ウーマン村本、いま語るLGBT
映画たて・よこ・ななめ見!
ジブリで宮崎駿監督の出待ちをしちゃうほど映画大好きな村本大輔と、映画に関しては素人同然の中川パラダイスが、あらゆる角度からブッ飛んだ視点で映画トーク。今回は、16歳のトランスジェンダーの主人公・レイと彼を見守る家族の姿を描いた『アバウト・レイ 16歳の決断』! ウーマンラッシュアワーが、LGBTというテーマに向き合いました!(取材・文:シネマトゥデイ編集部・森田真帆)
『アバウト・レイ 16歳の決断』
16歳で身も心も男性として生きていくことを決断したトランスジェンダーのレイ。本当の自分に近づいていくレイと、それを見守る家族の姿をハートウォーミングなタッチで描く。短髪の主人公にふんしたエル・ファニングの熱演も見どころ。
中川、親の思いに共感
中川:自分にも子供がおるから、レイよりも親の気持ちに共感したなぁ。
村本:もし、お前んとこの息子がレイと同じような悩みを抱えていたらどうする?
中川:うちはまだ小さいから、性別に関する自覚はないと思うんやけど、映画を観てる間、もし自分の息子が悩むことになったら……って考えてた。どんな未来が待っているかはわからんけど、反対はしたくないし、きちんと受け止めてあげたいと思った。ただ、動揺はするかもしれんし、複雑な気持ちをなくすまでにもちろん時間はかかると思う。
村本:色々考えさせられたな、ほんまに。胸にさらしを巻いて、同級生からは変態って呼ばれて。レイにしかわからない苦しみがあるんやろうなって。あとやっぱり、自分はお笑い芸人やから、“保毛尾田保毛男”騒動を思い出して。レイはトランスジェンダーやけど、やっぱりめちゃくちゃ苦しんでる中で、自分の悩みを笑いにされるっていうのは、傷つくよなって思ったわ。
中川:こうして映画で観るとわかるもんな。保毛尾田保毛男が出てた時代には、こういう映画を観たこともなかったから。無意識に笑ってしまっていた。
村本:あの頃はLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)のことをわかっていなくて。ただな、俺はこの映画を「LGBTの映画」とは言いたくないねん。LGBTの問題ってひとくくりにしたら、観る人が、ある種の先入観を持ってしまうと思う。そうじゃなくて、レイという、葛藤を抱えた主人公の生き方を描いた作品って言いたい。ちょっと視点を変えて、まずはレイという一個人の生き方を観てほしい。そこからのLGBTを考えてほしいわ。
全部一緒くたのテレビに疑問
村本:こないだ(人種暴動の一夜を描いた)映画『デトロイト』を観たときも思ったんやけど、いまだに黒人の人たちは差別を受けていて、女性も地位向上のためにいまだに戦っている。でもこういう映画が作られることで、今まで黙っていた人が、声を上げられるようになっていく気がする。レイみたいに「私は私として生きていっていいんだ」って。ただ、それにはすごい痛みが伴って。何十年後に待っている差別のない社会を作り上げるために、悲鳴を上げながら戦っているんやなって、すごく思う。
中川:しかもさ、日本だとゲイの人っていっぱいテレビに出てきたり、MTF(身体は男性だが性自認が女性)のトランスジェンダーの方は、はるな愛さんだったり露出があるけど、レイのようにFTM(身体は女性だが性自認が男性)の方は全然出てこないからわからんかった。
村本:もうさ、いろんな言葉があるやん。ゲイだったり、トランスジェンダーやったり。でも日本のテレビは全部一緒くたにして「オネエ」って言葉を作ってる。俺の同期で万次郎っていう芸人がいるんやけど、そいつはFTMで。昔どういう風に呼べばいいかがまだ確立されてなくて、使いにくいって言われたことがあったらしい。難しいよな。
中川:自分らのコミュニティーの中だけならウケるネタでも、世間に出すと、なかなか受け入れられへんっていうのもあるやろし。
村本:そいつに前に、「チンチンの写真ください」って言われてさ。何で? って聞いたら、写真フォルダに知り合いのチンチンの写真いっぱい入れておいて、朝にどのチンチンで今日はすごすか決めるんやって(笑)。で、俺にも頼んできたんやけど、あげるわけないやろ!
もし、自分の隣にレイがいたら?
村本:でもさ、レイみたいに悩んでる人っていっぱいおると思うねん。この映画を観て思ったのは、「こんなに辛い人生を送っててめっちゃ可哀想」って、ただ同情をするんじゃなくて、「もしも自分の隣にレイがいたら」って考えることやと思うねん。レイが同じクラスにいたら、同じ会社にいたら、映画のように苦しんでるやつに対して、自分がどういう言葉をかけてあげられるかを考えられる機会になると思う。
中川:難しいよな。接し方も考えすぎるあまりに逆に傷つけてしまう気もするねん。例えば、俺の周りにいるFTMの友だちが荷物を運んでいたとして、重そうやったから手伝いたいけど、その行動をとることでそいつの男性としての自信を傷つけてしまうんやないか……とか、めっちゃ余計なことを考えてしまって。
村本:こういう映画を学校で流してみんなで話し合うことってめっちゃ大事やと思う……けど、もしクラスにレイみたいな子がおったとすると、先生の言い方ひとつでも傷つけてしまうかもしれん。「かわいそうですよ」っていう言葉ひとつで。それは怖いよな。でも、やっぱり子供のうちから、きちんと学んでほしいな。映画の中で、レイがちっちゃい子と話すシーンがあるやん? その子がめっちゃ素直でさ。「お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょ」って。そこには俺たち大人が考えるような余計な気持ちがどこにもなくて考えさせられた。
村本、自分を高評価することが大事
村本:出てくる登場人物みんなおもろかったよな。シングルマザーのお母さんに、レズビアンのおばあちゃんとその恋人、実の父親。ホルモン治療を開始するっていうレイの決断に大人が大慌てで。いろんな人から、好き放題言われまくってたな(笑)。
中川:ほんまに難しいテーマやなって思う。でも、俺は自分の気持ちが一番やって思うから、もしも俺の隣にレイみたいな子がおったら、自分を男性だと思っているんやったら、それでええと思う。人は勝手に言うと思うんですよ。「え~女のままでええやん」とか、そういうことを。でも、自分が正しいって思ってほしい。
村本:めっちゃバカにしてくるやつとかって現実にたくさんいるし、もしかしたらこの映画を観る人の中に、同じような悩みを持っている人がいるかもしれん。でも、俺自身、これまでめっちゃひどい言葉をかけられまくってきたけど、自分がこうすると決めたことは絶対曲げんかった。それこそ一生分の悪口を浴びせられることも多いけど、自分自身のことを俺は高評価してる。誰に何を言われようと、風の音みたいなもんや。一番大切なのは、自分ができる自分への評価。だから、まずは自分自身への自信を持って生きてほしいな。
映画『アバウト・レイ 16歳の決断』は全国公開中
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ウーマンラッシュアワー・プロフィール
2008年に結成された、村本大輔と中川パラダイスによるお笑いコンビ。2011年「ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞受賞、2012年「THE MANZAI 2012」決勝進出、2013年NHK上方漫才コンテスト優勝など数々の賞に輝き、4月に東京進出。「THE MANZAI 2013」で見事優勝し、3代目王者に輝いた。
村本大輔 1980年生まれ。福井県出身。自分でも「ネットに書き込まれるうわさはほとんどが事実です!」と認めている、自称・ゲス野郎芸人。だがその一方で、ジブリ作品やピクサーなどの心温まるアニメが大好きで、映画『あなたへ』で号泣するほどのピュアな一面も持ち合わせる大の映画好き。水産高校に通っていたため(中退)、お魚系や海洋ネタにも意外に詳しい。
中川パラダイス 1981年生まれ。大阪府出身。これまで10回もコンビ解散している村本と唯一トラブルもなくコンビを続けている広い心の持ち主。2012年に入籍し、現在1児の子育てを満喫中のイクメンパパでもある。映画に関しては、「王道なものしか観ない」というフツーレベル。