『走れ!T校バスケット部』志尊淳 単独インタビュー
バスケット漬けだった3か月間
取材・文:坂田正樹 写真:高野広美
いじめによってバスケットボールの強豪校を退学した元エース・田所陽一は、心機一転、編入先の弱小バスケ部を立て直し、全国大会出場を目指して奮起する! 実話に基づく松崎洋の青春小説を映画化した本作で、新たな仲間たちと再び夢を追い求める主人公・陽一を志尊淳が熱く演じた。NHKの連続テレビ小説「半分、青い。」や、「女子的生活」「トドメの接吻(キス)」など立て続けに話題作に出演し、今まさに“旬”を迎えた彼が「2日間動けなかった」というハードな試合シーンをはじめ、歓喜と試練が交錯した撮影について語った。
リアリティを体現したい
Q:原作と脚本を読んで、志尊さんの心に一番響いた部分はどこですか?
原作については、実際にあった父と子の出来事をまず、お父様である松崎洋さんが書かれて、シリーズの結末を亡くなった洋さんの遺志を受け継いでご子息の松崎準さんが完結させた、という経緯を聞いて胸が熱くなりました。原作があるものは、実写化する「意味」を考えながら作品に取り組みたいといつも思っているのですが、今回は原作者お二人の思いを胸に「リアリティ」をしっかり体現したいなと思いました。
Q:物語の表舞台はバスケット部ですが、椎名桔平さんと志尊さんが演じる父子関係がしっかり描かれていました。
陽一が成長していく過程のなかで、バスケットを通じた友情や葛藤、苦悩がメインとして描かれていますが、その背景にある家族の存在も、陽一にとってとても大きいんです。母親が亡くなって父と2人、バスケを辞めたいと口にする陽一を父親は静かに受け止めてくれますが、思いやるあまりに「本当のことを伝えられない」もどかしさも互いにあったり……。その繊細な親子関係が陽一をさらに成長させてくれると思ったので、陽一の立場なら同じ感情を抱くだろうなと演技していました。
前を向いて生きることの大切さを学んだ
Q:諦めかけたバスケットに転校先の高校で再チャレンジする陽一ですが、心にさまざまな葛藤を抱えた主人公に何を感じましたか?
綺麗ごとのように聞こえるかもしれませんが、少しでも「前を向いて生きていくこと」の大切さを学びました。もちろん、周囲のいろいろな支えも必要ですが、そういう心構えで生きていくことによって光が見えてくるというか。家族のことを思いながら希望を求めていく陽一の生きざまは、本当に素敵だなと思います。
Q:バスケット部のメンバーそれぞれの成長も感じられますね。
全国大会を目指す物語であるわけですが、決してそれのみがゴールではない。学校を卒業して、メンバーはそれぞれの道に進むわけですから、将来には「チームメイトとともに汗をかいて練習した日々があるから、今の自分が形成されているんだ」ということが感じられるように意識して演じていました。
大会シーンはシュートが決まるまでやり続けた
Q:元バスケットボール日本代表の半田圭史さんから猛特訓を受けたそうですが、かなりきつかったですか?
3か月くらいはバスケット漬けの毎日でした(笑)。半田さんはバスケットのスクールもやられているので、子どもたちを教えるような感覚で指導していただいたんですが、限られた時間で上達しなければならないし、とくに陽一はチームのエースなので大変でしたね。ドリブルやディフェンスなど初歩的な部分はもちろん、それぞれのプレーがよく見えるポイントを伸ばしました。肩が強い、足が速い、体が強い、そういうプラスの部分を見て、各キャラクターのプレースタイルも半田さんに決めていただく感じで、効率のいい練習ができたと思います。
Q:志尊さんのプラスの部分は何だったんですか?
僕は小・中学校と野球をやっていたので、肩の強さですね。だからロングパスが見せ場になりました。ただ、基本的にドリブルは絶対に上手くないと陽一という役は成立しないので、そこに関しては「速さ」を意識して猛練習しました。
Q:一番印象に残った、あるいはきつかった練習は?
半田さんから「では、練習を開始します!」と言われて、みんなボールを持って待機していたら、「今日はボールを使いません」と。ボールを使わずに筋トレ、走り込み、ディフェンスなど、基礎的な体力作りに3~4時間……そういうところから入っていったので、最初はきつかったですね。長い時は6時間くらい! 本当に高校の部活を体感している感じでした。
Q:大会のシーンを撮り終えたあとは2日間くらい動けなかったとおっしゃっていましたが。
最後の全国大会を懸けた試合のシーンは、1日がかりで撮ったんですが、CGや代役を一切使わずに、ゴールの1つ1つが決まるまでやり続けました。入らなかったら、もう一度。その前の動きからやり直しになるので、本当に大変でした。でも、自分たちがやってきた3か月の成果をしっかり出して、できる限りのパフォーマンスをしようと、全力を出し切りました。試合のシーンが2日続いたら、みんな大変なことになっていたと思います(笑)。
可能なかぎり制服は着たい
Q:佐野勇斗さん演じるキャプテン・矢嶋俊介との関係性が「友情」という視点から見ると、男子の胸キュンポイントですよね。
そうですね、陽一も俊介も不器用なので、表向きには「俺がやってやる!」という感じではないのですが、誰かを立てたり、支えたりということが高校生ながらにできているところが素晴らしいと思いました。
Q:俊介をはじめ、ガリ(戸塚純貴)、ゾノ(佐藤寛太)など、バスケット部には個性豊かなメンバーがそろっていますが、志尊さんご自身は誰に近いと思いますか?
うーん、どうですかね……。それぞれのキャラクターで、どこか自分の性格を反映して役柄に落とし込んでいると思うので、僕なら陽一、佐野くんなら俊介、という感じで、それぞれの役に近いんじゃないですかね。現場でキャラクターが完全に刷り込まれているので、僕が誰かほかのキャラクターに似ているとか、今では想像できないです(笑)。
Q:志尊さんは現在23歳ですが、制服を着た青春ドラマ、まだまだやれそうですね。
可能なかぎり、学生役はやりたいですね。着られるうちは制服もぜひ着たいです。お声がかかれば「僕は着るぞ」という感じです。いざ役に入ったら、誰がなんと言おうと「自分は高校生です!」って言い張りますよ(笑)。
出演者全員、決してかっこいいヒーローじゃない。泥臭くても、ダサくても、「こんなカタチの青春だってあるんだ」と胸を張る志尊。体力の限界まで自分を追い込み、無我夢中で走り切った本作は、そんな彼の人間的な持ち味を余すところなく盛り込んだ代表作の一つとなるだろう。「成功しても、失敗しても、それはいつか、絶対自分のためにもなる」……まるで自分に言い聞かせるように作品を語る志尊の真摯な心意気が、バスケットコートで躍動している。
(C) 2018「走れ!T校バスケット部」製作委員会
映画『走れ!T校バスケット部』は11月3日より全国公開