手の届くラグジュアリー、COACHをまとった7人のセレブたち
映画に見る憧れのブランド
1941年、ニューヨーク・ソーホーのロフトで生まれたCOACH(コーチ)。「馬車」という意味のあるコーチは、ステッチが馬具箱に似ていることから創始者であるカーン夫妻が名づけました。6人の皮革加工職人からスタートしたコーチは、いまや全世界で直営店を954店も展開し、日本の高級バッグ市場では業界2位を占めるほどに成長しています。
手が届く高級品と呼ばれ、世界中の人々に愛されるコーチを映画や広告でまとった7人のセレブをご紹介しましょう。(店舗数は2016年7月2日現在 ※1 ※2 ※3)
1:『ある愛の詩』(1970年) アリ・マッグロー
1962年、野球のグローブに使われる革の手触り、輝き、使い込むほどに柔らかくなる特性にインスピレーションを受け、カーン夫妻はグラブタンレザーを開発しました。グラブタンレザーを使った耐久性のよいハンドバッグは、寒いアメリカ東海岸で重宝され、女性の間で大人気になりました。
品質の高さで評判になったコーチのバッグは、『ある愛の詩』でアリ・マッグローが持ったことで、若い女性たちの間でブームに。ヒッピーの時代と言われていた当時ですが、東海岸の大学生で実際にヒッピーファッションをまとう人はほんの一部。本作の主人公であるハーバード大学生のオリバー(ライアン・オニール)とラドクリフ女子大のジェニー(アリ)のように、上質な服をカジュアルに着崩すプレッピールックが主流だったのだとか。
劇中、オーバーサイズのコートのウエストをキュッとしめて襟を立たせ、コーチのバケットバッグを手に持ったアリのスタイルは、若い女性のオシャレのお手本になりました。その結果、プレッピールックに合うクラシックでシンプルなバケットバッグはベストセラーになり、コーチは10代や20代の女性の顧客を取り込むことに大成功しました。
2:『羊たちの沈黙』(1991年) ジョディ・フォスター
1980年、コーチは初めてカタログ通販を展開。これはファッション業界においてマルチチャネル販売の先駆けとなり、アメリカ全土にコーチの製品は知れ渡りました。
アカデミー賞の主要5部門すべてを独占した大ヒット映画『羊たちの沈黙』で、FBI訓練生のクラリス(ジョディ・フォスター)が、刑務所にいるハンニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)との面会で持っていた茶色のバッグが、コーチのシティバッグ。レクター博士がドア越しにクラリスの匂いを嗅ぎ、石鹸や香水のブランドを当て、「高価なバッグに安物の靴とは野暮な格好だ。都会にあこがれる田舎娘といった感じだ」と分析するシーンがあります。
クラリスのような若い女性でも購入できる“手に届く高級品”というポジショニングはコーチ独自のもの。既存の高級ブランドであるグッチやルイ・ヴィトンのバッグは10万円以上、シャネルは20万円以上、エルメスはさらに高価です。一方、大衆向けのバッグは1~3万円が価格帯だと言われています。中には高価格のバッグもありますが、基本的に、コーチは高級と大衆の間にある“すきま市場”をターゲットとし、5万円~10万円の価格帯の製品に集中しているのです(※3)。
3:「オール・アイ・ハヴ」(2001年) ジェニファー・ロペス
ジェニファー・ロペスがアルバム『ディス・イズ・ミー…ゼン』からのシングルカットでリリースした、LL・クール・Jをフューチャーした楽曲「オール・アイ・ハヴ」のミュージックビデオにもコーチが登場。ジェニファーが、コーチのボストンバッグに荷物を詰め込み、一緒に暮らす恋人LL・クール・Jの元を去るストーリーです。
このボストンバッグは、2001年に誕生した、“C”のロゴをモノグラムで布地に織り込んだシグネチャー・コレクションのもの。
創業以来、右肩上がりだった売り上げが停滞し始めたのが1990年代半ば。1980年代に流行したキャリアウーマンのスーツスタイルが、1990年代に入り、よりスタイリッシュでカジュアルなファッションに変化したことで、バッグをファッションアイテムとして取り入れる女性が増えたことが原因でした。シンプルで重厚なバッグよりも、軽量でオシャレな“itバッグ(旬のバッグ)”を持つことがトレンドになったのです。この消費者のニーズに応えて作ったシグネチャー・コレクションは爆発的な人気となり、コーチは華やかなブランドに生まれ変わりました(※4)。
4:『ブライダル・ウォーズ』(2009年) アン・ハサウェイ
ニューヨークでそれぞれ結婚式を控えた親友のリヴ(ケイト・ハドソン)とエマ(アン・ハサウェイ)が、ブライダルコーディネーターの手違いで、結婚式を同じ日にダブルブッキングされてしまったことから起きる女同士の争いをコメディーに仕立てた『ブライダル・ウォーズ』。2人ともプラザホテルで結婚式をあげることに固執し、どちらかが式を譲るまで壮絶な嫌がらせをし合います。
この時に、エマが持っているのがコーチのGigiレザートート。トートの外側にポケットやジッパーがついたバッグは、2006年に創業65周年を記念して発表されたレガシーコレクションから。このコレクションは、1962年から1977年までコーチの製品開発を担当した伝説のデザイナー、ボニー・カシンのデザインからインスパイアされたもの。スーパーの買い物袋から発想を得て、平らなバッグの外側に小銭入れやポケットがついたショッピングバッグを考案し、大ヒットとなりました。
書類やお弁当箱を入れられるGigiレザートートは、小学校の教師を務めるエマにぴったり。一方、やり手の弁護士として働くリヴは、コーチよりも高級なTOD's(トッズ)のT-bagトートを持っており、2人のライフスタイルの違いをバッグからうかがい知ることができます。
5:コーチ生誕70周年の広告塔(2011年) グウィネス・パルトロー
ウォッチライン、フットウェアライン、ニットウェア、ジュエリー、フレグランスとラインを広げ、日本や香港でも大成功し、北米、日本、中国本土の事業を三本柱にしてブランド力と収益を高めたコーチ。そこには、すべてのラグジュアリーアイテムを消費者に提供するという戦略がありました(※4)。
2011年の生誕70周年にはグウィネス・パルトローを広告塔に起用。『恋におちたシェイクスピア』(1998年)でオスカー女優となったグウィネスはその後も『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001年)や『アイアンマン』(2008年)シリーズなどヒット作に恵まれました。2008年にはヘルシーなライフスタイルを打ち出したウェブマガジン「goop」を立ち上げて、2011年には料理本を出すなど、多方面で活躍する2児の母でもあるグウィネス(※5)。
そのストイックすぎるライフスタイルや歯に衣着せぬ言動で、2013年にはタブロイド紙に最も嫌われているセレブに選ばれてしまった彼女ですが(※6)、キャリアと育児を両立させながら確固たる信念をもち生きる姿が多彩で強い現代の女性を体現するからこそ、コーチの顔に選ばれたのでしょう。
6:広告モデルに起用(2015年) クロエ・グレース・モレッツ
2013年、元ロエベのイギリス出身デザイナー、スチュアート・ヴィヴァースを新しいクリエイティブ・ディレクターに迎えたコーチ。この頃のコーチは、値下げに頼った販売戦略のせいで、ブランドイメージが低下していました。そんなコーチのブランドイメージを一新するために、ヴィヴァースは若々しくスタイリッシュなデザインと豊富なカラーバリエーションを展開。
そして、2015年には自由な精神とのびのびとした生き方を表現するクロエ・グレース・モレッツを広告モデルに起用しました(※7)。クロエはこの時、18歳。5歳の頃から子役やモデルとして活躍した後は、『キック・アス』(2010年)シリーズ、『モールス』(2010年)、『キャリー』(2013年)など話題作に出演し、米タイム誌で2014年の最も影響力のある25人のティーンに選ばれました。現在21歳となる彼女は、女優としての実力を磨きながら、ボディイメージやフェミニズムについてSNSで積極的に発言する、意識の高い若者を代表しています。
加えて、2015年に広告モデルに着任したのは、なんとレディー・ガガのフレンチブル、Miss. Asia Kinney。空前のペットブームの中、ペットのいる顧客を喜ばせると共に、時代の最先端を行く“エッジが効いた”ブランドイメージを高めることに成功しました。
7:バッグとアパレルラインをコラボ(2016年~) セレーナ・ゴメス
2016年にアンバサダーに就任したセレーナ・ゴメスとコラボしたバッグコレクションセレーナ・グレースを2017年に打ち出したコーチ。翌年2018年にアパレルラインもコラボすると発表しました。
子役として活躍していたセレーナは12歳のときにディズニー・チャンネルに見出され「スイート・ライフ」「シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ」「ウェイバリー通りのウィザードたち」などに出演し、一躍ティーンスターの座に上り詰めました。同時に、ミュージシャンとしても大成功。
2016年には、若干24歳にして、史上初めてインスタグラムで1億人のフォロワーを獲得した人物に。翌年には、米タイム誌世界を変える46人の女性の表紙を飾りました(※8)。歌手業や女優業だけではなく、ユニセフ親善大使を始め様々な慈善事業に貢献するなど、スタイリッシュで国際的、教養があり自己啓発に熱心な彼女は、コーチが理想とする女性なのです。
創始者カーン夫妻に続き、“2人目の創始者”と呼ばれた前CEOルー・フランクフォートはこう語りました。「私たちはコーチのブランドや製品が、まるで親しい友人のようにつねに人々の傍らにいて愛されることを願っています。(中略)コーチそのものが、私たちの顧客の最高の姿を現しているーーそうあればいいと願っています」(※4)。
1941年の創業以来、質実剛健な革製品メーカーからファッショナブルなトータルブランドへと飛躍したコーチ。あるときは消費者を追って変化し、あるときは消費者の先を進みながら、時代の変遷に伴い消費者と一緒に成長してきました。同じ場所に留まらず、未来に目を向けて進化し続けるコーチの価値観。これこそが、私たち女性が手に入れたいラグジュアリーなのでしょう。
【参考】
※1 COACH 公式プレスリリース
※2 ZUU Online
※3 ゴマブックス「COACHがGUCCIより売れてるって、本当ですか?」鈴木宣利著
※4 小学館「コーチ 進化するブランド」コーチ・ジャパン株式会社
※5 Mail Online
※6 People
※7 Bustle
※8 TIME
此花さくやプロフィール
「映画で美活する」映画美容ライター/MAMEW骨筋メイク(R)公認アドバイザー。洋画好きが高じて高3のときに渡米。1999年NYファッション工科大学(F.I.T)でファッションと関連業界の国際貿易とマーケティング学科を卒業。卒業後はシャネルや資生堂アメリカなどでメイク製品のマーケティングに携わる。2007年の出産を機にビジネス翻訳家・美容ライターとして活動開始。執筆実績に扶桑社「女子SPA!」「メディアジーン」「cafeglobe」、小学館「美レンジャー」、コンデナスト・ジャパン「VOGUE GIRL」など。海外セレブのファッション・メイク分析が生きがいで、映画のファッションやメイクHow Toを発信中!