『不能犯』松坂桃李&沢尻エリカ 単独インタビュー
沢尻エリカ、今までにないビンタ!思いっきりパーン!!
取材・文:イソガイマサト 写真:高野広美
同名人気コミックを、『貞子vs伽椰子』の白石晃士監督が映画化した衝撃の立証不可能犯罪スリラー『不能犯』。本作で、犯罪の立証ができない思い込みや、マインドコントロールを使って殺人を繰り返す謎のダークヒーロー・宇相吹にふんした松坂桃李と、彼の力が唯一効かない刑事の多田を演じた沢尻エリカ。初共演を果たした二人が、ほかの作品とは違う数奇な役柄と独特の緊張感に支配されていたという撮影を振り返った。
数奇な役と憧れていた役での初共演
Q:まず『不能犯』のオファーが届いた時、作品のどの部分に面白さを感じましたか?
松坂桃李(以下、松坂):僕が演じさせていただいた宇相吹は、警察と敵対する“悪”のような構図になっていますけど、いちばん憎悪が大きいのは彼に殺人をオーダーする依頼人なんです。そこで「果たして誰が悪いんでしょうね?」って問いかける感じになっていたり、観た方が依頼人と同じ気持ちになり自分が悪いのかもしれないという境地になるところが面白いと思いました。
沢尻エリカ(以下、沢尻):わたしは、自分が演じる刑事の多田が、立証できない殺人を犯す宇相吹の凶行を止めようとする展開にすごく惹かれました。それに、ずっとやりたかったアクションができるのも嬉しかったですね。
Q:沢尻さんは以前から「アクションをやりたい」っておっしゃっていましたものね。
沢尻:はい。ずっと言っていて、やっと念願がかないました(笑)。
松坂:それはよかった(笑)。僕も、欲にまみれた人間たちを死に誘う、宇相吹というまるで人間じゃないような、ヘンな存在の仕方で現場にいられる役はなかなかないので、そこを楽しみにしていました。
“人間らしさ”を消す役づくり
Q:視線だけでターゲットをマインドコントロールできる宇相吹と、彼のマインドコントロールが効かない多田。本役にお二人はどのように臨まれたのでしょう?
松坂:原作の宇相吹は猫を撫でていたり、かわいい一面もあるんですけど、台本ではそこが一切排除されていたし、白石晃士監督にも「ダークなキャラクターに振り切ってほしい。人間味も削って不思議な存在にしてほしい」と言われたので、人間らしさを消すようにしました。具体的には、歩き方や立ち方をヘンな感じにして、肌を見せずに着ている服が皮膚に見えるようにしましたね。
Q:彼の笑い方も独特ですよね。
松坂:あの、ニタァという感じですよね。今まであんな笑い方をしたことはなかったけれど、あの笑いこそが宇相吹を象徴するもの。ターゲットがマインドコントロールにかかり、(地獄に)堕ちた瞬間に「やはり、あなたも堕ちちゃいましたね」という気持ちから自然に出てくるニタァだと思って、僕はあの笑みを表現してみたんです。
沢尻:多田の方は、すごく芯が強くてブレないけれど、心に温かいものも持っていて、それをちゃんと大事に生きているカッコいい女性。そんな、同性が憧れるカッコいい女性を演じられたのは嬉しかったです。男前のところは似ているけれど、わたしは彼女とは程遠い全然ダメダメな人間ですから(笑)。
Q:沢尻さんは念願だったアクションですが、実際にやってみていかがでした?
沢尻:思っていた以上に難しかったですね。犯人を追いかけていって手錠をかけるシーンも、殺陣師の方の動きを見ながらやってみるんですけど、なんでわたし、こんなに動けないんだろう? と思うぐらいできなくて(笑)。
松坂:楽しそうにやっている感じがしたけどな~。
沢尻:楽しいことは楽しいんだけど、けっこう大変でしたよ。もっと機敏に動かなければいけないのに、一つ一つの動作がどうしても遅れちゃって。そんな状況の中で、どうしたらアクションを自分のものにできるのか、ずっと試行錯誤しながらでした。
お芝居なのに怖かった
Q:本作ではキーパーソンの多田が、宇相吹と対峙した際、どんな心の揺れ方をするのかが大きな見どころになっています。
松坂:そうなんです。宇相吹の方は変わらないですからね。
Q:宇相吹が多田に最初に仕掛けてくるのは、夜の路面で対峙するシーンです。
松坂:そうですね。実はあれを撮ってクランクアップだったんですけど、あそこが、二人が初めてガッツリ接触するシーン。しかもあのシーンまで自分の業や欲に勝てる人と出会えなかった人ばかりを相手にしてきた宇相吹が、初めてそうではない多田刑事と出会って、ちょっと希望を持つシーン。最後の撮影でよかったと思います。
Q:宇相吹はちょっと嬉しいわけですね。
松坂:嬉しいんですね。宇相吹は業にまみれた人がいっぱいいると現れて、そういう人たちがいなくなるといらない存在。本人もいなくなりたいと思っているところがあるので、ようやく現れた多田のような強い女性にしつこくヘンな絡み方をするんです。
沢尻:あの撮影はすごく印象に残っています。宇相吹と真正面から対峙してしまうと、本当に心を乱されるというか、自分が大切にしているものを脅かされるような感じがして、お芝居なのに怖かった。
松坂:僕はけっこう楽しかったですよ(笑)。ああいうヒリッとするやりとりができるのは、この作品では多田刑事だけでしたから。
Q:苦悩する多田に宇相吹が、彼女の優しさが最悪の結末を招いたと挑発を加えるシーンも強烈でした。
松坂:宇相吹としては、多田が堕ちるか堕ちないかを試しているところもあるのですが、先ほど言ったように、彼女は強い人だから絶対に屈しないだろうという希望を持ちながら揺さぶっているんですよね。
沢尻:いや、多田としてはやっぱりあそこはつらいですよ。いくら強い人でもやっぱり揺れるし、実際、何度も心が折れそうになって。それでも自分の信念を貫き通すべきなのか? 多田が最後に自分でどうするのかを決めるところがこの作品のクライマックスでもあったと思うんですけど、ある人物の信じられないような裏切りもあったし、言葉では表現できないぐらい深くてつらいものがありましたからね。
思いっきりビンタ!
Q:芝居の面で相手の目力や演技に圧倒されたり、負けそうになることはなかったですか?
沢尻:目力やお芝居の迫力もそうですけど、現場では松坂さんの身体からなんかすごいモノが出ていて、本当にやられそうになりました(笑)。特にさっき話した、クランクアップのシーンの松坂さんはスゴかったですね。
松坂:いや~、僕も沢尻さんに圧倒されそうになったけれど、絵的に攻めなきゃいけない役なので、強いマインドでいました(笑)。
沢尻:いや、本当に強かったです(笑)。
Q:ほかに芝居中に印象に残っていることはありますか?
松坂:う~ん……あれだな。取調室で、多田が対峙した宇相吹の頬をパーンとはたくところですね。
沢尻:あそこは思いっきりいきました(笑)。でも、人にビンタしたことなんてないから、すごく緊張しましたよ。
松坂:最初に助監督さんが思いっきりパーンってはたかれたから、いい音がするな~と思っていたんだけど、本番でも僕にパーンときましたね(笑)。宇相吹はそれまで自分のマインドコントロールにハマってしまう奴か、脅える奴しか相手にしてこなかったから、ああやってガンガン攻められるのはちょっと新鮮でした。
Q:ところで、宇相吹がもし実際に現れたら、彼のマインドコントロールにかからない自信はありますか?
沢尻:自分の心の中にも闇や隙はあるだろうけど、わたしはわたしなので、催眠術やマインドコントロールにはかからないと思う。それは自信がある。根拠のない自信ですけどね(笑)。
松坂:いいですね~(笑)。でも、宇相吹のマインドコントロールは、自分の弱い部分と向き合う感じだと思うんです。僕はたぶんヤバいところまで行くとは思うけど、ギリギリ回避するような気がします。今までも、それ以上は絶対に行ったらダメだからという危ないところで、自分の弱さを克服してきましたからね。
驚愕の設定に加えてネタバレ事項も多いため、このインタビューだけでは『不能犯』の衝撃は伝わらないかもしれない。だが、人の内面に踏み込む本作は、間違いなく観る者の倫理観を炙り出す恐ろしいもの。いったい誰が善で、誰が悪なのか? その問いは松坂桃李と沢尻エリカの苦闘と挑戦によって、より鮮明に浮かび上がるはずだ。
映画『不能犯』は2月1日より全国公開