ウーマン村本、テレビの芸人像はウソ!『火花』には本物がある!
映画たて・よこ・ななめ見!
ジブリで宮崎駿監督の出待ちをしちゃうほど映画大好きな村本大輔と、映画に関しては素人同然の中川パラダイスが、あらゆる角度からブッ飛んだ視点で映画トーク。今回は、哀しくておかしい、ディープな芸人の世界に2人も感服! 又吉直樹(ピース)の芥川賞受賞作を、大先輩の板尾創路が映画化した『火花』をななめ見しちゃいます!(取材・文:シネマトゥデイ編集部・入倉功一)
■オオカミでいるか犬になり下がるか
中川:先に(Netflixの)ドラマ版を観てたんやけど、映画版もめっちゃよかったわ!
村本:世間が思ってる芸人って、ほとんどが“テレビタレント”なのよ。自分は芸人だって、言うたらウソをついている奴ら。でもその下には、ホンマにディープなやつらがいっぱいいる。この映画はそんな、“ウソ”をつく前の芸人が描かれてた!
中川:芸人が、一番とんがってる時期を描いてるよな。
村本:最も悩んで葛藤するころやで。例えるなら、絶滅しそうなオオカミのままでいるのか、テレビに飼いならされて犬になるのかっていう時期。この映画に出てるのはオオカミの段階の芸人。実際にこういうやつらは淘汰されてしまうんやけど、俺はこいうやつらこそ、一番世間に取り扱ってほしい!
中川:確かに、ホンマにありそうな芸人像が描かれてて、びっくりしたわ。
村本:映画の中で、コンビで飯屋にいたらパッとブームになった若手がテレビに出てて、店の客が面白いとか言ってるのを聞いてテレビ消すシーンがあったやん? あの若手みたいになりたくはないけど、早く売れないと……っていう、それこそただの嫉妬なんやけど、苦しい葛藤も描かれている。実際、面白いイコール売れるわけではないしな。
■監督・板尾創路の演出に脱帽!
中川:ちょっと大げさに描いてるところもあるんやろうなって思って観たら、めっちゃリアル! 出てくる芸人も、実際にこんな人おるよなって感じやったわ。
村本:お笑いをやっていないと知ることのない、本当にディープな芸人の世界がしっかりと描かれている。板尾さんが監督しているからやろうな。それでいて、菅田くんや桐谷くんが出ていることで、ちゃんと一般のお客に向けた映画になっている。これはすごいわ!
中川:菅田くんが演じてた徳永の相方を、2丁拳銃の(川谷)修士さんがやってるけど、前にこの映画の話を聞いたら、菅田くん、めちゃくちゃ漫才うまかったって言うてはったわ。
村本:2人のコンビ(スパークス)がまだ若いころの漫才シーンで、正直ちょっと下手やなって感じたのよ。俳優さんが漫才やるならこんなもんかって思ってたら、コンビ組んで何年後かの漫才シーンでは、うまなってる。ちゃんと経験を積んだコンビに見えんねん。あの演技力には驚かされたわ!
中川:俺、修士さんにも「あえて(漫才を)下手にやったりしたんすか?」って聞いてん。でも板尾さんには、「下手にはせえへんでええけど、どの突っ込みもおっきい声でやってくれ」って言われたんやって! 確かに若手って、次のボケを考えて声の大きさを抑えるとかっていう意識があまりないから、常に声を張りがち。ただ下手にやらせるんじゃなくて、声の大きさで若手感を出したって聞いて、なるほど! ってなったわ。
■戻りたいけど、戻りたくないあの頃
村本:ネタ見せ(お笑いのオーディション)のシーンあったやろ?
中川:あれな! こっちが漫才見せてるのに、ずっと寝てたような奴に、「ここが面白くない」とか言われて。
村本:「M-1グランプリ」なんかでも、成功もしてない元芸人が予選の審査をやってたりするやん。そんな奴らが映画の中みたいに、死ぬ気でやってる奴の将来をつぶしていくのって、めっちゃ腹立つねん。NSC(吉本総合芸能学院)の講師もバイトやったりするし。でも上に上がるには、そんな奴らにも気に入られないといかん。そういう苦しさもめっちゃ感じたわ。
中川:ああいのうはホンマにあるからなぁ。ネタといえば、劇中の漫才は原作の又吉さんっぽかったわ。ストレートに笑わすんじゃなくて、一個含みがある。
村本:又吉は同期やけど、あいつがどんな思いで小説を書いたのか、知りたくなった。原作は純文学やん? 芸人って、この平成の世の中でも木造でボロボロの集合住宅に住んで、借金抱えてるような、それこそ純文学的な昭和の匂いがプンプンするやつがいっぱいおるからな。
中川:すごく屈折してないと、このストーリーは作られへんやろうな。又吉さんって、いわゆる天才肌とは違うんかな。人前に出るのが好きで、順風満帆にやってきました! って人に、この話は書かれへんと思うわ。
村本:徳永(菅田将暉)にとっての神谷(桐谷健太)みたいな、憧れみたいな存在がいたんかな? 彼女に飯食わしてもらって、ヒモみたいな生活をしてるとこもめっちゃリアル。ホンマこのころって、飯も食えん時期で最悪やなんやけど、どこかうらやましく思えんねん。それはきっと、俺にとってこういう時期が、一番退屈じゃなかったから。もし俺が原作の帯を担当するなら、「全ての芸人が一番戻りたくない時期でもあり、一番戻りたい時期」って書くな!
■村本、解散は切り出されることの方が多い
村本:徳永と神谷が安っすい居酒屋で飲んでたりするやん。俺はもうせぇへんけど、芸人って何千万円も稼ぐようになっても、ああいう所で飲むよな。自分の原点に集まるっていうか。あれは習性みたいなもんやで。そういうところ、芸人って悲しいわ……。
中川:コンビが解散するシーンも悲しかったなぁ。自分もこんな経験してるん?
村本:そらそうよ。俺は切り出されることの方が多かったわ。
中川:切なかったわ~。俺の場合は、周りの芸人仲間から相談を受けることがあんねん。解散しようとか、辞めようとか思ってるって。俺も気持ちはわかるから、続けたら? とか簡単に言われへん。
村本:芸人の世界って、言うたら「浦島太郎」の竜宮城みたいなものやからな。自分が年老いていくのに気づかんけど、外の世界では、昔の友達がみんなスーツ着てちゃんとした会社に勤めたりしている。でも、自分の周りには夢を追ってる奴しかおらんから、飯が食えなくてもずっと居てしまうねん。
中川:それが切ないけど、みんな幸せそうにも見えてしまう。ぐっと胸打たれるようなシーンがいっぱいあったなぁ……。
村本:哀愁なくして笑いはできんと思う。芸人やってる人間って、やっぱりすさまじく哀しいバックグラウンドがあったりするのよ。この映画には、そんなステージでキラキラしてるだけじゃない、芸人の影の部分が詰まっている。ホンマに、結晶のような映画やで!
『火花』
漫才の世界に飛び込んだものの結果を出せずにいる男と先輩芸人。厳しいお笑いの世界に生きる若者たちの姿を、板尾創路監督が、もの悲しくも、どこか優しい目線で描く青春映画。
(C) 2017『火花』製作委員会
ウーマンラッシュアワー・プロフィール
2008年に結成された、村本大輔と中川パラダイスによるお笑いコンビ。2011年「ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞受賞、2012年「THE MANZAI 2012」決勝進出、2013年NHK上方漫才コンテスト優勝など数々の賞に輝き、4月に東京進出。先ごろ行われた「THE MANZAI 2013」で見事優勝し、3代目王者に輝いた。
村本大輔 1980年生まれ。福井県出身。自分でも「ネットに書き込まれるうわさはほとんどが事実です!」と認めている、自称・ゲス野郎芸人。だがその一方で、ジブリ作品やピクサーなどの心温まるアニメが大好きで、映画『あなたへ』で号泣するほどのピュアな一面も持ち合わせる大の映画好き。水産高校に通っていたため(中退)、お魚系や海洋ネタにも意外に詳しい。「AbemaNews」チャンネルのニュース番組「AbemaPrime」(毎週月~金曜日21:00~23:00生放送)にて月曜レギュラー出演。
中川パラダイス 1981年生まれ。大阪府出身。これまで10回もコンビ解散している村本と唯一トラブルもなくコンビを続けている広い心の持ち主。2012年に入籍し、現在1児の子育てを満喫中のイクメンパパでもある。映画に関しては、「王道なものしか観ない」というフツーレベル。