『鋼の錬金術師』山田涼介インタビュー スタントであっても自分がエドを演じたかった
荒川弘による世界的人気コミックを初めて実写化した映画『鋼の錬金術師』。主演を務めた山田涼介は、まさに原作の流行と共に育った世代であり彼自身も熱心なハガレンファンだった。ファンだからこそ譲れなかったもの、そして彼が感じた主人公エドのカッコよさ。本作にかける思いのたけを山田自身が語った。
■今回のアクションはオール僕です
Q:まずこの作品の話があった時に、ご自身も好きな作品ということもあり結構なプレッシャーも?
そうですね、正直やりたい気持ちとやりたくない気持ちと半々ぐらいでありまして。だれにも譲りたくない役の一つでもあったので、できてよかったですね。
演じている時はもちろん、プレッシャーは今も感じています。ですがそのプレッシャーは忘れちゃいけないプレッシャーだと僕は思っているので。いい緊張感の中で撮影ができたし、その緊張感の中で公開を楽しみにできているんじゃないかな。
Q:かなり肉体を鍛えていることがわかるシーンもありましたが、今回の作品における体つくりはどれほど?
筋肉が増えたので体重は増えたとは思うんですけど、どれくらいだったかな……忘れちゃいました。役が決まって撮影に入る2か月前くらいから、腕立て伏せなどでちょいちょい鍛えていましたね。
Q:今回ものすごいアクションにも挑戦されていますが、アクションの練習期間などは?
アクションですか? アクションの練習期間はないですよ。
Q:結構な高さから飛び降りるシーンもありましたが……。
そうですね。あのシーンはクランクアップの日に撮りましたが、最初の戦闘シーンはイタリアと日本のいろんなところが混ざっていて。スクリーンではどこがイタリアで、どこが日本かわからないくらいになっていると思います。その屋根から飛び降りるシーンは、高いところから命綱なしで飛び降りました。
今回は本当に代わりにアクションを務めるスタントはないんです。全部、オール僕です。
Q:ですがやはり製作側の気持ちになると、山田さんにはケガさせてはいけないというか……スタッフ側はスタントの用意をしていたのでは?
でも、できちゃうから(笑)。できそうだな、これはいけるいける。そんなノリです。絶対、こーんな高さから飛び降りるのはやらないです。この屋根から……まあでも屋根も5メートルぐらいだったので、いけるいけると言って、飛びましたね。
Q:そこに躊躇はなかったわけですね。
ないですね。基本的に自分以外の方にはやらせたくなかったので。
■僕が初恋の人を演じていいのかな
Q:山田さんのエドやハガレンに対する愛をひしひしと感じるのですが、ハガレンと出会ったきっかけは?
きっかけは全然覚えてはいないんです。その当時はやっていたという印象が強くて。10歳になったか、なっていなかったかくらいの頃だと思うんですけど。原作漫画から見始めて、アニメも見て。
子供の頃って、魔法や錬金術とか不思議なものが好きだったりするじゃないですか。あと敵も強いので、「頑張れー! エドー!」と応援してみたり。子供の頃はその目線で見ていたのですが、ストーリー自体はものすごく大人の内容なんですよね。大人になって見返すと見方が変わるというか。世代を選ばない作品だと思います。
Q:原作漫画だけではなく、アニメ作品も人気ということで、さまざまなエド像がファンの中にはあると思うのですが、山田さんが考えるエドの人間像は?
男が憧れる男というか。エドって、物語では15~16歳くらいの設定だと思うんですけど、まあ子供でこんな経験しているやついない。本当に壮絶な人生を歩んでいると思います。そしてブレない男はかっこいいと思いますし、僕にとって年下ながら尊敬できる人物です。……エドってね、女性の初恋の相手とかに結構挙がっているらしいんですよね。それが非常にプレッシャーでした(笑)。僕が初恋の人を演じていいのかな、みたいな(笑)。男女両方から見てかっこいい、とにかくかっこいいブレない男なんですよね。
Q:エドの魅力は大人っぽさと子供っぽさを併せ持ったところにもありますが、山田さんはそのバランスをうまく表現されていらっしゃる印象を受けました。
原作やアニメのエドは、すごくコミカルなシーンが多いんですよね。だからどうしてもそこは入れたいと思っていて。走り方一つやふとした表情にしても、ちょっとコミカルな要素を入れてみたり。でも原作のままやってしまうと、ウソくさくなってしまうので、監督と話しながら現場で調整していました。
Q:原作の表現に寄りすぎず離れすぎずのバランスは、非常に難しかったのでは?
難しいですよ。エドを演じることが決まった時から難しさはほぼ承知の上でした。その部分以外も、全てが難しい役なので。それは、アニメでエドの声優だった朴路美さんも仰っていたのですが、エドを演じた者同士にしかわからないことがあるんです。その時には「日本中探してもわたしと山田くんにしかわからない苦労だと思う」って言っていただいて、本当に難しかったですね。
■納得がいかないシーンは無理を言ってでも撮り直した
Q:今作、冒頭から迫力ありましたね。
すごかったね! あんなになっていると思わなかったですね。実はキメラと戦うシーンも、ブルーバックを使って撮影スタジオで撮ったんですよ。
実は今回、カットによって撮影地が日本だったりイタリアだったり、変わっているんです。石獣がバーンと出てくるところはイタリアで、その後の錬成シーンは日本で、とか。だから(予告編でもあった)ヤリが出てくるシーンは日本なんです。ほかにもキメラと戦っている時もイタリアと日本のパートがあって(笑)。撮影では気持ちを繋げることが大変でした。
Q:その撮影に挑んだ監督もすごいですね。
すごいですよ! 曽利(文彦)監督じゃなければ、この映画は撮れなかったと思います。
Q:兄弟げんかのシーンも素晴らしかったですね。
そうですね。撮影時には相手がいなかったので、僕がその場で演じていた時よりも、映像だとこんなにいいシーンになるんだって思いました。あのシーンは真夏の40℃近いスタジオでみんなで汗だくになりながら、相手のアルがいない状態でやっていました。だから本当に一生懸命やったという記憶はあるのですが、あんまり詳しいことは覚えていないんです。でも出来上がった作品を観て、本当に素敵なシーンになったなって思っています。監督も自身自分が思い描いていたものより遥かに素敵なシーンになったというふうに仰っていて、大満足なワンシーンでした。
Q:別のシーンでは原作の「ド三流」「格の違いってやつを見せてやる!」のセリフもありましたが、このセリフを言う時にはハガレンファンの山田さんもドキドキされたのでは?
ド三流はねー、なかなか言わないよね(笑)。僕はここまでタンカきれなかったですね。原作のままやるとクサくなってしまうので、すごくテンションを考えました。
原作ではエドは「格の違いってやつを見せてやる!」と言いますが、ラストでは仲間というものができているので、「オレ達とおまえとの(格の違い)」って言うんですよね。原作のそういう細かな配慮には、鳥肌が立ちますよね。彼にはちゃんと仲間ができたことでセリフが変わったんだって……ただ僕は原作ほどタンカきることはできませんでしたね。強く言うことはできなかったかな。
Q:できなかったというよりもあえてしなかった?
そうですね、もっとボッコボコにやり合っている最中での一言だったらよかったのですが、映画では人質が取られている状況で。その後に錬成シーンも入るので、そこまでタンカきることができないかなという。コミカルな部分でもあるので原作ほどやってしまうと、少し違うなと思いました。
実際僕も、このシーンだけはやり直したんですよ。やっぱり原作の表現の方が……と思って、「すみません、監督あの部分撮り直してもいいですか?」って。アフレコとかも全部終わった後に、無理してお願いしたのですが、声を入れてみたらやっぱり違ったんですよね。やっぱり強く言っちゃダメなんだ、現場でやったのが正解だったんだなと思いました。
Q:どちらのパターンも試されたので、悔いも残らず?
そうですね、自分でも引っかかっていた部分があったので。やってみて、やはり正解だったんだと思いました。
Q:監督に自ら撮り直しをお願いされたりと、こだわりの強さが見えますね。
妥協はしたくないので。朴さんとご飯会をさせていただいた時に、朴さんの熱い思いや声の出し方も聞いていて。もうちょっとこうすればよかった……と反省したり。自分で見て違うなと思ったところは、無理を言ってでもお願いしていました。自分が納得いく作品じゃないと見せたくないし、世に出しちゃいけないと思うので、どうしてもやらせてほしいとお願いしました。そういうことも含めて、監督とああでもないこうでもないとお互いに無理を言い合って完成した作品ですね。
Q:ちなみに監督からの無理でパッと浮かぶものはありますか?
全部ですよ。泣きの芝居とかもです。ドラマや映画だと感情の流れがあるので一連で撮るんですが、最後の泣き芝居はめちゃくちゃ別視点からのカットが入っています。CGの関係もあるのですが、初めての経験だったので結構難しかったですね。
Q:お互いにそれを受け入れるということは、山田さんの熱意をスタッフの方々も受け止めてくれていたということですね。
そうですね、監督には本当に感謝しています。
取材後記
撮影中のエピソードを話しながらも、山田の口からついて出るのは原作「鋼の錬金術師」への愛。語っている時の山田のまなざしはまさにホンモノ。妥協しない彼だからこそ、今作の主演を務めきることができたのだろう。彼が曽利文彦監督と共に作り上げた映画は、原作ファンも思わずよし、とこぶしを握ってしまう新たなハガレンワールドを提供する。(取材・文:井本早紀)
(C) 2017 荒川弘/SQUARE ENIX (C) 2017映画「鋼の錬金術師」製作委員会
映画『鋼の錬金術師』は12月1日より全国公開 オフィシャルサイト