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黒澤明が作り上げた伝説の男たち!

 朝10時から、全国の映画館で歴史的名作の数々を連続公開する「午前十時の映画祭」。9回目を迎えるこの映画祭で、『七人の侍』がアンコール上映され、『用心棒』『椿三十郎』と黒澤明監督の代表作の上映も決定した。黒澤が映し出す伝説の男たちは、やはり銀幕こそがふさわしい。(文:浅見祥子)

三船敏郎のギラつく野性がスクリーンからほとばしる

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『七人の侍』 (c)東宝

 まずは15本を超える黒澤映画に主演した三船敏郎だ。日本人離れした端正な顔立ちと的確に構築される演技力が見過ごされがちなほど、彼が登場すると訳のわからないスケール感とギラつく野性が画面からほとばしる。なかでも『七人の侍』の菊千代は配役を知る以前に脚本を読んだ本人が、「これ、俺?」と言い当てたという逸話も残るハマリ役だ。

 改めて『七人の侍』を観ると、画面の密度が濃い。徹底して“汚し”の施された着物、今にも崩れ落ちそうな百姓たちの生活感が漂う家を背景に、どのカットも描くべきものが明確。それを最も効果的に見せるために考え抜かれた構図の中、ほんの脇役までもが大画面で観るべき面構えで立っている。絵画のように画面をしっとりと濡らす雨、そこに映る現実をすーっと白く煙らせる土ぼこりまでもが美しい。

三船の傑作キャラ『用心棒』『椿三十郎』の三十郎にシビれる!

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『用心棒』 (c)東宝

 そんな三船が黒澤とつくり上げたもうひとつの傑作キャラクター、それが『用心棒』『椿三十郎』に登場する素性の知れない浪人だ。『用心棒』では思い付きで“桑畑三十郎”と名乗るこの男を、三船は重石のようにどっしりと揺るぎなく演じる。歩き方からして『七人の侍』の菊千代とは別人で、三十郎は懐手をしてドスドスと大股に、でもよく見ると剣の達人らしく上半身が上下動せず、すっと移動する。その演技は緻密なのだ。

 三十郎が流れ着いた宿場町は、ヤクザ者同士の抗争でゴーストタウンと化していた。その中には当時のハーフタレントであるジェリー藤尾(知らないよね~)やジャイアント馬場みたいな(知らないかな~?)2メートルはありそうな大男までいて、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を思わせる無国籍感さえ漂う。

 そう、『用心棒』はまるで西部劇だ。町にはいつも強い風が吹いている。そこへ腕の立つ流れ者がやってきて、町の抗争を集結させて去る。ここで三十郎が出会うもう一人の腕利きが、仲代達矢演じる卯之助である。卯之助はストライプの着物に回転拳銃を構え、首元にはシャレたスカーフを巻いたバタ臭い存在。公開当時28歳、三船より12歳年下の若造だが、その眼光の鋭さは隠しようもない。モノクロの映像ではその瞳の白がより際立ち、三船とは異なる光を放つ。三船の一撃必殺な殺陣は更に鋭さを増し、そもそも拳銃が武器の卯之助を演じる仲代は分が悪いのだが、クライマックスの直接対決はそのかっこ良さにしびれてしまう。

『用心棒』の興奮冷めやらぬままの続編『椿三十郎』が観られる

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『椿三十郎』 (c)東宝

 『用心棒』で「あばよ!」と立ち去る三十郎の後姿を見送り、その興奮冷めやらぬうちに『椿三十郎』が観られるとは。この映画祭がなかったら不可能だったろう。『用心棒』の三十郎は例の肩甲骨をごりごり言わせる癖もそのままに、またも思い付きで“椿三十郎”と名乗って戻ってくる。今度の三十郎は、正義感にあふれるどこか頼りない若侍たちが不正告発に立ち上がるのを成り行きで手助けすることに。

シャレ者一転キレ者に変化する仲代達矢のスゴみ

 9人の若侍のリーダー的存在である井坂伊織を演じるのが加山雄三だ。まさに若大将! なさわやかさと笑顔の切れ味は極上で、のちに大スターとなるのも納得である。彼らの前に立ちはだかるのが、仲代演じる室戸半兵衛。『用心棒』のシャレ者から一転、今度の仲代はエンターテインメントらしい明快さとコミカルな味付けも楽しい空気の中で揺るぎなくシリアス。一見で三十郎に興味を持ち、敵対する関係になりながらも互いに捨ておけない人間と認め合うからこその交流が生まれる。二人のシーンには演技者としてスゴ腕同士らしい、ただごとでない緊張感が漂う。

名作娯楽時代劇を4Kリマスターで観る醍醐味

 黒澤監督が俺の才能を見ろ! 的気迫に充ちた息をのむ力作『七人の侍』、西部劇のようにクールな『用心棒』、華やかでコミカルな娯楽時代劇の一級品『椿三十郎』。4Kリマスター版だと『用心棒』で宿場町を渡る風の音は違う響き方をし、『椿三十郎』の有名なラスト、すさまじい勢いで吹き飛ぶ血潮はDVDやブルーレイどころではない赤で画面を染めるかもしれない(モノクロだけど!)。それを観て改めて黒澤明の巨大な才能に一瞬言葉を失い、興奮気味にその感想を語りたくなるかも。いずれにしろそれは映画好きにとって、至福と呼べる時間になるだろう。

永遠の名作ぞろい!な映画祭の予告編

「午前十時の映画祭9 デジタルで甦る永遠の名作」は全国58劇場にて毎朝10時開映中
オフィシャルサイト

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