスタンダードになるんです。お芝居をする上で、本当に何のストレスもなかったですね。
Q:障害者を扱う映画ですが、重くならないようにという部分ではどんなことを意識されましたか?
リリー:それはもう、菜名ちゃんにつきますね。この人自身のポップさがあるので。さすが、ピチレモンの何賞だっけ?
清野:(受賞したのは雑誌)「ピチレモン」のグランプリ・ペンティーズ賞です(笑)。何かを意識したというより、本当に心の思うままに演じたというより行動していたという感じです。
リリー:ミツが途中、小池(栄子)さん演じる恵理につかみかかって、ワインの瓶を割って「若い男のエキス吸ってるからっていい気になってんじゃねーぞ」みたいな、ミツが絶対言いそうもないセリフを言うシーンがあるけれど、ああいうシーンも菜名ちゃんだからこそ違和感がない。普通だったら寒いキャラになるよね。昔のドラマみたいな。
リリー、清野を「野生児」と絶賛
Q:リリーさんから見た清野さんの魅力は?
リリー:本当に野生児なんですよ。ものすごくみずみずしいお芝居をする。こんな女優さん見たことない。例えばテイクを繰り返すとき、いつもどこか違う演技になる。いつもフレッシュで、それがプラスの方向にしか出ない。
清野:ミツという役は、自分がやりたいって心の底から思ったキャラクターでした。内面から感情がどんどんあふれ出てくるんです。
Q:清野さんはミツのどこにそこまで共感を持てたのでしょうか?
清野:クマピーもそうですが、ミツも「こうだ」って決めたことにはまっすぐな女の子。面倒くさそうな女に見えるかもしれませんが、やること全てに対して100パーセント素直なんですよね。その可愛らしさがいいなって思いました。わたしも素直なんです。
リリー:ミツと菜名ちゃんは本当に近い部分が多い。違うのは最近売れっ子になって、占いを気にしているところか(笑)。
清野:でもミツも占い師にみてもらっていますよね。
リリー:そうだ、もう全部同じじゃん!(笑)
Q:お二人の話を聞いていると、とても波長が合って似ている部分が多いのかなと。
リリー:性格は全く違うと思いますが、気にしているところが似ているとは感じましたね。何となく「あの助監督、何しているんだろう」って思って横向くと、お互い目が合ったり(笑)。
清野:二人にしか出せない空気感はありましたね。本当にいいコンビだったと思います!
劇中のクマとミツは、周囲の偏見や差別の中「不完全な者同士が幸せになれたら、それってすごいことだと思わない?」とレボリューションに向かって突き進む。この、メチャクチャだけれど前に進む力は、リリーと清野、それぞれが持つポテンシャルと符合する。「不可能を可能にする」という青臭い言葉は、二人には全く似合わないのだが妙に説得力があるのは、行動や言葉に嘘を感じないからかもしれない。リリーは清野を“素直”と評していたが、二人の素直な感情が包み隠さず表現されているから、本作が観ている人の心を動かすのだろう。
映画『パーフェクト・レボリューション』は9月29日より全国公開