『ラプラスの魔女』広瀬すず 単独インタビュー
人は少し「魔」の部分があるくらいがいい
取材・文:天本伸一郎 写真:中村嘉昭
自然現象を利用して完全犯罪ができるのか、そもそも予知など可能なのか……。東野圭吾のベストセラー小説を櫻井翔主演、三池崇史監督で映画化したミステリー『ラプラスの魔女』。豪華キャストの競演も話題の本作で、タイトルロールのミステリアスなヒロインにふんしたのが広瀬すず。櫻井演じる連続死亡事故を調査する大学教授の前に現れ、事故の謎に関わる自然現象の予知をしてみせるミステリアスな女性にふんした広瀬が、初めて組んだ櫻井や三池監督との仕事について、さらには20歳を目前に控えた現在の心境を明かした。
櫻井翔の不思議な魅力
Q:お芝居では初共演となりますが、主人公の青江教授を演じた櫻井さんの印象は?
もともと、「嵐」というイメージがあったので、どんな感じの方だろうと思っていましたが、本当に教授のような雰囲気というか、いい意味ですごく普通の人らしさがある方でした。もちろん、カメラの前などでスイッチが入るとすごくリードしてくださるんですけど、OFFになった時は柔らかくて、気を遣わないですむというか。わたしはもともと人見知りなんですけど、翔さんにはそれを感じることがなくて。グイグイくるタイプの方でもなかったけど、会話しだすと話がすごく続くし、話をしていない時も気まずくないんです。いいバランス感というか、不思議な雰囲気を持った方でした。
Q:広瀬さんの演じた円華(まどか)は、青江教授を事件に巻き込んでいく役でしたが、現場での櫻井さんとの関係性が、実際の芝居にも生かされていそうですね。
その存在感に圧倒されていたら、円華が青江教授を掌の上で転がしているような関係性はできなかったと思います。わたしが演じやすいように気を遣ってくださったのかもしれないですし、わたしの方が気を遣わないといけない立場だったのに、そんなことを感じさせずにいい空気を作っていただいたので、翔さんの人柄にはすごく助けられました。それに翔さんは、現場に入ってから芝居を作っていらっしゃるイメージで、わたしも事前に作りこんでいくタイプではないんですけど「これくらいがちょうどいいのかも」と思うほどに、気持ちのいい力の抜き方をされていて。そこから生まれる芝居というものも面白いと思いました。
初参加の三池組の居心地がよかった理由
Q:円華は、自然現象を予知することで青江教授に協力を依頼し、事件の鍵を握る甘粕謙人(福士蒼汰)の行方を追う役どころです。非常に特殊なキャラクターですが、どのように解釈して演じましたか。
自分が求めているものを、言葉よりも行動や態度で表現するというのが、台本を読んだ時の円華の印象でした。謙人を捜す理由も親しくなるまでは青江教授に言わず、謙人に対する思いも細かくは話さないけど、目的があることはちゃんとわかるから、真っ直ぐで強気な女の子だなあと思いました。だから、一見めちゃくちゃなことを言っているように見えても、目的があるとわかるようなセリフの言い回しを心がけました。あと、目に関してはどの作品でも大切にしている部分です。
Q:三池監督と仕事をしてみたかったそうですが、実際に経験した感想は?
『神さまの言うとおり』だったり直感で面白そうと思った作品に三池監督の作品が多かったので、出演してみたかったんです。実際にご一緒すると、細かく演出をされるタイプの方ではなく、まかせてくださるというか、(芝居に対して)OKを出される幅が広く、この瞬間のこのテイクだからこそ生まれたというような芝居を大切にされているイメージでした。
Q:意外にも、世代の近い福士さんとも初共演ですが、共演者の皆さんとの印象的な出来事などはありましたか。
福士くんとは数日しかご一緒できませんでしたが、特に女性のスタッフさんに「福士くん、福士くん」ってよく声をかけられていて(笑)。きっと福士くん自身も人が好きな方なんだろうなと思いました。また、父親役のリリー(・フランキー)さんとも、撮影現場ではお会いする機会がなくて。でも、撮影中にはメールや置手紙をくださったりして、気にかけていただくことで親子としての関係性を意識できたような気がします。
女優としての価値観を決定的に変えた経験
Q:多数の作品に出演してきましたが、今年6月にはいよいよ20歳を迎えますね。初主演映画だった『ちはやふる』シリーズが完結し、公開・放送順としては10代最後の映画『ラプラスの魔女』とドラマ「anone」(日本テレビ系)があり、20歳を過ぎた後には映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(8月31日公開)や、NHKの連続テレビ小説100本目となる来年の「夏空」の撮影も控えていますが、ご自身で成長を感じるようなことはありますか?
10代だからこそできる作品や素敵な作品に運よく出会えて、たくさん得難いことがありましたが、20代になると役の幅が広がる一方、候補となる方の幅もこれまで以上に広がるので、「わたし以上に上手い人はたくさんいるから、きっと埋もれてしまうな」と思っていたんです。でも、撮影順としては10代最後に「anone」に出会ったことで、年齢や役柄って関係ないのかなって、いい意味で自分の中に余裕ができたように思います。これこそがお芝居というもので、それがこんなに面白く、作品作りや本当に楽しいこととはこういうものなんだと知りました。
Q:これまでも撮影現場が好きで、楽しいとおっしゃってきていたと思いますが、その違いとは。
他の現場や作品も、もちろん楽しかったのですが、それは共演者やスタッフの方たちとの楽しさなどが大きかった気がするんです。「anone」もそうそうたる先輩方とご一緒したからでもありますが、お芝居すること自体が本当に楽しかったですし、約4か月も田中裕子さんをはじめ先輩方の演技を間近で見させていただき、すごく刺激的なこれまでにないお芝居に出会った気がして、「あ、何を考えていたんだっけ」と思ったくらい、20代を迎えることへの迷いが軽くなったというか。お芝居をすることがこれまで以上に楽しみになりました。
10代最後は、観たことがない感覚の映画に
Q:撮影は昨年の春だったそうですが、10代最後の劇場公開作品となる『ラプラスの魔女』は、どんな映画だと思いましたか。
撮影現場ではご一緒していない方も多かったので、完成品で初めて観る部分も多く、豊川悦司さんのお芝居に圧倒されたり、客観的に魅力を感じられたように思います。未来を予測するような非現実的なことを扱いながらも、そのつらさなどを描いているので、未来への希望や願望みたいないろんな気持ちが生まれる映画だなと。それに、想像以上にCG描写がすごくて、あまり観たことがない感覚の映画を観た気がしました。また、観る人によっていろんな正解があったり見方ができるこういう作品は、自分が観る上でも、演じる上でも、面白かったです。
Q:ちなみに、広瀬さんにとって「魔女」とはどんな存在ですか。
悪い人じゃないと思います。ちょっと「魔」の部分があるくらいがいいのかなとも思いますし。苦しいこともあるだろうけど、人にはないものを持っていてうらやましがられたりもする。この作品では、人それぞれの「魔女」というものの捉え方の違いも感じることができるんじゃないかなって思います。
数々の映画賞も獲得し、同世代では抜きんでた存在として快進撃を続ける広瀬すず。作品を観るたびに、これからどんな大女優になっていくのだろうと末恐ろしさまでも感じさせられるが、当の本人には今後への迷いや葛藤があったのが意外だ。謙虚さや向上心の表れともいえるし、2015年前後から注目度が増して環境が激変したことへの戸惑いがあったのかもしれないが、10代最後の節目に大きな手応えを得た姿には、頼もしさとさらなる飛躍が感じられた。
(C) 2018 「ラプラスの魔女」製作委員会
映画『ラプラスの魔女』は5月4日より全国公開