あの役も!映画で存在感を見せるK-POP演技ドル
今週のクローズアップ
日本ではジャニーズやAKB48といったアイドルたちが映画界で活躍していますが、12月22日公開のジャッキー・チェン主演映画『カンフー・ヨガ』にはEXOの中国人メンバーであるレイ、23日公開の『Guest House』には超新星のソンジェが出演するなど、K-POPアイドルも映画界に続々と進出しています。近年は俳優と共演しても遜色ない演技力を見せる“演技ドル”が次々と登場し、注目を浴びるようになってきていますが、彼らがアイドルであることを知らずに観ている映画ファンも多いのではないでしょうか。そこで、今週は映画界で存在感を発揮している演技ドルを紹介します。(編集部・吉田唯)
“演技ドル”といえばこの人!現役アイドルたち
今年スポットライトを浴びた演技ドルの一人といえば、肉体派で「野獣ドル」とも呼ばれる2PMのジュノ。ドラマ「キム課長(原題)」で悪役初挑戦にもかかわらず、どこか憎めないキャラクター像を作りあげ、一躍話題の演技ドルの仲間入りを果たしました。実は、これ以前にもジュノはソル・ギョング(『シルミド/SILMIDO』)、チョン・ウソン(『私の頭の中の消しゴム』)ら共演のヒット作『監視者たち』(2013)で警察の監視班に所属するムードメーカー・リスを演じ、豪華な顔ぶれの中で助演をしっかりと務めあげているほか、2015年の『二十歳(ハタチ)』ではアルバイトで貧しい家庭を支えながら漫画家を夢見るドンウ役で同年代の俳優と息の合ったコミカルな演技を繰り広げ、イ・ビョンホン主演『メモリーズ 追憶の剣』にも出演するなど、映画界を中心に演技キャリアを重ねていたのですが、ついに「キム課長(原題)」でその演技力がお茶の間にも広く知られるようになりました。柔和な笑顔が印象的ですが、笑顔が似合う純朴な役だけでなく、涼やかな目元から生み出される鋭い視線を生かした悪役など演技の幅が広く、主演だけでなく脇でも輝けるのがジュノの強みです。現在は韓国で放送中のドラマ「ただ愛する仲(原題)」に出演中で、映画界にはどんな姿で戻ってくるのかに期待です。
そして、今もっとも注目されている演技ドルの代表格は、日本でも有名なBoAや東方神起の事務所の後輩であるEXOのメンバーD.O.です。2014年のドラマ「大丈夫、愛だ」で俳優デビューし、2014 APAN STAR AWARDS 新人男優賞を受賞。スクリーンデビュー作となった社会派映画の『明日へ』(2014)では雇用解除の撤回を求めて企業と闘う主婦の息子役を務め、時には親に反抗しながらも成長していく思春期の少年を見事に体現しました。2016年には映画『純情』『あの日、兄貴が灯した光』が公開され、『あの日、兄貴が灯した光』では失明した柔道選手・ドゥヨンという容易ではない役どころにチャレンジし、韓国の二大映画賞の一つにあたる第38回青龍映画賞で新人男優賞を受賞するなど素晴らしい結果を残しました。サイコパスの凶悪犯役から純朴な学生役まで、そのつぶらな瞳の表情が万華鏡のように変化していくさまは俳優に引けを取らず、共演した先輩俳優がそろって彼の演技を絶賛するのも納得の実力を持っています。ハ・ジョンウ(『お嬢さん』)やチャ・テヒョン(『猟奇的な彼女』)ら豪華キャストが集う『神と共に(原題)』(12月20日韓国公開)に出演しているほか、今後の出演作には篠原涼子主演で日本版の製作も決定している『サニー 永遠の仲間たち』で知られるカン・ヒョンチョル監督の新作『スイングキッズ(原題)』や、声優を務めたアニメ映画『アンダードッグ(原題)』の公開が控えています。
D.O.の華やかな経歴が目立ちますが、人気グループとあってスホ(『グローリーデイ』)やシウミン(『キム・ソンダル 大河を売った詐欺師たち』)、チャンヨル(『チャンス商会~初恋を探して~』)らほかのEXOメンバーも俳優業に挑戦しています。また元EXOメンバー組の活躍も目覚ましく、クリス・ウー(ウー・イーファン)は『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』『トリプルX:再起動』、ルハンはマット・デイモン主演の『グレートウォール』でハリウッド進出を果たしています。
女性陣に目を向けてみると、映画界で名前を知られている代表的な演技ドルは miss A のスジでしょう。2011年のヒットドラマ「ドリームハイ」では演技力不足で物議を醸したものの、回が進むにつれて上達する姿を見せて汚名を返上し、翌2012年に韓国で大ブームを巻き起こした映画『建築学概論』でヒロイン・ソヨンの学生時代を演じて一躍時の人に。第48回 百想芸術大賞の映画部門で新人演技賞に輝いたほか、初恋を描いた作品の内容にちなんだ“国民の初恋”という肩書でも有名になりました。その後数々のドラマに出演し、役者としての道を歩み始めたスジは、伝統芸能であるパンソリの初の女流唄い手・チェソン役で『花、香る歌』(2015)に出演。独特の発声を1年にわたり猛特訓し、吹き替えなしで臨みました。最近はドラマ出演が続いており、清純派なイメージから脱却してお金に貪欲なドキュメンタリープロデューサー役に取り組むなど女優として着実にステップアップしているので、映画ファンとしては銀幕へのカムバックが待ち遠しいかぎり。miss A 自体は事務所を離れるメンバーが出たことにより事実上の解散となってしまいましたが、歌手としてソロ活動も順調なので、今後も多方面でその魅力を発揮するでしょう。
スキャンダルで今後どうなる?
2016~2017年は、有名な演技ドルのスキャンダルが相次いだ年でもありました。東方神起としてデビュー後、現在JYJのメンバーとして活動しているパク・ユチョンは、ドラマが評価されて演技ドルの優良株に。そして、『母なる証明』『グエムル -漢江の怪物-』などのポン・ジュノ監督が脚本・製作を務め、第87回アカデミー賞外国語映画賞韓国代表作品に選出された『海にかかる霧』(2014)でスクリーンデビューし、中国からの密航者を乗せる船の年少乗組員・ドンシクを演じました。朴訥で純情な青年に変身した姿はアイドルとは信じられないほどで、この年の韓国映画評論家協会賞、大鐘賞映画祭、青龍映画賞などで新人男優賞を総なめにしました。映画界でも華々しいスタートを切ったユチョンですが、2016年に女性が性的暴行を受けたと告訴する事態に。無嫌疑処分を受けましたが、この出来事は日本でも報道されるなど国を超えて衝撃が広がりました。さらに、社会服務要員(軍隊の代わりに役所や社会福祉施設で勤務する兵役)として入隊中の今年4月には結婚を電撃発表し、8月の除隊時には涙ながらにファンに謝罪。除隊現場には多くのファンが駆けつけていることもあり、今後どんな道をたどるのか注目されています。
もう一人、日本でもニュースになったアイドルにはBIGBANGのT.O.Pがいます。映画『戦火の中へ』(2010)では学徒兵のリーダー・ジャンボム役で青龍映画祭の新人男優賞と人気スター賞を受賞し、演技ドルの快挙として話題を呼んだT.O.P。その後も妹の命を守るために北朝鮮の工作員にならざるを得なかった青年・ミョンフン役で『同窓生』(2013)に出演、若き天才いかさま師テギルにふんした人気マンガ実写化映画『タチャ~神の手~』(2014)ではR指定作品の最速動員記録を塗り替えるなど、チケットパワーを証明して演技の道でも成功を収めていましたが、今年6月に大麻吸引が発覚。それまで所属していた義務警察(軍隊の代わりに警察の業務を補佐する兵役で、芸能人からの人気が高いことで知られています)から強制除隊され、現在は社会服務要員として勤務しており、兵役後の動向に視線が集まるのは必至です。
演技力を認められ俳優に転身!元アイドルも活躍
韓国には「7年のジンクス」という言葉があります。7年後に解散、脱退などグループに変化が訪れることが多いため、この時期が近づいたアイドルはジンクスを乗り越えられるかどうかに関心が集まるのです。そうした理由から“アイドルの寿命は短い”とされる韓国で、事務所との契約満了後に俳優に転身するアイドルは少なくありません。
そうしたケースの中で、近年俳優として成功した代表例はZE:A出身のシワンです。アイドル時代に出演したヒットドラマ「太陽を抱く月」(2012)で脚光を浴び、2013年には本国で1,100万人以上を動員した大ヒット映画『弁護人』で不当に逮捕された青年・ジヌ役を務め、水責めをはじめとする壮絶な拷問シーンに挑むなど体当たりの演技を披露。撮影中は同作の主演で韓国を代表する演技派俳優ソン・ガンホ(『シュリ』)に時には叱られたこともあったと振り返っていますが、その演技力に観客からは絶賛が相次ぎました。その後、大手総合商社を舞台に会社員のリアルを描き、日本でも中島裕翔主演で「HOPE ~期待ゼロの新入社員~」としてリメイクされたヒューマンドラマ「ミセン -未生-」(2014)で主演を務めて社会現象を起こすなど、快進撃が続きます。さらに、2017年に韓国公開された『不汗党(原題)』では、演技ドルとして初のカンヌ国際映画祭参加(ミッドナイトスクリーニング部門)を果たしました。現在は入隊中のためしばらくは姿を見られませんが、復帰後に選ぶ作品が話題になることが予想されます。
同じく入隊中で、アイドル出身の俳優には元MBLAQのイ・ジュンがいます。アイドル時代は演技活動をしながらも、率直なトークを武器にバラエティー番組などで活躍していましたが、2013年に『嘆きのピエタ』などのキム・ギドク監督が製作・脚本を担当した映画『俳優は俳優だ』でトップに上りつめるも転落する俳優オ・ヨンにふんし、狂気に染まっていくさまを大胆に表現。アイドルとしては破格なベッドシーンにも挑戦し、一躍映画界でも話題の人物となりました。グループ脱退後に本格的に俳優への道を歩み出したジュンは、内田けんじ監督の『鍵泥棒のメソッド』を原案にしたアクションコメディー『LUCK-KEY/ラッキー』(2016)で記憶喪失の殺し屋に成りすます売れない役者(オリジナル版では堺雅人が演じたキャラクター)にふんし、同作は口コミで大ヒットを記録しました。その後も韓国にゾンビブームを巻き起こした『新感染 ファイナル・エクスプレス』の前日譚にあたるアニメーション映画『ソウル・ステーション/パンデミック』(2016)で声優を務めるなど、華やかなフィルモグラフィーを誇っています。落ちぶれた俳優やサイコパスといったクセの強い役柄で果敢に新しい扉を開き、いずれも高評価を得ているだけあって、今後どんな役でスクリーンに登場するのかが気になる人物です。
チェックしておきたい注目株
今後映画界での活躍が期待できる注目株も紹介します! 一人目は、広告の立て看板がすぐになくなることで話題になり、CMクイーンに輝いたAOAのソリョンです。ドラマ「花より男子~Boys Over Flowers」などで日本でも人気を誇る俳優のイ・ミンホが主演を務めた『江南ブルース』(2015)で銀幕に初登場したソリョン。同作では出演シーンは短いながらも、イ・ミンホ演じる主人公を実の兄のように慕う優しい女性・ソネ役を務めあげました。その後数本ドラマに出演し、2018年1月27日に日本公開を控える『殺人者の記憶法』で映画界に戻ってきたソリョンは、アルツハイマー病を患う連続殺人犯の娘・ウンヒ役でソル・ギョング、キム・ナムギル(『パイレーツ』)といった演技派たちと競演しました。来年にはチョ・インソン(『卑劣な街』)、パク・ソンウン(『新しき世界』)、チョン・ウンチェ(『ヘウォンの恋愛日記』)といった実力派俳優がそろう超大作時代劇『安市城(原題)』が韓国で公開予定。女性兵士部隊のリーダー役を務めるとされており、これまで出演してきた映画とは異なる新たな一面を見ることができそうです。
男性では、すでに数々のドラマに出演しているB1A4のジニョンが有望株です。2014年の日本公開時に多数のファンを生み出し、その後タイやベトナム、中国、日本(多部未華子主演)など世界中でリメイク版が製作された映画『怪しい彼女』の、20歳に若返った老女の孫息子でバンドマンのパン・ジハにふんしてスクリーンデビューを飾ったジニョン。同役はオーディションで獲得しており、この頃から俳優としての素質を見せていました。その後、何本かのドラマを経験し、昨年大ヒットを記録したドラマ「雲が描いた月明り」でエリート官僚役を務め、初時代劇にもかかわらず好評を受けて俳優として再注目されました。2018年にはファンタジーコメディー『僕の中のあいつ(原題)』で映画界に再び登場する予定。エリートヤクザと体が入れ替わってしまういじめられっ子の高校生を演じるため、2つの人格が入れ替わる難易度の高い演技が要求されています。
ドラマ界に目を向ければ、女性は少女時代のユナ、IU、Apinkのチョン・ウンジ、Girl's Dayのヘリ、f(x)のクリスタル、男性はCNBLUE、BTOBのソンジェ、INFINITEのエル、Highlightのユン・ドゥジュンをはじめとした多くのアイドルが演技ドルとして活動しています。韓国はアメリカのように映画俳優とドラマ俳優の線引きがハッキリとしていて、社会的に映画俳優の方が格上な印象があることに加え、多くのドラマは過密スケジュールで撮影が進行するため、一度映画界で成功するとスケジュール的に負担が多いドラマ界に戻ってこない俳優が多いと言われています。そんな中で演技ドルが競わなくてはいけないのは同じ演技ドルではなく厳しい競争を勝ち抜いた映画俳優たちであるため、準備の整っていない状態で俳優業に踏み出すと酷評されることも少なくありません。多くのアイドルが映画に挑戦する中で、俳優として存在感を発揮できるのは果たして誰なのか、今後も演技ドルの活躍から目が離せません。