なぜスパイダーマンの役者は15年で3人もいるのか?
スパイダーマンの魅力とは(連載第2回)
アニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』、仮称『アベンジャーズ4』、『スパイダーマン:ホームカミング』の続編『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』とスパイダーマンの新作が来年に控える中、改めてスパイダーマンの魅力に迫ります。第2回の今回は、過去3シリーズで役者を3人起用したワケとは。(文:杉山すぴ豊)
1.主演を2回も変えすぎ?
2002年のサム・ライミ監督×トビー・マグワイア主演で始まったスパイダーマン映画ですが、2017年のジョン・ワッツ監督×トム・ホランド主演『スパイダーマン:ホームカミング』に至るまで計6本が作られています。
・サム・ライミ監督×トビー・マグワイア主演
『スパイダーマン』(2002)
『スパイダーマン2』(2004)
『スパイダーマン3』(2007)
・マーク・ウェブ監督×アンドリュー・ガーフィールド主演
『アメイジング・スパイダーマン』(2012)
『アメイジング・スパイダーマン2』(2014)
・ジョン・ワッツ監督×トム・ホランド主演
『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)
15年で6本、しかし2回もスタッフ、キャストを刷新しての展開です。
※スパイダーマンが他のヒーローと共演する『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)はここには入れていません。
なぜこんなに頻繁に変えるのか? 例えばヒュー・ジャックマンが『X-MEN』シリーズのウルヴァリン役を17年、ロバート・ダウニー・Jrが『アベンジャーズ』シリーズのアイアンマンを10年演じ続けていることを考えると変えすぎですよね。
2.スパイダーマンは高校生だから…
これはスパイダーマンというキャラの特性によるものなのです。“悩める高校生ピーターが特殊なクモにかまれて超能力を得る”これがスパイダーマンなわけですが、アメコミの中でも極めて異例なヒーローでした。というのも10代の若者が主役という作品はほとんどなかったのです。
例えばバットマンの相棒ロビンとかスーパーマンのいとこスーパーガールとかはいたけれど、ティーンのヒーローというのはだいたい大人のヒーローの助手的な位置づけだったのです。従ってスパイダーマンの物語というのは必然的に青春ドラマテイストになるわけですね。
なので若者に演じさせた方がいいのです。最初の『スパイダーマン』(2002)のトビー・マグワイアは伊藤英明さん、またアンドリューは二宮和也さんと同い年です。伊藤さん、二宮さんに10代の若者を演じさせるには無理がありますよね(笑)。
そして若者の悩みというのも時代とともに変化します。例えばトビー版ピーターは典型的ないじめられっ子で、ジャイアンみたいなクラスメイトであるフラッシュ(ジョー・マンガニエロ)のかっこうの餌食ですが、トムホ版ピーターは、どちらかというとスネオみたいなジャイアンにネチネチ、いじられています。アンドリュー版ピーターはおそらく3人の中では一番美男子ですが、顔がいいからって悩みがないわけではない。
アンドリューがFacebook創設者マーク・ザッカーバーグらを描いた『ソーシャル・ネットワーク』(2010)に出ていたのが象徴的で、勝ち組っぽい若者たちにも悩みがあるのです。つまり“悩み=いじめられっ子の専売特許”ではないのです。
3.時代に合った若者像
恋人との関係も三者三様で、トビー版はヒロインに対しずっと片思い状態で昔ながらのすれ違いラブストーリーです。一方、アンドリュー版はヒロインが主人公をサポート。対等な男女関係を見せてくれます。そしてトムホ版ではダイバーシティー(多様性)を意識してか、ピーターの恋する相手は黒人の女の子です。
繰り返しになりますが、スパイダーマンというのは“悩める若者ヒーロー”であることは変わりません。この定義は変えず、時代時代に合った若者像を反映させていく必要があるので役者や設定を頻繁に変えているのです。
なおトムホ版とトビー版、アンドリュー版の一番大きな違いは、スパイダーマン以外にもヒーローがいる世界かどうか? ということです。トムホ版は、大人のヒーローたちがいる世界の中で早く認められたい、一人前になりたいとあがいています。逆に言えば、他のヒーローにはない若者目線をスパイダーマンは持っているのです。
アベンジャーズを核とするマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)がなぜトムホ版スパイダーマンを必要としたのか? それは10代の観客を獲得していくための水先案内人としての役割を期待しているのでしょう。
では、この先、トムホ版スパイダーマンはどうなっていくのか? 次回はそのあたりを考察してみましょう。
杉山すぴ豊(すぎやま すぴ ゆたか)プロフィール
アメキャラ系ライターの肩書でアメコミ映画についての情報をさまざまなメディア、劇場パンフレット、東京コミコン等のイベントで発信。現在「スクリーン」「ヤングアニマル嵐」でアメコミ映画の連載あり。サンディエゴ・コミコンも毎年参加している。来日したエマ・ストーンに「あなた(日本の)スパイダーマンね」と言われたことが自慢。