ADVERTISEMENT

米アカデミー賞で一躍話題に!多様性を受け入れるインクルージョン・ライダーって何?

今週のクローズアップ

画像テキスト
オスカー像を手にしたフランシス・マクドーマンド - Kevin Winter / Getty Images

 今月4日(現地時間)に行われた米アカデミー賞授賞式で主演女優賞に輝いたフランシス・マクドーマンドが受賞スピーチで放った言葉「インクルージョン・ライダー」が、映画界で大きな反響を呼んでいる。ネイティブも最初は首をかしげた「インクルージョン・ライダー」って?(編集部・石神恵美子)

 今年はセクハラや男女差別撲滅を訴える「#MeToo」や「Time's Up」の運動が盛んだっただけに、主演女優賞の受賞スピーチは例年以上に注目されていたように思う。そんな中、『スリー・ビルボード』で、『ファーゴ』以来21年ぶり、2度目のオスカーに輝いたマクドーマンドは、期待を裏切らないスピーチで会場を沸かせた。

ADVERTISEMENT
画像テキスト
『スリー・ビルボード』でのフランシス - (C) 2017 Twentieth Century Fox

まずはそんな彼女のスピーチ全文。

「オッケィ~、過呼吸気味だから、もし倒れたら起こしてちょうだい。なぜなら、私には言いたいことがあるから。オリンピックのスノーボードハーフパイプで1,080を何度も決めた後のクロエ・キムはこんな気持ちだったんだと思う。みなさんも見ました? まさにこんな気持ちだったんだろうって思います。まず、(監督・脚本・製作の)マーティン・マクドナーに感謝したい。あなたのおかげよ。私たちはフーリガンやアナーキストばかりの集団だったけど、きれいにまとめあげたと思う。そして、この場にいる全ての人に感謝したい。そして私の姉妹であるドロシー。愛しているわ、ドット。それから、私の一族にも感謝したい。(夫の)ジョエルに、(息子の)ペドロ・“マクコーエン”。この固い信念を持った二人は、それぞれフェミニストの母親たちに育てられました。2人とも自分自身を、お互いを、そして周囲の人を大切にしています。私のことを誇りに思ってくれていることも知っています。それが私にとって永遠の喜びになっているのです。そして今から、新たな視点を提供したいと思います。もしよろしければ、どの部門であれ、ノミネートされている女性の方は、私と一緒に立ち上がっていただけないでしょうか。俳優のみなさん、メリル、あなたが立ち上がってくれれば、ほかのみんなもそうするからお願い! そして監督も、プロデューサーも、ディレクターも、脚本家も、撮影監督も、作曲家も、作詞家も、デザイナーも、さあどうぞ! みなさん、会場を見渡してみてください。見渡してくださいよ、みなさま。私たちには伝えるべきストーリーと、資金を必要としている企画があるんです。今夜のパーティーではそのことについて話しかけないでくださいね。数日後にでも、オフィスか、あるいは私たちのところに来てください。都合のいいほうでいいですから。そのときに全てをお伝えしますね。今夜は二言だけ残させてください。インクルージョン・ライダー」。

画像テキスト
言う事もかっこいいフランシス

 彼女が最後に言い放った「インクルージョン・ライダー」は、ネイティブにとっても聞き慣れない言葉だった。バックステージではマクドーマンドに対して、記者たちからさっそく質問が飛ぶことになる。「最後の二言『インクルージョン・ライダー』について、説明してくれませんか?」。マクドーマンド自身、つい最近知った言葉であることを明かし、映画の出演契約を結ぶにあたって、「キャストだけでなくクルーに対しても、少なくとも50パーセントの多様性を求めることができる」という付帯条項のことだと説明した。「女性がトレンドだからとか、そういう考えはダメ。トレンドなんかないのよ。アフリカ系アメリカ人がトレンド、違うわ。トレンドなんかない。今変わる必要があって、インクルージョン・ライダーこそ、その解決の糸口になると思う。そう思わない?」と彼女は続けた。

 この言葉、実は社会科学者であるステイシー・スミス氏が2016年に TED Talks のプレゼンテーション中に使ったもの。彼女が集めたデータによると、スクリーンに映る男性の数は女性の3倍を占め、映画製作のスタッフ比率の格差はさらに大きいという。メディアで女性がどれほど過小評価されて描かれているのかを考察し、その解決策をいくつか列挙していた中のひとつが、「インクルージョン・ライダー」だった。ハリウッドのトップレベルのスターに有効なもので、彼らがハリウッド大作に出演する際、多様性を受け入れる付帯条項(=インクルージョン・ライダー)を契約書に盛り込んでくれればという提案だった。スミス氏は、典型的な長編映画においてセリフのある役は40~45人ほどで、その中で物語に重要な役はほんの8人か9人ほどなので、残り30人ほどの脇役たちを物語の舞台になっている場所の人口統計を反映させて配役できると説明した。そうすることで、性別、人種、LGBT、年齢、全ての項目において、多様性が実現できると。

画像テキスト
(左から)ブリー、マイケル、ベン&マット - Jason Merritt / Getty Images、Jason LaVeris / FilmMagic / Getty Images、Aaron Poole / (c) A.M.P.A.S.

 マクドーマンドのスピーチは瞬く間に反響を呼んだ。『ルーム』でアカデミー賞主演女優賞を受賞したブリー・ラーソン、『クリード チャンプを継ぐ男』『ブラックパンサー』のマイケル・B・ジョーダン、『ピッチ・パーフェクト』のエリザベス・バンクスらが続々と、「インクルージョン・ライダー」を実行すると宣言。ついには、マット・デイモンベン・アフレックの製作会社パール・ストリート・フィルムズも取り入れることを発表した。白人男性が優位とされてきた映画界は、「インクルージョン・ライダー」によって、どのような変化を迎えるのだろうか。

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT