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『パディントン2』斎藤工 単独インタビュー

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『パディントン2』斎藤工 単独インタビュー

子供向けのようで実は深い物語

取材・文:坂田正樹 写真:尾藤能暢

世界的なヒットとなった『パディントン』の続編。心優しいブラウン一家の一員として幸せに暮らしていたクマのパディントンだったが、彼の前にヒュー・グラント演じる“落ち目の俳優”ブキャナンが立ちふさがり、無実の罪で投獄されてしまうことに……。日本語吹き替え版でブキャナン役を務めた斎藤工が、あふれんばかりの映画愛を胸に、シリーズやヒューの魅力を語った。

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大人に響くものは、子供も敏感に感じ取る

斎藤工

Q:『パディントン』という作品に対して、前作も含めてどのような印象をお持ちですか?

一見、子供向けのように見えますが、実は深い物語ですよね。主人公がペルーから来たクマということで、自分たちと違うもの、あるいはよそから来たものに対して、どう接していくのか……イギリスだったら移民問題ということになるのでしょうが、そういった意味合いが根底にあると思いました。

Q:子供の視点ではなく、大人の視点で作られていると?

そうですね。昨年、権利フリーで上映できるクレイアニメ『映画の妖精 フィルとムー』を制作して、発展途上国の子供たちに届けるという活動をしたのですが、実は『パディントン』をすごく意識して作ったところもあるんです。大人がイメージする子供の目線で作ったものって、子供はすぐに見抜くんです。だから、「こうすれば子供は喜ぶでしょ?」という概念を払拭して8分間のアニメを作ったのですが、大人に響くものを子供に観せると、子供も敏感にそれを感じ取る。ちょっとビターな部分を含むものが、実は子供にも好まれる。そういったところは、『パディントン』から学びました。

Q:今回、ヒュー・グラント演じる“落ち目の俳優”ブキャナン役の吹き替えを担当されていますが、どのような経緯でオファーを受けたのでしょう。

キノフィルムズ(配給元)さんの配給作品をすごく信頼していて、よく試写にも伺っているのですが、そういったご縁もあってオファーをいただいたのかもしれません。ちょうどクレイアニメをマダガスカルで上映していて、子供たちが生まれて初めて映画を観る瞬間に立ち会ったときに事務所から連絡を受けたので、すごく印象に残っています。僕自身、ブリティッシュシネマにめちゃめちゃ影響を受けていて、『パディントン』も大好きな作品だったので、素直にうれしかったです。あと、近年のヒュー・グラントがすさまじい演技の振り幅を見せてきているところも面白いですよね。今回の悪役も、かなり楽しんで演じているのが映像からヒシヒシと伝わってきたので、僕も楽しんで吹き替えをさせていただきました。

Q:確かに最近のヒューの変貌には目を見張るものがありますね。

どこか自分をネタにしているというか、そういうところがすごく好きです。若いときは女性の支持者が多いことをわかった上でパフォーマンスしていたと思いますが、『アバウト・ア・ボーイ』(2002)あたりから、美しさだけでなく、内側にあるものを徐々に出してきたな、という感じはありました。なんというか、僕たちに近づいてきてくれている感じがしました(笑)。

アフレコでキャラクターの奥深さを実感

斎藤工

Q:斎藤さんにとって本格的な映画吹き替えは『西遊記~はじまりのはじまり~』『アサシン クリード』に続いて3作目になると思いますが、完成作品を観て、ご自身の出来はいかがでしたか?

出来はどうなんですかね? それはご覧になる方の判断にお任せします(笑)。作業的には、ブキャナンが七変化していくキャラクターだったので、単純にヒュー・グラントの実年齢に僕が合わせていくのではなく、いい意味での「軽さ」が軸にあった方がいいのかなと思いました。そうすることで、ブキャナンがいろいろ変身していくさまを楽しんで演じられるのかなと。

Q:あらためて吹き替えの難しさを感じた部分はありましたか?

吹き替えに関しては、技術的なものは全く持ち合わせていないので、監督のさじ加減に全て委ねました。物語のさまざまな裏付けを受けてヒュー・グラントが演じる、というシーンばかりだったので、センテンスを何度も何度も見直す作業が続き、キャラクター造形の奥深さをあらためて感じました。ただ、その分、ものすごい難役というか、なかなかの重責を担ったなという思いが芽生えて、不安にもなりました。また、他のキャストの方の声色とのバランスといったオーケストラみたいなところもあるので、ブキャナンという楽器を吹き替えとしてどう調和させながら奏でていくか、というところも難しかったです。

Q:パディントン役の松坂桃李さんとの声の共演はいかがでしたか? パディントンとブキャナンが対決するシーンもありましたが。

実は別録りだったので、完成披露試写会で初めて松坂さんとお会いしたんです(笑)。なので、映像を通しての印象になりますが、もうパディントンそのものでした。ちょうど松坂さんが刑事役に挑む新作『孤狼の血』を試写で拝見したばかりだったので、彼の演技の幅の広さに驚きました。こういった対象となる相手が目の前にいない、映像の声だけで共演するというのはなかなかないので、いなせな感じがしましたね。

結果を想像できるものはワクワクしない

斎藤工

Q:ヒューは“落ち目の俳優”を楽しそうに演じていましたが、斎藤さんも同じ俳優として、ブキャナン役に何か感じるものはありましたか?

僕も「昼顔」でついたイメージがあると思いますが、それは決して悪いことじゃなくて、そのイメージをどこに振っていけるかが重要だと思います。今までロッククライミングの岩がツルツルだったのが、ようやく一つ、何かつかめたぞ、みたいな感覚だったのですが、ヒュー・グラントの場合は一時代を築いてきたイギリスを代表する俳優なので次元が違いますし、ブキャナン役をここまで楽しそうに演じられるのはすごいことだと思います。

Q:俳優の純粋にお芝居を追求する部分と、人気商売としての部分、その両面について考えることはありますか?

うーん、どうなんですかね。僕は正統派でやってきたわけではないですから。皆さんに知られていないだけで、とんでもない役ばかりやっていた時期もありますし、これから公開される『サラバ静寂』という映画でも、頭を刈り上げて狂った警官を演じさせてもらったり、その一方でクレイアニメを作ったり、本作で吹き替えをやらせていただいたりしているので、一つに定めていないんです。そもそも、俳優が天職だとは思っていないので、映画を作ったり、移動映画館をやったり、いろいろ活動していますが、まだ「これだ!」というものを見つけていないので、周りの評価は全く気にしていません。ただ、唯一言えるのは、僕の中心には間違いなく映画があり、明確なのは「映画が好きだ」というシンプルな感情だけです。

Q:では、俳優も含め、1人の映画人として、今、大切にしていることはありますか?

結果を想像できるものはダメだと思うんです。「この人がやるとこうなるね」という予測が立って、「はいはい、やっぱりね」っていうのが一番怖い。連続ドラマや漫画の実写化なんかを観ていると、同じような人をシャッフルして使っている場合が結構多いと思うのですが、それってワクワクしない。だから、自分の中では「想像できないもの」を意識して、何かにすがりつくことなく、どんどん恥をかいていきたいと思っています。


斎藤工

松坂演じるパディントンの新たな敵・ブキャナンを、ヒュー・グラントの味を生かしながら、軽やかに演じてみせた斎藤。「昼顔」でついたイメージを否定することなく、いつの間にか次のステップを踏み出し、『パディントン2』さえも過去の出来事のように、映画へのあふれる愛が前のめりで進んでいく。恥をかくことを怖れず、予測できないことを好み、周囲の評価も気にしない。その推進力に、気持ちいいくらい圧倒された。

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映画『パディントン2』は公開中

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