【追悼】漣さんに会いに行こう!大杉漣の足跡20選
1980年の映画俳優デビューから38年にわたって、私たちを楽しませてくれていた俳優・大杉漣さんが2月21日、66歳でこの世を去りました。年齢を重ねるたびに渋さと大人の色気が増していった漣さんだけに、70代、80代になった時の姿を拝見できなくなってしまったのは寂しい限りですが、日本映画斜陽の時代にも惜しげもなく魂を注ぎ込み、映画史に数え切れないほどの財産を残してくれました。本特集ではその中から20作品を私的に厳選し、漣さんの足跡を振り返ります。劇場で、家庭で、さぁ! 漣さんに会いに行こう!(文:中山治美)
『変態家族 兄貴の嫁さん』(1984)
4Kにデジタル修復され、2月に開催された第68回ベルリン国際映画祭でも上映された周防正行の監督デビュー作。小津安二郎監督にオマージュを捧げた異色のピンク映画で、漣さんが演じたのは小津作品常連俳優・笠智衆を彷彿とさせるお父さん。当時33歳にして、いぶし銀の魅力漂う老け役はさすが名バイプレーヤー! 下積み時代は、ピンク映画や日活ロマンポルノにも多数出演し、この時培った人脈が漣さんの俳優人生を開花させた。
『地獄の警備員』(1992)
監督:黒沢清 主演:久野真紀子
漣さんの役:殺人鬼の最初の餌食となる久留米浩一
ドラマ「バイプレイヤーズ ~もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~」のメンバーである松重豊と漣さんが出会った作品。松重演じる殺人鬼である警備員が、商社社員たちを襲うスリラー。長谷川和彦監督が代表を務めた映画作家集団ディレクターズ・カンパニーの製作であり、世界のクロサワの初期作品として、映画史的にも重要な作品。その現場に、漣さんをはじめ、諏訪太朗や、下元史朗(現・史朗)ら今も変わらず脇役でいい味を出しているメンバーが顔を揃えていることにニヤリ。
『ソナチネ』(1993)
監督:北野武 主演:ビートたけし
漣さんの役:ビートたけしが組長を務める村川組の組員・片桐
ご存知、漣さんの出世作。幹部から沖縄で抗争中の傘下組織の援軍を頼まれた村川組組員らが現地に向かうも、抗争に巻き込まれていく。組員を演じた漣さんは当初、東京ロケで出演が終わるはずが、その魅力に引かれた北野監督の計らいで、結局、沖縄ロケまで参加することになったという逸話が残っている。以降、漣さんは北野作品の常連に。最新作『アウトレイジ 最終章』で北野監督が漣さんに用意した派手な見せ場は、まさに愛情の塊。
『POSTMAN BLUES ポストマン・ブルース』(1997)
漣さんは、多くの監督たちの商業デビュー作や初監督作品に携わっているが、SABU監督もその一人。『弾丸ランナー』(1996)に2作目の本作でも、麻薬の密売人と勘違いされて警察に追われることとなる郵便配達人(堤)と心通わす殺し屋を好演している。強面な役が多かった漣さんのキャラクターを生かしつつ、殺し屋稼業も競争社会であることを吐露するシーンがおかしみと妙な哀しさを醸し出す。漣さんにしか出せない味だ。
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『極道の妻(おんな)たち 決着(けじめ)』(1998)
監督:中島貞夫 主演:岩下志麻
漣さんの役:番水組組長にして、かたせ梨乃演じる杏子を妻に持つ番水司郎
ヤクザ役の多かった漣さんに、ついに本家からお声がかかった! しかも、“極妻”シリーズお馴染みの姐さん・かたせ梨乃の夫役という美味しい役どころ。とはいえ漣さんなので、貫禄十分な組長という感じではなく、金に細かく、同じ井出組傘下の名越(中条きよし)が高級時計を買い替えるたびに反応し、思わず「小さい」と突っ込みたくなる。でもヤクザ役でも必ず人間味ある一面を出してしまうのが漣さんなのだ。
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『犬、走る DOG RACE』(1998)
監督:崔洋一 主演:岸谷五朗
漣さんの役:在日コリアンの情報屋・秀吉
漣さんは崔洋一監督作への出演も多く、本作では岸谷五朗演じる型破りな刑事と常につるんでいる情報屋という準主役。その刑事の恋人・桃李(冨樫真)への思いが届かず、悶々した気持ちを風俗、しかもSMクラブで自身が女王様にふんして発散シーンは爆笑。同時に、売れっ子になっても、どんな役でも全力投球している漣さんの姿に、我々は胸を打たれたのだった。当時の危険な香り漂う新宿・歌舞伎町の街が写っているのも必見。
『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998)
監督:本広克行 主演:織田裕二
漣さんの役:警視庁警備局公安部長・横山邦一
人気シリーズに「THE MOVIE」から登場。警視庁副総監拉致誘拐事件が起こり、被疑者として警察関係者が浮上したことから青島(織田)が公安課に出向いてリストを見る場面で登場。身内を内定する職種柄「身内に顔を見せられない」と、暗闇の中で響く漣さんの低い声が青島らに威圧感を与える。その後、スピンオフの『容疑者 室井慎次』(2005)、『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(2012)にも出演。常に警察組織の闇の部分を露呈させる役回りだった。
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『発狂する唇』(1999)
監督:佐々木浩之 主演:三輪ひとみ
漣さんの役:“大佐”と呼ばれている謎多き人物
漣さんはわずかな出演シーンながら、強烈なインパクトを残していくのが得意。『愛の新世界』(1994)では女王様のムチを打たれて悶絶していたが、本作ではレオタード姿でのダンスシーンを披露。そのシーンに代表されるように、連続殺人事件の容疑者家族がマスコミと警察の執拗な攻撃に遭い、救いを求めて霊媒師を頼ったところ逆に食い物にされていくエログロ・ホラー。だけど、阿部寛や鈴木一真も出演しているお宝映画。
『不貞の季節』(2000)
監督:廣木隆一 主演:大杉漣
漣さんの役:SM小説の作家・黒崎悌造
SM作家・団鬼六の同名短編小説を映画化。団を投影したかのようなSM作家・黒崎だったが、編集者の川田に妻が寝取られてしまう。嫉妬を秘めつつ、川田と妻の情事を小説にしたためていくという複雑な男女の愛を描いている。ピンク映画で経験を積んだ漣さんが久々に男の色気を放出。この役のイメージがあったのか、漣さんは『蜜のあわれ』(2016)でも金魚とただならぬ関係に陥る老作家を演じている。その金魚役がバラエティー番組で共演した二階堂ふみというのも感慨深い。
『刑務所の中』(2002)
監督:崔洋一 主演:山崎努
漣さんの役:受刑者の一人で、通称“ティッシュマン高橋”
花輪和一の同名コミックの映画化で、自身が銃砲刀剣類不法所持などで獄中生活をした体験が基になっている。くせ者揃いの受刑者中間を演じるのが、香川照之、松重豊、田口トモロヲ、木下ほうか、森下能幸、伊藤洋三郎と個性派がズラリ。その中で漣さんは、入浴時間にあそこの先っぽにテイッシュが付いていたことから“テイッシュマン高橋”のあだ名をつけられてしまったなんとも情けない役。そんな役がまた似合ってしまうのだった。
『村の写真集』(2003)
監督:三原光尋 主演:藤竜也
漣さんの役:主人公・研一(藤)の友人・植田進
故郷・徳島への愛が深く、定期的にライブも開催していた漣さんは、徳島舞台の映画にも欠かせない顔。本作のほか『バルトの楽園(がくえん)』(2006)、『人生、いろどり』(2012)にも出演。とりわけ本作はダムで水没する村の姿を収めようと写真撮影する父子の物語で、長男の大杉隼平が写真家を目指していた時期だっただけに重なる部分もあっただろう。その後、写真家となった隼平が写真展を開催する際には、漣さんが額を手作りするのが恒例だった。
『棚の隅』(2006)
監督:門井肇 主演:大杉漣
漣さんの役:玩具店店主・宮田康雄
門井監督の初監督作。低予算作品だが、脚本を気に入った漣さんが、超多忙なスケジュールを1年がかりで調整してようやく撮影に漕ぎ着けたという。連城三紀彦の短編小説を原作に、再婚して親子3人つつましい生活を送っていたところに、元妻が現れたことからさざ波が立つ大人の恋愛劇。漣さんは当時、「日常の気持ちに丁寧に触れた映画は今の日本映画の中で非常に貴重。僕にとっては宝物のような映画です」と語っている。
『ネコナデ』(2008)
監督:大森美香 主演:大杉漣
漣さんの役:一見冷酷な人事部長・鬼塚太郎
漣さんのブログ「風トラ日記」でもお馴染み、愛猫・寅子と出会った記念すべき作品。リストラ5年計画の任務を任され、ストレスから日々胃痛に悩まされていた人事部長が、捨て猫のスコティッシュフォールドとの出会いで人生を見つめ直すハートフルコメディー。漣さんは演技を超えて猫にメロメロに。ただし先にチワワの風ちゃんをすでに飼っていたため、猫を引き取る際には家族会議が開かれたという。寅子はすくすく育ち、現在10歳。
『劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー』(2009)
「仮面ライダー」シリーズには大物俳優の参加が続いているが、本作では死神博士が石橋蓮司、地獄大使が漣さんというライダーファンにとっては敵に不足なし! の強力布陣。お母さんたちは特撮スーツに身を包んだ蓮さんのスタイルの良さに見とれ、子どもたちは名優の本気の芝居に恐怖で震えたのではないだろうか? ラストは……だったはずだが、『仮面ライダー1号』(2016)に再登場し、大活躍を見せる。地獄大使よ、永遠なれ!
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『ランニング・オン・エンプティ』(2009)
監督:佐向大 主演:小林且弥
漣さんの役:主人公ヒデジがアルバイトをしていたコンビニ店の店長
漣さん主演『棚の隅』の宣伝プロデューサーや、出演作『休暇』(2007)の脚本も務めた佐向大の商業監督デビュー作にちょこっと出演。ダメ彼氏にカツを入れるべく彼女が偽装誘拐事件を企てたことから騒動が起こるブラック青春コメディー。今後の日本映画界を背負って立つ若き映画人を応援しようとする漣さんの姿勢は生涯変わらなかった。その後、佐向は漣さんが所属する事務所ZACCO(ザッコ)の所属となった。
『ニッポンの嘘~報道写真家 福島菊次郎90歳~』(2012)
2015年に94 歳で亡くなった報道写真家・福島菊次郎さんの生き様を追ったドキュメンタリー。漣さんは劇中、福島さんの著書を朗読する声での出演。渋く響く声を持つ漣さんはナレーションの仕事も多く、ドキュメンタリー映画『華いのち 中川幸夫』(2014)や『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』(2017)も担当。また小中和哉監督『赤々煉恋』(2013)では虫男を務め、声だけでも存在感を発揮している。
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『箱入り息子の恋』(2013)
監督:市井昌秀 主演:星野源
漣さんの役:ヒロイン菜穂子(夏帆)の父
ドラマや映画で人気俳優のお父さん役を演じることの多かった漣さん。本作では、夏帆演じる菜穂子の父。盲目の彼女が、35歳童貞男と恋に堕ちたことから心配のあまりに断固反対する厳格な父を演じている。そして奥さんが黒木瞳という役得。ちなみにドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」でブレイクした星野源だが、恋に奥手な独身男というハマり役なキャラクターはこちらが元祖。作品的にも、隠れた名作と言っても過言ではない。
『シン・ゴジラ』(2016)
監督:庵野秀明・樋口真嗣 主演:長谷川博己
漣さんの役:内閣総理大臣・大河内清次
テレビ朝日系「相棒」シリーズでは警視庁副総裁というとってもエライ人を演じていた漣さんだったが、メジャー映画会社の大作で、ついに総理大臣の座を射止めるとは! と、目頭を熱くした人も多いだろう。ただしゴジラの出現に頼りない姿を見せるのは、漣さん演じる首相らしいところ。そして自身の役どころについては、ドラマ「バイプレイヤーズ」でネタにしているので、合わせて楽しみたい。
『U-31』(2016)
監督:谷健二 主演:馬場良馬
漣さんの役:ジェムユナイテッド市原・千葉の社長・竹岡誠一
漣さんはサッカー好きで知られ、草サッカーチーム「鰯クラブ」を結成して生涯現役を貫いたほど。なのでジェフユナイテッド市原・千葉全面協力のサッカードラマ出演の依頼に飛びついたに違いない。サッカー仲間の俳優・勝村政信と共に出演し、弱小チームを支える経営陣の葛藤と愛を体現している。漣さんはJ2の故郷・徳島ヴォルティスのサポーターで、2月25日に行われた対ファジアーノ岡山戦では選手らが喪章をつけてプレーし、漣さんを追悼した。
『予兆 散歩する侵略者 劇場版』(2017)
監督:黒沢清 主演:夏帆
漣さんの役:厚生労働省・西崎
漣さんは北野作品のみならず、黒沢清作品の常連でもあった。『地獄の警備員』(1992)から『勝手にしやがれ!!』シリーズ、そして本作まで17作品に出演している。『散歩する侵略者』(2017)のアナザー・ストーリーとして製作された本作では、“地球を侵略に来た”真壁(東出昌大)を極秘監視していた役人役。真壁と対峙する場面では、アドリブ? と思えるような挑発も。作品を損ねることなく、緊迫した状況下でちょっとした笑いを仕掛けるのが絶妙にうまかった。