「ウォーキング・デッド」ニーガンの魅力~知的能力が高い策略家
ウォーキング・デッドの魅力
「ウォーキング・デッド」シーズン9の放送開始の前に、主な登場人物たちの魅力をもう一度、振り返っておこう。 第4回目は極悪なのに、知的能力が高く策略家で独自の強烈な魅力を持っているニーガン(ジェフリー・ディーン・モーガン)。(平沢薫)
※ご注意※ なおこのコンテンツは「ウォーキング・デッド」シーズン8までをがっつり観た人向けですので、未見の場合は衝撃のネタバレが含まれることがあります! ご注意ください。
ウォーキング・デッドの魅力 連載第4回 ニーガン
意外なことに、元の職業は教師!
極悪。なのに、独自の強烈な魅力を持っていることを否定できない。そんな複雑なキャラクターが、"聖域"を独裁的に支配するリーダー、ニーガンだ。彼の以前の職業は、TVシリーズでは明言されず「子供たちを手助けしていた」と言うだけだが、原作コミックでは、元は学校の教師で卓球のコーチ。TV版にもニーガンが卓球をするシーンがあり、"聖域"の住民たちに向かって演説する様子も教師風なので、TV版も同じ設定だとしてもおかしくない。
物理的、精神的にダメージを与える達人
彼はまず、極悪な敵キャラとして登場する。それを強烈に印象づけるのが、グレンを惨殺するシーン。しかも、縄で縛りあげた無抵抗な相手を、有刺鉄線を巻いたバットで殴り殺す。このシーンの暴力描写は、全エピソードを通してもっとも過激で、インパクトがありすぎた。
もうひとつ、彼の極悪非道ぶりを印象づけたのは、カールを捕まえた時のいたぶり方。カールは片目を失ってからは傷跡を包帯で隠しているが、ニーガンは面白がるような口調で、カールに包帯を外すように言う。カールが外すと、「こりゃ、すげえ!気味が悪いぜ、そりゃ隠すよな。鏡を見てみろ。最悪にグロテスクだ」と嘲って、さらにカールを傷つける。なおも「触らせてくれよ」といい、カールが泣いてしまうと「傷つけるつもりはなかった」と言いながら、さらに「何か歌ってくれ」と要求。「部下を殺された対価として、何かが欲しい」とバットを押し付け、カールに「ユー・アー・マイ・サンシャイン」を歌わせる。
このシーンからも、ニーガンが得意なのは物理的な暴力だけではなく、相手を精神的に傷つける技術に優れていることがわかる。彼は、身体的暴力と精神的暴力の双方で共同体の人々の精神を操っているのだ。
リーダーをする理由は「人は俺が救わないとクズになってしまうから」
その一方で、知的能力が高く、策略家。例えば"聖域"の住民たちを支配する方法も、人々を労働者層と支配者層に分離し、互いに反目させる。また、支配者層のメンバー全員に日頃から「俺(私は)ニーガンだ」と唱えさせて、リーダーへの反抗心を持たせないようにする。彼の統治術はかなり知的なのだ。
そんな人物なのに、意外なことに、彼がリーダーでいるのは自分のためではない。彼の理論では「人々は、俺が救わないとクズになってしまうから」なのだ。彼の言葉によれば、彼が"聖域"に来た時、前のリーダーは集団を統率できず、武器を持った住民たちが好き勝手をしていた。そこで彼が現在のような仕組みを作り、各自が自分に適した方法で集団に貢献し、共同体を長期的に持続できるようにしたのだという。だとすれば、ニーガンの行動は彼自身のためだけのものではない。彼は、ただの独裁者ではないかもしれないと思えてくる。
愛用バット"ルシール"に泣ける物語が
そして、彼にも人間的な部分がある。それを痛感するのは、彼が亡き妻について語るとき。彼が愛用する有刺鉄線を巻きつけたバットの名前、ルシールは、彼の妻の名前なのだ。ニーガンは嘘をついて妻を裏切り、そのあとで彼女は病死した。その時はウォーカーのいる世界になっていたが、ニーガンは、動き始めた妻の死体を倒すことができなかった。それを自分の弱さのせいだと考えたニーガンは、愛用のバットに妻の名前をつけて、自分の弱さを監視させているのだ。凶悪なニーガンに、こんな人間的な部分があったとは。
シーズン8のラストでもニーガンは生きている。シーズン9ではどんな役割を果たすのか、この人物からはまだ目が離せない。
原作コミックでのニーガン
設定は同じ。彼のトレードマーク、ルシールという名前のバットも、黒い革ジャンも同じ。ルックスは少々違い、原作ではヒゲがなく、体型は少々太り気味だ。
一方、最終決戦でリックと1対1で対決するときの会話はかなり違う。TV版では、リックがカールの残した言葉を引用して戦う必要はないと主張し、ニーガンが否定する。原作では、リックは各共同体が個別に生産して商取引きする新世界の構想を語り、ニーガンはその構想に賛嘆し「お前が正しい」と言う。その瞬間、リックがニーガンの喉を切るのは、TV版も原作も同じ。だが、原作の方がニーガンの論理的かつ現実的な性格がよくわかる。
【この人にも注目 エゼキエル 】
虎と共に行動する"王国"のリーダーは、元は動物園の飼育係でアマチュア役者。彼は、人々が彼に対して抱いたイメージ、"虎を手なずけた勇者"を演じることで、リーダーを求める人々の心をひとつにまとめる。人々の心理に働きかけるという統治法はニーガンと同じだが、共同体の雰囲気は真逆。人々は、シェークスピア劇の登場人物のような気高い王を尊敬し、王国のため自発的に働く。
原作コミックでのエゼキエル
設定や風貌は同じだが、周囲の人々はTV版の方が多い。原作には、彼が育てている友人の息子たち、ベンジャミンとヘンリーや、アジア系のいつも笑顔の忠実な部下ジェリーが登場しないので、彼らとのドラマがない。
次回はミショーン! お楽しみに!
【ウォーキング・デッドキャラの魅力解剖連載予定】
vol.0 「ウォーキング・デッド」シーズン9を前に魅力を再確認!
vol.2 ダリル・ディクソンの魅力~無口な一匹狼なのに優しい
vol.3 マギー・リーの魅力~愛することで強くなっていく愛の人
vol.4 ニーガン
vol.5 ミショーン
vol.6 ユージーン ・ポーター
vol.7 キャロル・ ペルティエ
vol.8 リック・グリムス