なぜ英国スパイはこんなにダンディなの?名スパイたちの魅力マスト4
『キングスマン:ゴールデン・サークル』が1月5日に公開される。このシリーズは、スパイ映画なだけではなく、“英国”のスパイ映画なところがポイント。英国スパイならではの魅力がギュッと凝縮されている。そこで、英国ファンの視点から、映画に登場する英国スパイの魅力を探ってみた。(文・平沢薫)
英国スパイと言えば、まず有名なのは007ことジェームズ・ボンドだが、英国が誇るスパイはそれだけじゃない。忘れちゃいけないのは『キングスマン』も元ネタにした2人、「おしゃれ(秘)探偵」(1961~1969)シリーズのジョン・スティードと『国際諜報局』(1964)のハリー・パーマー。『キングスマン』でコリン・ファースが演じた紳士スパイ、ハリーが傘を武器にする紳士なのはジョン・スティードと同じ。ハリーの名前とメガネは、ハリー・パーマーと同じなのだ。
「おしゃれ(秘)探偵」は『007』シリーズが公開された1962年の1年前、1961年から1969年に放送された英国の人気TVシリーズ。主人公の諜報員ジョン・スティードは、山高帽と傘に三揃いのスーツの、見るからに典型的な英国紳士。この作品をリメイクしたのが、1998年のレイフ・ファインズ&ユマ・サーマン共演の『アベンジャーズ』。映画としてはイマイチだが、ドラマ展開よりも2人の意味深な会話を優先し、定番英国アイテムの傘、紅茶、お天気の話、テディベアなどが異様なほど詰め込まれた奇妙な作品になっていて、英国ファンにはある意味、楽しめる。この映画に主演したレイフ・ファインズが、ダニエル・クレイグ版007でボンドの上司役を演じているのにも、思わずニヤリだ。
『国際諜報局』シリーズは1964年、1966年、1967年に製作された映画3部作、1994年のTV映画2作の計5作。主人公ハリー・パーマーは、このジョン・スティードやジェームズ・ボンドの真逆。労働者階級なまりで話し、スーツは安物。自分でスーパーで材料を買って料理もする。上司には反抗的で、ジョークが多い。この個性的なスパイをマイケル・ケインがクールに演じて人気を集めた。庶民派スパイという点で『キングスマン』のエグジーにも通じるものがある。ケインが『キングスマン』で諜報組織の最高幹部アーサーを演じているのも、このキャラを踏まえている。
そしてこの名スパイ3人をみてみると、英国スパイの魅力ポイントが見えてくる。
ポイント1:英国スパイは英国紳士である
“紳士”とは生まれではなく心意気のこと。英国スパイの根底には"紳士はこうあるべき"という品格がある。もっとも紳士教育を受けた上流階級出身のスパイも多いが、それはかつて実際の英国諜報部がそうだったから。ジェームズ・ボンドはオックスフォード出身だし『キングスマン』の候補者チャーリーたちは、エグジーにオックスフォードかケンブリッジ、どちらの出身かと聞く。そのチャーリーを演じたエドワード・ホルクロフトが、ベン・ウィショー主演のドラマ「ロンドン・スパイ」で演じた英国スパイも上流階級出身だった。『キングスマン』のハリーが立っているだけで英国紳士の品格を感じさせるのは、やはり英国スパイならではの魅力だ。
ポイント2:英国スパイは粋な会話がマスト
『007』から『キングスマン』まで、シャレたセリフとジョークの応酬は英国スパイの得意技。『007』は美女に「私の口は大きすぎない?」と聞かれて「僕にはぴったりだよ」と答えるなど決めセリフの宝庫。『国際諜報局』のハリーは、仲間から細かな注意事項を話されると「俺の代わりに覚えておいてくれ」と返して、そのまま立ち去る。
ポイント3:英国スパイはガジェットがマスト
『007/オクトパシー』のワニ型潜水艦を筆頭に、英国スパイといえばガジェット的な秘密の小道具が欠かせない。しかもそれが紳士の必需品である時計、ライター、ペン、薄手のトランクケースの形状をしているのが英国流だ。加えて英国らしいのは、小道具製作者たちのオタクな気質。何しろ英国は鉄道オタクや切手オタクなど、オタクの名産地。『007』の兵器担当Qは、誰が演じても007に新兵器を説明するときの嬉しさを隠しきれない感じ、自慢な気持ちがにじみ出る感じがオタクっぽく、そこも英国ファンにはたまらない。
ポイント4:英国スパイはスーツがマスト
英国スパイは、スーツ姿が決まってこそ。『キングスマン』のハリーも「諜報員は現代の騎士、スーツは現代の鎧」と宣言している。実際、ハリー役のコリン・ファースはスーツがよく似合う俳優。デザイナーの**トム・フォードの監督作『シングルマン』でもスーツを見事に着こなしている。『007』シリーズはスーツにこだわり、時代とともにデザイナーを変更。初代ボンド、ショーン・コネリー版は第1作『007/ドクター・ノオ』(1962)から最終作までロンドンの紳士服店ンソニー・シンクレアの伝統的なスーツで、その後もその形を踏襲。5代目ボンド、ピアース・ブロスナン版の第1作『007/ゴールデンアイ』(1995)で、イタリアのブランド、ブリオーニの軽い素材のスーツにチェンジ。そしてダニエル・クレイグ版の第2作の『007/慰めの報酬』(2008)からは、アメリカのブランド、トム・フォードの、身体にフィットしたスーツになった。
一方『キングスマン』は、徹底的に英国仕様。彼らの本拠地を偽装している紳士服店は、実際にロンドンの名店街サヴィルロウの1849年創立の老舗ハンツマンがモデル。キングスマンたちのスーツは、英国のメンズ専用高級オンラインショップ、ミスターポーターが協力、シャツは英国王室愛用のターンブル&アッサー、ネクタイはロンドンのブランド、ドレイクストというこだわりぶり。スーツを愛でるのも英国スパイ映画の楽しみなのだ。
ポイント5:英国スパイはマティーニがマスト
シリーズ第1作『007/ドクター・ノオ』でショーン・コネリー扮するボンドが「マティーニを。ステアではなく、シェイクで」と言って以来、このセリフはほとんど全作に登場。『キングスマン』2作にも出てくる。こんなところまで自分の流儀にこだわるのも、英国スパイの魅力なのだ。この頃の英国スパイ映画では『裏切りのサーカス』『誰よりも狙われた男』などリアルなタッチの映画もあるが、そこでもみんながスーツを決めて、自分の流儀にこだわりまくる。ドラマの根底にある英国スパイの魅力は変わらないのではないだろうか。