ちょっと気の早い!第90回アカデミー賞ノミネート予想
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オスカー戦線のスタート地点であるベネチア、テルライド、トロント映画祭が終わり、アカデミー賞ノミネートを果たすであろう有力作が少し見えてきた。(Yuki Saruwatari/猿渡由紀)
現在のところ作品賞の候補になりそうなのは、トロントで観客賞を受賞した『スリー・ビルボーズ・アウトサイド・エビング、ミズーリ(原題) / Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』と、ベネチアで金獅子賞に輝いた『ザ・シェイプ・オブ・ウォーター(原題) / The Shape of Water』。トロントで観客賞を受賞した作品がオスカーでも健闘するケースは非常に多く、近年も『それでも夜は明ける』『英国王のスピーチ』『スラムドッグ$ミリオネア』などがトロントとオスカーの両方を制覇している。
『スリー・ビルボーズ~』は、残酷な形で娘を殺された母が、捜査が進まないことにいらだち、警察に喧嘩を売るという辛辣なコメディー。ベネチアでも脚本賞を受賞しており、マーティン・マクドナーはオスカーでも脚本賞の候補に入りそう。フランシス・マクドーマンドの主演女優賞、サム・ロックウェルの助演男優賞ノミネートも期待できる。
『ザ・シェイプ・オブ・ウォーター(原題)』も、トロントでも受けは最高に良かった。ホラー、ロマンス、さらに社会性をも反映させたオリジナリティーあふれる傑作で、監督賞(ギレルモ・デル・トロ)、作品賞、脚本賞、主演女優賞(サリー・ホーキンズ)の候補になりそうだ。助演男優賞(リチャード・ジェンキンス)もありえる。ただデル・トロらしく、主人公の一人がクリーチャーで、バイオレンスやセクシャルなジョークもあるため、頭のかたいアカデミーが賞をあげるところまでいくかどうかは疑問だ。
同じ出来事を別の方向から書いた歴史もの二作品も、有力。一つは興行面でも大成功したクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』。もう一つは、その時のチャーチル首相を描く『ダーケスト・アワー(原題)/ Darkest Hour』だ。『ダンケルク』では、ノーランがついに監督賞初ノミネートとなるかどうかが注目される。『ダーケスト・アワー(原題)』でゲイリー・オールドマンが主演男優部門の候補補入りをするのは、ほぼ確実。
トロントの観客賞で次点だった二作『アイ、トーニャ(原題) / I, Tonya』と『コール・ミー・バイ・ユア・ネーム(原題) / Call Me by Your Name』も、チャンスは十分。『アイ、トーニャ(原題)』で元女子フィギュアスケーター、トーニャ・ハーディングの口の悪いスパルタ母を演じたアリソン・ジャネイは、助演女優部門でキャリア初のオスカー候補入りを果たしそうだ。
アカデミーの好みからは遠いが、評判の良さから作品部門に候補入りが期待できるのは、『タンジェリン』のショーン・ベイカー監督がやはり社会の底辺にいる人たちをリアルに描く『ザ・フロリダ・プロジェクト(原題) / The Florida Project』と、ジョーダン・ピール監督のホラー映画『ゲット・アウト』。早くもNetflixが熱心なキャンペーンを始めている『オクジャ/okja』(ポン・ジュノ監督)は、候補入りはあっても、ストリーム配信という事実が受賞には不利に動くかもしれない。
とはいえ、まだまだわからない要素はたっぷり。スティーヴン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス、メリル・ストリープ主演で、政治とジャーナリズムの戦いを描く実話もの『ザ・ポスト(原題) / The Post』、リドリー・スコット監督の実話スリラー『オール・ザ・マニー・イン・ザ・ワールド(原題) / All the Money in the World』など、まだ誰も観ていない作品がこの後にも控えているのだ。今年、『ムーンライト』が『ラ・ラ・ランド』を覆したように、最後まで確証はないのがオスカーの面白さなのである。