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『アウトレイジ 最終章』北野武監督&大森南朋 単独インタビュー

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『アウトレイジ 最終章』北野武監督&大森南朋 単独インタビュー

ひとつの完成を見た北野武ワールド

取材・文:イソガイマサト 写真:尾藤能暢

「全員悪人」のキャッチフレーズで始まった、北野武監督の人気シリーズ完結編『アウトレイジ 最終章』。俳優ビートたけしとして前2作に続いて自身で主演を務め、元組長・大友を演じた北野監督と、本作で全員主役級の強面キャストの中に初参加で投入された大森南朋。北野監督はシリーズをなぜ終わらせるのか。その最終章になぜ大森を引き込んだのか。シリーズのファンを公言する大森は憧れだった北野監督のバイオレンス作品の撮影現場で何を感じたのか。ふたりの熱いトークから、現時点での北野武ワールドの全貌が浮き上がってきた。

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終わらせるための乾いたタッチ

北野武監督&大森南朋

Q:『アウトレイジ 最終章』は巨大暴力団組織「花菱会」の内部抗争に、済州島から帰ってきた、たけしさん演じる元大友組・組長の大友が乱入する構造が面白いですね。

北野武監督(以下、監督):『アウトレイジ』(2010)は最初1本で終わるつもりだったんだけど、久しぶりのバイオレンス映画だったからお客さんは入るだろうとは思っていて、“2”(『アウトレイジ ビヨンド』)を作れるような脚本にはしてあったんですよ。そしたら、「“2”を作ってくれ」って言われてね。でも“2”は絶対に当たるという確信があったし、このままシリーズ化したら『仁義なき戦い』の現代版みたいになっちゃうから、どこかで終わらせなきゃいけないと思って、“2”と一緒に今回の“最終章”の脚本も書いていたわけだよ。それが現代社会の縮図とも言える花菱会のお家騒動に、済州島に逃げていた大友が介入してくる今回の話だったというわけだね。

Q:前2作と違ってドライな内容で、作品自体も無駄を削ぎ落したタッチになりましたね。

監督:前の2本と同じトーンにすると、まだ続きがあるように思えるから、今回は終わらせるためにすごく乾いた感じにしようと思ってね。ただ、『ソナチネ』(1993)と乾き方が似ちゃうのはイヤだったので、今回は『ソナチネ』のときのような太陽の下の海ではなくて、どんよりした海のそばに大友がただいるだけの設定にしたんだよ。

Q:大森さんは北野武監督の作品に出演するのは3作目ですけど、監督のバイオレンス作品に参加するのは初めてですよね。

大森南朋(以下、大森):だから、嬉しくて仕方がなかったです。『アウトレイジ』シリーズのファンでしたし、若いときから北野武監督のバイオレンス映画を観て育ってきたので、いつか出られたらいいなという気持ちがありまして。しかも、今回はいつも近くにいられる役だったから本当に最高でした(笑)。

Q:大森さんの演じられた市川は、大友の右腕とも言える特別な存在です。ほかの人たちと違って、大友も可愛がっていますよね。

監督:市川は張(チャン)会長の計らいで済州島に逃げた大友の面倒を見てくれる男で、大友が何も言わなくても裏で動くし、唯一心を許せるNo.2みたいな奴だね。それに英語ならともかく、大友が韓国語を上手に喋るとも思えないので、通訳をしてくれる彼にはいてもらわないと困るんだよ(笑)。

大森:大友と市川の関係性は脚本に細かく書かれているわけではないですし、監督からの説明も特にありませんでした。なので、僕は大森南朋が北野武さんに憧れるのと同じぐらいの気持ちで市川は大友に接しているんだろうなと考えて、その距離感を心がけるようにしました。

大森南朋を強面俳優陣の中に投入した理由

北野武監督&大森南朋

Q:釣りをしている市川のところに大友がやってくる冒頭のシーンだけで、ふたりのその特別な関係性がよくわかります。

監督:そうだよね。あそこで太刀魚の話をしていたと思うんだけど、太刀魚は済州島に行ったときに食べさせてもらったことがあってね。いまでは高級魚の太刀魚のキムチ鍋を料亭で食べたら、本当に美味いんですよ。それで焼酎も進んでひっくり返っちゃったんだけど(笑)、そのときののんびりした感じも少し盛り込んでみたんですよ。

Q:大森さんは、西田敏行さんを始めとした強面の人たちの中に後から入っていくのは相当プレッシャーだったんじゃないですか?

大森:それはけっこうありました。でも、この中では僕は若手ですし、先輩たちに囲まれて芝居をするこんな機会は滅多にないのでありがたいなと思いました。西田敏行さんや塩見三省さんの鬼気迫る芝居を目の当たりにしたり、俳優としての気迫を感じたりしながら現場にいさせてもらいました。

Q:そんな大森さんが演じられた市川は、北野監督から見ていかがでしたか?

監督:大森くんには『Dolls ドールズ』(2002)の冒頭の結婚式のシーンに最初出てもらって。

大森:そうです、そうです。

監督:その後に、もう1本あって。

大森:『アキレスと亀』(2008)ですね。

監督:ちょうど同じころに彼が主演した『ヴァイブレータ』(2003)も観て、そのころから、そろそろいい勝負ができる役者になってきたな、西田さんたちと同じ画の中に入っても大丈夫だなと思っていてね。芝居がいくら上手くても、西田さんたちが背負っているものはとてつもなくデカいし、その塊は発酵物質みたいなものだから、同じ画に入ると負けちゃうんですよ。だって、ここにいる人たちは、全員主役級ですからね。

大森:スゴいです。

監督:(大杉)漣さんも気合いが入っていてスゴいし、西田さんもスカしたり、アドリブを飛ばしまくっているから、女性がひとりもいないことに誰も気がつかないぐらいで(笑)。

Q:市川も大友と一緒のときはにこやかな笑顔を見せてとてもチャーミングですけど、後半に進むに従って、何かにとり憑かれたような恐ろしい形相になっていきますよね。

大森:市川も覚悟を決めていたと思いますし、覚醒していたんでしょう。そういう意味では、成長していたのかもしれません。

『アウトレイジ』で確立した北野武の世界

北野武監督&大森南朋

Q:大杉さんとピエール瀧さんに凝縮された暴力と笑いもこのシリーズならではです(笑)。

監督:1作目で椎名桔平の首をすっ飛ばしちゃったから、その影響もあって歯医者で石橋蓮司さんの口の中をドリルでぐちゃぐちゃにしたり、“2”ではバッティングセンターで加瀬亮の顔をボールで滅多打ちにしたりする痛いシーンが続いて。そうすると、今度は何? ってそこだけが注目されちゃうから、やめようって言っていたんだけど、まあ、今回もやっぱりあんな感じになっちゃったね(笑)。

Q:先ほどのお話に出た冒頭の太刀魚の話は、終盤の大友と市川との別れのシーンともリンクしていて印象的ですが、大森さんはあのシーンの撮影はどのような心境でしたか?

大森:あそこが大事なシーンであることは脚本を最初に読んだときからわかっていましたし、撮影当日は大友を送り出す悲しみを少しは出しておきたいなという気持ちもあったのですごく悩みました。最終的には、タクシーに乗る前に少しニコッとしているんです。でも、撮影後もあれで正しかったのかなと自問自答していて。完成した作品で全体が繋がったものを観たときにようやく、これでよかったんだと思えたんです。

Q:今回の『最終章』を観て、『アウトレイジ』の世界に『3-4x10月』(1990)や『ソナチネ』といった初期のテイストが濃密な形で融合されて、北野武ワールドのひとつの完成形ができあがったなという感想を持ちました。

監督:初期のころは観念や情景が多くて、個人的な考え方などは想像してくれって感じだったけれど、“2”の『ビヨンド』からは言いたいことをはっきり口に出して言うようになった。暴力だけど、拳銃じゃなくて、言葉で相手を威圧するというか、喧嘩漫才みたいなものを前面に出すようになったかな。特に西田さんや塩見さんが出てくると、大阪弁でガンガン怒鳴り合うから迫力がスゴいよね。


北野武監督&大森南朋

穏やかな笑顔で時折ジョークを挟みながらシリーズや自作を振り返った北野監督と、やや緊張した面持ちで監督をフォローするように横に座る大森はまるで劇中の大友と市川のようで思わずニンマリ。そこには確かな信頼関係と絆のようなものも感じられて、とても心地よい時間だった。映画『アウトレイジ 最終章』には、そんなふたりの高濃度な“生”が一切の無駄なく焼きつけられている。北野武監督らしい潔い結末には、心の中で静かに拍手を送った。

(C) 2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会

映画『アウトレイジ 最終章』は全国公開中

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