第68回ベルリン国際映画祭コンペティション部門19作品紹介
第68回ベルリン国際映画祭
2月15~25日(現地時間)に開催される第68回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門19作品を紹介(コンペティション外を除く)。今年の審査委員長は、自国ドイツから、映画『クラウド アトラス』や『王様のためのホログラム』などのトム・ティクヴァ監督が担当。日本からのコンペティション部門への出品はないものの、日本を舞台にしたウェス・アンダーソン監督によるストップモーションアニメがオープニングを飾るほか、ホアキン・フェニックスがガス・ヴァン・サント監督と久々のタッグを組んだ新作に、イザベル・ユペール&ギャスパー・ウリエル共演作など、世界24か国が参加。栄えある金熊賞は誰の手に! 今年も三大映画賞が幕を開けます。(文:岩永めぐみ/平野敦子/本間綾香/編集部 浅野麗)
<金熊賞>『タッチ・ミー・ノット(原題) / Touch Me Not』
製作国:ルーマニア、ドイツ、チェコ、ブルガリア、フランス
監督:アディナ・ピンティリエ
キャスト:ローラ・ベンソン、トーマス・レマルキス
【ストーリー】 マネキン工場で働く孤独な中年女性ローラと、マッサージ師として働く俳優・ダンサー志望のテューダー、彼の俳優仲間で不幸な恋愛を続けているポール。3人の人生が、思いがけず交錯していき……。
【ここに注目】 ルーマニア出身の女性映像作家アディナ・ ピンティリエが、『お家に帰りたい』のローラ・ベンソン主演、『X-MEN:アポカリプス』のトーマス・レマルキス共演で、長編初メガホンを取った本作。誰かとつながりたいという欲望をテーマに、ローラの人生がある出来事により大きく転換していくさまを描いている。製作は、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した『4ヶ月、3週と2日』(クリスティアン・ムンジウ監督作)のフィリップ・アヴリル。
<審査員賞>『マグ(英題) / Mug』
製作国:ポーランド
監督:マウゴシュカ・シュモフスカ
キャスト:マテウシュ・コシチュキェヴィチ、アグニェシュカ・ポトシャドリク
【ストーリー】 ヘヴィメタルとガールフレンド、ペットの犬が好きな青年ヤチェクは、家族や町の人に面白くて変わった男だと思われている。ある日、建築現場で事故に遭い、顔面移植手術を受けた彼は、自身のアイデンティティーと直面することになり……。
【ここに注目】 メガホンを取ったマウゴシュカ・シュモフスカは、『君はひとりじゃない』でベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞したポーランドの女性監督。「事故で顔を失った人間についての現代の寓話」だとプロデューサー言うように、顔面の移植手術をした青年に起きるアイデンティティーの問題を描いた作品。主演は、ポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキの『イレブン・ミニッツ』などに出演するマテウシュ・コシチュキェヴィチ。
<最優秀監督賞>ウェス・アンダーソン『犬ヶ島』
製作国:アメリカ
監督:ウェス・アンダーソン
キャスト:ブライアン・クランストン、コーユー・ランキン
【ストーリー】 犬の伝染病が蔓延し、犬たちはゴミの島に隔離された近未来の日本。少年アタリは、行方不明になった愛犬を探すためその島へと向かい、そこで出会った5匹の犬たちと協力しながら、冒険を繰り広げる。
【ここに注目】 オープニング作品として上映されるウェス・アンダーソン監督最新作は、日本を舞台にしたストップモーションアニメ。声優としてビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、エドワード・ノートン、スカーレット・ヨハンソンに加え、日本からもRADWIMPSの野田洋次郎、村上虹郎、渡辺謙、夏木マリ、野村訓市らが名を連ねる。ちなみに、アンダーソン監督は前作『グランド・ブダペスト・ホテル』で銀熊賞(審査員特別賞)を受賞。
<最優秀女優賞>アーネ・ブルン/<アルフレート・バウアー賞>『ザ・エアレセズ(英題) / The Heiresses』
製作国:パラグアイ、ドイツ、ウルグアイ、ノルウェー、ブラジル、フランス
監督:マルチェロ・マルティネッシ
キャスト:アーネ・ブルン、マルガリータ・イルン
【ストーリー】 遺産相続により、働くこともなく優雅な生活を送ってきた女性。だが、60代になり自分が受け取った財産も底を尽き、これまでのような悠々自適の生活が送れないという現実に気付いた彼女は、生きていく道を探ろうとするが……。
【ここに注目】 パラグアイ出身のマルセロ・マルティネッシ監督がメガホンをとり、長い間社会と隔絶した世界で生きてきたヒロインが突如直面する現実を描いた風刺ドラマ。長期に渡る独裁政権が終わったと思いきや、2012年には新たなクーデターが起きた、政情不安定な祖国パラグアイへの複雑な思いを下敷きに、ヒロインの心の葛藤や恐れを浮き彫りにしている。本映画祭初ノミネートの新進気鋭の監督が、どこまで賞に食い込んでいけるかに注目。
<最優秀男優賞>アントニー・バジョン『ザ・プレイヤー(英題) / The Prayer』
製作国:フランス
監督:セドリック・カーン
キャスト:アントニー・バジョン、ダミアン・シャペル
【ストーリー】 薬物依存を断ち切るため、人里離れた山あいのリハビリ施設へとやって来た22歳のトマ。祈りや労働による治療の中、やがて彼は、友情や礼儀、愛、信仰を知ることになり……。
【ここに注目】 フランスの若手作家オード・ウォーカーが執筆のために行った、薬物依存者が試みた宗教的な体験についての調査を原案に、ベルリン国際映画祭コンペティション部門への出品は2度目となるセドリック・カーン監督がメガホンを取った人間ドラマ。主演には、若手俳優のアントニー・バジョンを抜擢。主人公と交流するシスターの役で、ニュー・ジャーマン・シネマを代表する女優のハンナ・シグラも出演している。
<最優秀脚本賞>マヌエル・アルカラ&アロンソ・ルイスパラシオス『ミュージアム(英題) / Museum』
製作国:メキシコ
監督:アロンソ・ルイスパラシオス
キャスト:ガエル・ガルシア・ベルナル、アルフレド・カストロ
【ストーリー】 1985年、メキシコシティの国立人類学博物館。かつてメキシコが世界に誇る文化を築いていた証である、スペイン征服以前の140もの貴重なお宝の数々が、いとも簡単に博物館のショーケースから奪われ……。
【ここに注目】 脚本家としても知られるメキシコの俊英アロンソ・ルイスパラシオスが、メキシコが誇る国際派スター、ガエル・ガルシア・ベルナルとタッグを組んで放つクライムドラマ。メキシコシティの国立人類学博物館を舞台に、貴重な品々を狙う犯罪組織の暗躍を描く。ガエルとは『NO』でも共演したアルフレド・カストロや、『ターザン:REBORN』のサイモン・ラッセル・ビールなどベテラン勢が脇を固める。
『スリー・デイズ・イン・キブロン(英題) / 3 Days in Quiberon』
製作国:ドイツ、オーストリア、フランス
監督:エミリー・アテフ
キャスト:マリー・ボイマー、チャーリー・ヒュブナー
【ストーリー】 1981年、フランスの海岸沿いにある小さな村で休暇中の女優、ロミー・シュナイダーのもとにジャーナリストが訪れる。取材は、繊細な女王様のロミーと若く野心的な記者の追いつ追われつのゲームになり……。
【ここに注目】 『ルードウィヒ/神々の黄昏』『追想』などの伝説的女優、ロミー・シュナイダーが、43歳で亡くなる前年の1981年にドイツの雑誌のために行った3日間のインタビューの様子をドラマ化した作品。女性監督のエミリー・アテフはこれまでカンヌ国際映画祭批評家週間に選ばれた『ザ・ストレンジャー・イン・ミー(英題) / The Stranger in Me』などの作品があり、本作は長編映画5作目。ロミーを『ヒトラーの贋札』などのマリー・ボイマーが演じる。