『BLEACH』福士蒼汰 単独インタビュー
世界的人気漫画を実写化する責任
取材・文:高山亜紀 写真:日吉永遠
日本のみならず、世界中に愛読者がいる「BLEACH」。これが初の実写映画化とあり、公開前から多くの期待が寄せられている。主人公の高校生・黒崎一護を演じるのは福士蒼汰。『図書館戦争』シリーズで組んだ佐藤信介監督との久々のタッグに「自分でいいのかなと思った」と謙遜するが、いまや主演映画が目白押しで、邦画人気を支える一人である。世界的人気漫画を実写化した大作の主演という重責をどう担い、払拭しているのか。率直な思いを打ち明けた。
鏡を見ると自分じゃないみたいだった
Q:超人気漫画の実写化とあり、世界中が注目していると思います。オファーがあったときの気持ちを教えてください。
原作が日本国内のみならず海外でも読まれている大人気漫画なので、実写化が発表された際に、アメリカ人の友だちからも「やるんだって?」というすごくテンションの高いメールが届いたんです。世界観がすでに完成されている原作を実写にするということを皆さんがどう受け止めるのか。「実写版のここがよかったね」と言ってもらえる作品にしなくてはいけないとすごく責任を感じました。一方で、期待もありました。生身のアクションや音の迫力を劇場で楽しめる良さがあるのは実写版ならではです。『BLEACH』はそれを味わうのにふさわしい題材なので、楽しみでした。
Q:そうした重責や重圧をどのようにはねのけましたか?
一つずつ丁寧に、作っていくしかないなと感じました。まずは見た目、衣装合わせの段階からとことんこだわって、漫画にできるだけ寄せる。そういうところから始まって、台本を読みこんで、一つずつ積み上げていくような作業をしていくうちに「これしかないだろう」と思えるようになってきたんです。責任はずっとありますが、プレッシャーからは少しずつ解放されていきました。
Q:役のために髪の毛の色も変えましたね。
髪を短くして、脱色して色を入れました。鏡を見ると、自分じゃないみたいでした。
Q:いつもよりテンション高めになりました?
自分では気付きませんでしたが、もしかしたら、テンションは若干高かったかもしれません。かつらという手もありましたが、なじませたいなという気持ちがあったんです。死神ならいいですが、人間の役なので、自分の毛でやることで日常性、リアリティが出るんじゃないかと思いました。やってみてよかったです。自分でも気に入っていました。
普通の刀と特殊な剣との違い
Q:高校生を演じるのはどんな気持ちでしたか。
一護はすごく大人びている印象があって、原作を読んでいても普通の高校生には見えなかったんです。なので、幼く演じるのではなく、逆にいまのままで、制服を着ることによって視覚的に高校生に見えればいいなと思いました。
Q:ちゃんと高校生に見えました。
(撮影が)2年前だからでしょうか。制服はそんなに着る機会は多くないのですが、役で着るとなると全然違和感がないです。
Q:死神が使う特殊な“斬魄刀”でのアクションはとても体力がいりそうですね。どんな準備をしたんですか。
撮影前のアクション練習で、まず、斬魄刀、大きい刀の使い方に慣れなくてはなりませんでした。普通の刀と違って大きいから、すぐに地面をこすってしまうし、重いから手の返しが普通のものより1秒ほど、余計にかかってしまうんです。でもそれだと動きがゆっくりになってしまう。おまけに実際には刀を受けて、よけることがシンプルな動きだけでできちゃうから、アクションとしてすごく地味なんです。だから、漫画やアニメみたいな迫力が出るように、どうやったら派手に見えるかを考えました。
Q:具体的にはどんなことをしたんですか。
例えば、あえて一手多く刀を返す。普通なら、左右から来ても刀のレンジが広いので、ちょっと手を横に動かすだけで斬魄刀なら受けられるんです。それを手首をくるりと返して、受けたり、両手でやってみたり。だから、受け方も持ち方もけっこうバリエーションを多くしているんです。そうやってアクションの動きを出していました。
Q:普通の刀のアクションとはまったく違うものですか?
まったく違いました。とはいえ、自分はそもそも純粋な日本刀を使ったアクションはほぼやったことがありません。『無限の住人』のときも鎌首の斧のような武器でしたし、『曇天に笑う』も鉄扇でしたし、今回は巨大な刀。特殊な武器の方が慣れているのかもしれません(笑)。
杉咲さんがルキアでよかった
Q:杉咲花さんは『無限の住人』のときと違って今回は相棒役ですね。
杉咲さんとはこれまで何度か共演させていただいているので、すごくやりやすかったです。自分が尊敬する女優さんの一人です。杉咲さんがルキアでよかったと撮影中も思いましたし、完成したものを観て、映像を通して受ける凛とした雰囲気やルキアの人間味を感じて、よりそう思いました。
Q:主演として、現場の空気を作ろうと意識するようなことはありましたか。
今回はそこまで主演として現場を引っ張るという感覚はなかったです。共演の皆さんそれぞれが自分の足で立っている方々だったので。杉咲さんは年下でも役者としては先輩。自分が一番後輩のような意識でいたので、引っ張っていこうというよりは、自分は自分でいよう、一護でいようという感覚が強かったです。だからこそ、個々がすごく際立っている印象があって、それぞれの“我”の強さが引き立っている。それがまた、『BLEACH』という大作にぴたりとはまってよかったと思います。
主演としてより多くのことに関わりたい
Q:「撮影現場でこういよう」というようなことは最初から考えているのでしょうか。
決めていくときもありますが、『BLEACH』のときはあえて何も考えずに入ったかもしれません。でも「作品のより多くの部分に関わっていきたい」という思いはあったので、監督にあらかじめ「キャラクターデザインを見せてください」とお願いしたりしてイメージを共有させていただきました。監督とは以前、別の作品でご一緒したことがあったので、今回はしっかりコミュニケーションをとらせていただくことができたと思います。
Q:「関わっていきたい」というのはそれだけ今回が特別な作品だということですか。
実はいつもどの作品でもそう思っているんです。でも、主演という立場でなければ、そこまでするのは作品によっては違うかもしれないと思いますし、主演だとしても、初めてご一緒させていただく監督やプロデューサーさんだと最初は一歩引いてしまう自分がいるんです(苦笑)。でも、今回はおなじみのスタッフさんが多かったので、自分もその場にいやすかった気がします。
Q:佐藤信介監督には『図書館戦争』シリーズからの成長を見せられましたね。
そこはちょっと緊張もしました。『図書館~』1作目のときは自分は10代でした。だけど、今回はそこから数年を経ての主役。正直「自分なんかが主役として佐藤監督の映画に出ていいのかな」という思いも最初はちょっとありました(苦笑)。
決して「俺が俺が」という性質ではない。福士はむしろ「俺はいいから」とみんなの後ろで、ほほ笑んで見守っているようなタイプ。それなのに隠しても隠し切れない、この華はどこからくるのだろう。主演映画を何本もこなし、25歳とは思えぬ貫禄も出てきた。恵まれた容姿、特に長い手足で繰り出すアクションの美しさと迫力が大きな武器。国内外のファンがいまかいまかと待ち構えている本作の公開。彼の魅力に世界がときめくのも時間の問題だ。
映画『BLEACH』は7月20日より全国公開