マーベル・シネマティック・ユニバースに登場する一筋縄ではいかない悪役たち
2008年の『アイアンマン』より幕を開けたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)は、ヒーローの誕生を描くと共に、数多くの個性的なヴィラン(悪役)も誕生させてきた。ヒーローが現れれば、ヴィランものさばるようになるというのは必然であり、もはや互いの好敵手として物語には欠かせない存在だ。「良い作品は悪役で決まる」という言葉が存在するように、MCU作品が世界的に大ヒットを記録している背景には、やはり悪役たちによる力が大きいと言っても過言ではないだろう。2018年で10周年を迎え、地球だけにとどまらず、宇宙にまで話が及ぶようになったMCUに登場するヴィランたちはどのような活躍をみせてきたのだろうか。今回は、とりわけ直近の作品に登場した印象的な悪役と今後の展開からも目が離せないキャラクターたち5人に注目してみよう。(文:zash)
歪んだ性格の悪戯の神=ロキ(初登場:『マイティ・ソー』)
ロキはアベンジャーズのメンバーである雷神ソーと共にアスガルドの王子として育った。幼少期からソーに対しての劣等感を抱きながらも、ともに成長してきた2人だったが、弟のロキは虎視眈々(たんたん)とアスガルドの王座を我が物にしようと狙っていたのだ。父にしてアスガルドの王であるオーディンより、自身がアスガルドと敵対関係にある氷の巨人族が治めるヨトゥンヘイムの王の子供であり、生まれて間もなくオーディンにより拾われた義理の息子だと知らされると、アスガルドの王座をより強く求めるようになる。血族であるソーに王位継承権があることから兄を陥れようと画策。地球へと追放されたソーの抹殺を企み、ニューヨーク決戦をも引き起こす。変幻自在に姿を変えられる魔法や分身術、さらには決して信用できない狡猾な性格の持ち主であることから、悪戯の神の異名を持ち、幾度となくソーやアベンジャーズの面々を出し抜いてきた。
最凶最悪のヴィラン・サノスとも強いコネクションを持ち、私利私欲のために手段を厭わない男だが、死の女神・ヘラがアスガルドを滅ぼそうとした際には、ソーやヴァルキリーらと共にリベンジャーズの一員として、アスガルドの救世主となった。MCUで最も登場回数が多い屈指の人気を誇るヴィランだ。
ワカンダの王座を狙う死の商人=キルモンガー(初登場:『ブラックパンサー』)
エリック・キルモンガーは、アフリカの小国ワカンダの王ティ・チャカの兄弟ウンジョブとアメリカ人女性との間に生まれ、ワカンダに対して強い憧れを抱く純粋無垢な少年だった。だが、父がティ・チャカの手にかけられ、闇へと葬り去られたことから、彼はいつしかアメリカの特殊部隊に所属するようになり、多くの死体の山を築く。キルモンガー=死の商人と恐れられるようになった彼は、殺した人間の数を身体に刻み込み、目的のためなら恋人さえも犠牲にする冷酷非情な復讐者となり、突如、ティ・チャカの息子ティ・チャラが統治するワカンダへと姿を現す。
世界中を旅することで得た圧倒的な格闘技術と打たれ強さを駆使し、ブラックパンサーの力を手に入れたキルモンガーは、社会から虐げられたアフリカ系を開放するという理想を掲げ、隠ぺい体質の国であるワカンダの力を世に知らしめようとするも、死の淵からよみがえったティ・チャラ=ブラックパンサーにより倒されることとなる。信じた理想のために名誉の死を選ぶ気高さも持ち合わせており、彼の理想がまた、ワカンダという国を変えたのも事実である。
生きるために暗躍する悲しきヴィラン=ゴースト(初登場:『アントマン&ワスプ』)
エイヴァ・スターは、決して私利私欲で行動するヴィランではない。国際平和維持組織S.H.I.E.L.D.(シールド)が進めていた量子トンネルに関する研究に、ハンク・ピム博士と共に携わっていた量子学者のエライアス・スターが、ピムとの確執から設計図を盗み出し自ら研究を進めた結果、事故が起きてしまう。その最中に両親を失い、実体を持たない身体へと変貌してしまったのがエイヴァ=ゴーストだ。当時6歳だった彼女は悲しみに打ちひしがれるが、かつてS.H.I.E.L.D.に所属していたビル・フォスターによりその類まれなる能力を見初められた彼女はS.H.I.E.L.D.の保護下に入る。しかし、その実体を持たない特殊な能力を持つことから、暗殺やスパイ工作などの任務を与えられることが多かった彼女は、いつしか自らが利用されていることに気づき始める。家族を殺され、研究材料として工作員に仕立て上げられたことから、その元凶であるピム博士への復讐を誓った彼女は、肉体を非実体化させ、物体をすり抜ける量子フェージングという能力を駆使するが、その能力には大きな代償が伴う。
耐え難い苦しみにさらされ、自らの肉体を保つことさえも困難な状況にまで追い込まれていた。この苦しみから解き放たれるためには、ピム博士のモバイル研究所内に設置された量子トンネルからエネルギーを得なければならない。ゴーストはビルの協力のもと、生きるために決死の覚悟で、アントマンとワスプの前に姿を現す。
宇宙の均衡を保とうとする最凶最悪のヴィラン=サノス(初登場:『アベンジャーズ』)
タイタン星人であるサノスは、MCUの諸悪の根源であり、最凶最悪のヴィランとして君臨する。目的は宇宙の誕生とともに生まれた6つのインフィニティ・ストーンの奪取であり、その力で人口の半分を減らして、宇通の均衡を保つという歪んだ理想を掲げ、銀河全体を掌握することだけを見据えている。ハルク以上の怪力の持ち主であり、圧倒的な存在感を放つが、「スペース」「マインド」「リアリティー」「パワー」「ソウル」「タイム」の6つのインフィニティ・ストーンをはめ込み、その力を制御できるインフィニティ・ガントレットを装着したサノスには、あらゆる物理攻撃や魔法も通用せず、その強さはアベンジャーズが束でかかっても太刀打ちできないほど。全てのインフィニティ・ストーンがサノスの手中に収まった時、あまりにも衝撃的で、受け入れがたい喪失感が地球を襲う。
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの一人、ドラッグスの家族を皆殺しにし、娘のガモーラやネビュラまでも利用するなど、その無慈悲な性格を恐れられる存在ではあるが、たった一人、養子として迎え入れたガモーラだけは心から愛する存在であり、サノスの弱点でもあった。
ヒドラを創設した赤き悪魔=レッドスカル(初登場:『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』)
ヨハン・シュミットは、ヒトラー率いるナチス・ドイツの将校であったが、四次元キューブの持つ膨大なパワーに魅せられ、その力を利用して世界征服という野望を抱くようになる。未完成の超人血清を投与したことにより、頭部が赤い骸骨のような形状になってしまい、いつしかレッドスカルとして名を知られるようになった。その後に秘密結社ヒドラを立ち上げたレッドスカルはヒトラーのもとを離れ、本格的に始動するが、彼の前にキャプテン・アメリカという超人兵士が立ちはだかる。自身と同じく超人血清により、驚異的な身体能力を手にしたキャプテン・アメリカに圧倒され、最後は四次元キューブの暴走により、消滅した……かに思われた。レッドスカルが創設したヒドラは彼の亡き後も世界で暗躍し続け、アベンジャーズやS.H.I.E.L.D.を苦しませてきた。そして消滅したかに思われたレッドスカル自身は、人知れず、惑星ヴォーミアへと飛ばされ、ソウルストーンの守護者となっていた。
ここで紹介した悪役たちはほんの一部に過ぎず、まだまだ数多くの魅力的な悪役たちが登場する。単に世界征服や宇宙を支配するという目的ではなく、確固たる理想のもとに選んだ道がたまたま悪だったという、一筋縄ではいかない背景を持っているところが魅力と言えるだろう。我々に大きな衝撃を与えた最強の敵・サノスの活躍も大いに楽しみなところだが、今後も続々と登場するであろう新たなヴィランたちの活躍からも目が離せない。